高年齢者雇用研究会の報告書案

昨日厚生労働省で「第4回今後の高年齢者雇用に関する研究会」が開催され、報告書案の提示があったようです。今朝の日経新聞から。

 厚生労働省は9日、有識者による高齢者雇用の研究会を開き、法律で決めた定年を60歳から65歳に引き上げる提言を盛り込んだ報告書の素案をまとめた。厚生年金の支給開始年齢が引き上げられることに伴い、希望者は60歳を超えても全員引き続き会社で働けるようにするのが狙いだ。
 研究会は学者で構成していて、6月にも報告書をまとめる。これを受けて厚労省は今秋以降に労働政策審議会で労使双方の意見を聞く。定年延長は人件費の増加などで企業側から反発が予想されるほか、若年雇用に悪影響が出る可能性もある。厚労省は早ければ来年の国会に高年齢者雇用安定法の改正案を出し、2013年度にも新制度を導入する考えだが、難航する可能性が大きい。
 現在の法律では定年は60歳以上としなければならず、さらに65歳までは再雇用などで働ける制度を導入しないといけない。ただ労使協定を結べば継続的に雇う高齢者に「勤務評定が一定以上」などの条件を付けられる。10年6月の時点で「希望者が皆65歳までか、それ以上まで働ける企業」は46.2%にとどまるなど、高齢者の雇用拡大は進んでいない。
 一方で、厚生年金の支給開始年齢は現在、男女ともに定額部分の引き上げが進んでおり、さらに男性は13年度以降、女性は18年度以降、報酬比例部分も段階的に60歳から65歳に上がる。
 平均的な報酬が月36万円などと仮定して計算すると、受け取れる年金の定額部分は月額約6万5千円、報酬比例部分は同10万円ほどになる。仮に60歳以降も会社で働けないと、給与も年金も受け取れない高齢者が今後出てくる。
 研究会では(1)厚生年金の定額部分で支給開始年齢が65歳に引き上げられる13年度に定年を65歳にする(2)定年の年齢を年金の報酬比例部分の引き上げに沿って段階的に65歳に上げる――などの素案を示した。仮に定年を引き上げない場合も、希望者は全員65歳まで働けるような制度をつくるべきだとの考え方を示した。
平成23年5月11日付日本経済新聞朝刊から)

厚生労働省のサイトにはまだ資料が掲載されていませんのでなんとも言えないのではありますが、研究会のこれまでの議論の流れに沿って「希望者全員が年金支給開始まで雇用される」ことを意図したものでしょう。定年延長を主、再雇用を従としたのは願望としてはわからないではなく、定年延長なら本人が「やめる」と言い出さない限り雇用が継続されるのに対して、再雇用だと定年時に「続けたい」と言い出しにくい状況が想定されるということでしょう。もちろん雇用形態や処遇・労働条件の継続性という意味でも定年延長が勝る(もっともこのあたりは、企業も少なくとも当初はバッサリとやりそうな気はしますが)という意味もあるでしょう。職務の継続性について報告書案がどう述べているのかがとても興味深いのですが、まあ記事にもあるように「学者で構成」された研究会の報告ですから「基本的には同一職種を継続することが望ましいが、健康・体力やワークライフバランスにも柔軟な配慮が必要」とかいった玉虫がブンブンと飛んでいるのではないかと、これはとりあえずの予想。
さてそれはそれとして今後は労働政策審議会で公労使3者の議論に移るわけですが、記事は「難航する可能性が大きい」と書いています。そしてその理由としては「人件費の増加などで企業側から反発が予想されるほか、若年雇用に悪影響が出る可能性もある」と書いてありますがいやしかし労働側は本当にいいんですかこれ
なにかというと記事にもあるように現時点でも労使協定を結べば再雇用の基準が設けられるという法制度になっているわけで、要するにすでに労働側が拒否権を持っていて、絶対にいやだどうしても無条件で全員にしろと労働側に言われたら特段法律を変えるまでもなく経営側は抵抗できないわけですよ。そういう状況下にあってもなお記事にあるように「希望者全員」が46.2%にとどまっているというのは、まあ労使関係ですからこちらで譲るかわりにあちらで獲得するという交渉ごとの結果ということもあるでしょうし、労働サイドが企業経営に配慮しているということもあるのかもしれませんが、しかしやはり相当程度は再雇用になんらかの基準を設けるほうが公平とか公正とかいう価値観が労働側にもあることの表れなのではないかとも思えるわけです。
もちろん、研究会としてみれば60歳以降無年金状態になるにもかかわらず、個別労使の判断に任せていると無収入の人が出てしまう、したがって法律での規制が必要だ、ということなのだろうとは思います。となると、まあ企業側が「労使自治に介入するな」と反対するのは目に見えているとして、労働側が「いや現行法制でもわれわれは拒否権を与えられているのですがその拒否権が行使されないので希望者全員を義務化してください」と主張するというのもいかにも妙な感じがするのですがそうでもないのでしょうか。ちなみに「2011年度 連合の重点政策」をみると高年齢者雇用に関しては「2013年度から老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢の段階的な引き上げが開始されるが、高年齢者雇用安定法などの見直しを行い、希望する者全員が65歳まで働き続けられる環境整備をはかる」となっています。まあ個別の単組・産別をナショナルセンターがコントロールできないから法制化に頼りますというのも若干格好悪いような感もありますが、「重点政策」は機関決定されている(のだと思うのですが)わけなので、当然連合傘下の産別組織は合意、産別傘下の単組も間接的に合意だ…ということで正統性は充足しているということかもしれません。
ただまあ、ナショナルセンター的には「希望者全員」の法制化が実現すれば、職場・個別労使レベルでの公平とか公正とかについては配置や労働条件などを通じて労使合意を実現すればよいという考え方もありうるのかもしれません。であれば、なるべく選択肢が増える、多様な就労が可能になるような法制度とすることが必要になりそうです。それって実質的にどうなのよという話はありそうですが、しかし60歳で失業して無年金でも、生活保護のほうが老齢基礎年金や最低賃金を上回ってしまうことも往々にしてあるわけで(最低賃金はその解消が進んでいますが、就労日数・時間数によっては下回る可能性は相当あります)、いやこれは年金や最賃をなんとかしろという話にもなるわけですが。まだ続き(非正規をどうするかとか)がありますが残りは報告書案を読んでからにします。