クリエイティブ人材のエージェントビジネス

この23日に開催された日本労使関係研究協会の労働政策研究会議に出席してきました。昨年まで2日にわたっての開催でしたが、今年から1日に短縮し、シンポジウムが減ったかわりに自由論題セッションを3会場にわけて報告数が増えました。
自由論題はいずれも面白そうなものでしたが、まず第2会場の斎藤奈保社会経済生産性本部副主任研究員の「クリエイティブ人材をめぐるエージェント機能の可能性」を聴講しました。まあ、私は正直言って「クリエイティブ人材」なるものにはほとんど関心がなく、当初は米国の企業統治に関する別の報告を聴講するつもりだったのですがいのですが、報告用論文をぱらぱら眺めていたらこの報告の中に「アスリートのマネジメント企業」の事例があったので、その場で気が変わって聴講してみました。
で、聴講してみたら、残念ながらアスリートの話はほとんど出なかったので、その点は期待はずれといえば期待はずれでしたが、いっぽうでなかなか興味深い内容でもありました。あまり知らない分野だけに、食わず嫌いをせずに勉強してみればそれなりに収穫があるものです。内容的にはデザイナーやアーティスト、ディレクター、作家といった、いかにもな「クリエイティブ人材」のエージェント的な企業の聞き取り調査で、デザイナーが集まってデザインを請け負うまたは売り込むデザイン事務所が3社、「クリエイティブ人材」のパフォーマンスを使用して雑誌、CD、放送番組などを企画制作するプロデュース企業が4社、漫画家、作家、アスリートなどの著作権や肖像権を管理したり、契約交渉を代行したりするマネジメント企業が3社紹介されました。その上で、こうしたエージェント機能に期待される役割として、クライアント企業とクリエイティブ人材の間に立って、当面は受発注契約の整備といった管理機能、そして中長期的には代理人としての機能にくわえてクリエイティブ人材の育成といったことが考えられるとしています。また、政策的含意としては、クリエイティブ人材の労働者性チェック、市場形成支援、教育支援などが考えられるとしています。
デザインや商品企画などは経営戦略に直結するだけに内製が主流ではないかと思うのですが、周辺的・派生的な部分は外注もできるでしょうし、新しいアイデアや刺激を得るために内製と外注を併用することもあるでしょう。企画制作となると、たとえば新商品の記者発表会などの大型イベントなどは専門業者の力を借りるケースがほとんどかもしれません。社内報の編集を外注化する企業も増えているといいます。こうしたエージェント企業はこれからの成長分野なのかもしれません。ただ、事例をみると企業として成功するかどうかは結局のところそれなりに成功したクリエイティブ人材、「クリエイティブ人材たりえた人」を集めることができるかどうかで決まってくるように思われます。そういう意味では、本当に重要なのはそういう人材をいかにうまく輩出するかというところなのかもしれません。
「クリエイティブ人材」というのは魅力的な印象がありますので、それになりたいと思う人も多いわけで、したがって供給過剰になりがちではないかということは容易に想像できます。実際、「売れない(自称)クリエイティブ人材」という人たちもたくさんいるでしょう。逆に、アニメーション制作の現場などでは、「クリエイティブ人材(なのか?)」たちが過酷な労働に従事しているというのもよく引き合いに出される話です。供給過剰は基本的にはマーケット・メカニズムで解消されていくものでしょうが、エージェント企業が普及してくると、供給過剰をいいことにこうした「クリエイティブ人材」をいわば食い物にするような不届きな輩も出てくる懸念があり、それを取り締まることが案外重要な政策課題になるのかもしれません。
また、組織に属している場合と異なり、エージェントを利用して独立して就業する場合は当然ながら仕事がなければ収入がなくなるというリスクはともなうわけで、そのリスクを誰が負担するのかという問題もあるでしょう。これにはさまざまな形態があるでしょうが、「売れているクリエイティブ人材」なら自分でリスクを取るとしても、デザイン事務所のような組織であれば「仕事を確保できるエージェント企業が良いエージェント企業」という側面が大きくなってくるのかもしれません。
まあ、よく知らない分野なのでピンボケな感はありますが、こんなことをつらつら考えながらの聴講で、耳学問としてはなかなかいい勉強になりました。