組織への信頼感

本日の日経新聞夕刊の「こころの健康学」というコラムに、著名な精神科医である大野裕先生が「強い組織 信頼感が働く幸せに」というエッセイを寄せておられました。大野先生は慶応は辞められたのかな。

 先日、テレビ番組で、ある企業の社長さんが経理の担当者の仕事内容についてコメントしていた。その人は不正を働く可能性は事務の担当者より自分の方が高いんじゃないかと笑いながら話していた。
 ずっと見ていたわけではないので詳しくわからなかったが、それは、経理担当の女性の仕事内容の自由度が高いことに対する質問への答えのようだった。自由にしたからといって不正を働くようになるわけではないと、その人は言っていたのだ。
 その話を耳にして、私は、信頼感に裏打ちされた組織の強さを感じた。信頼されていると思えばやる気も高まる。不正を働こうという気持ちにもならないだろう。逆に、不正を働く人は、いくらその行動をコントロールしようとしても、人の目を盗んで良くないことをするだろう。だとすれば、信頼感を基盤にしてやる気を出すようにした方が、組織にとっても良いはずだ。
 それだけではない。その会社では評価や給与を含めて、可能な限り透明性を高めているという。誰もが誰もの仕事ぶりがわかる。それは信頼感があるからこそできることだ。信頼感がなければ、それぞれの人の評価などの情報がわかれば、お互いの嫉妬感情が強くなる。しかし、健全な形で透明性が高まれば、お互いの信頼感が高まってくる。
 こうしたことを実行するのは大変だと思いながら、そうした考えを持ったトップの下で働ける人は幸せだと考えた。(国立精神・神経医療研究センター 大野裕)
平成23年6月30日付日本経済新聞夕刊から)

社長が一経理担当者の仕事に具体的にコメントしているいっぽうで、人事評価制度もあることから想像するに、まあ従業員は数百人というところでしょうか。そのくらいの規模であれば、誰がどの程度に活躍して貢献しているかはお互いわかるでしょうから、評価や賃金を透明化すれば相互チェックが働き、おかしな評価はおのずとできなくなりそうです。なるほど、これは組織の信頼感を高めるかもしれません。逆に、相互チェックされる中で、それでもなお妙な評価が残っているようなら、これは確かに信頼感を損ねるでしょう。
もっとも、それにはすべての人に活躍の場があることが大切なわけで、それには経理担当者の例にあるように権限委譲が重要だ、ということになりそうです。
そして、それに必要な前提条件として、相対的なポジションだけではなく、絶対的な金額においてもそれなりに納得のいく賃金水準が確保されていることと、権限委譲が進みやすい、ポスト詰まりや仕事詰まりが起きていない組織であることが求められるでしょう。ということで企業が業績がよくて成長していることが大前提という話であり、まあ業績がよくて成長している企業に対して従業員が信頼感を持つのは自然だという当たり前の話になるわけですね。
ですから、たしかにこれは「実行するのは大変」なことであり、トップがそうしたいと考えればできるというものではありません。もっとも、それが可能かどうかはトップの力量にも相当程度依存するわけなので、それができるトップの下で働ける人は幸せに違いありません。