久谷與四郎『労働関係はじめてものがたり×50』

ちょっとフライングですがご紹介です。全国労働基準関係団体連合会から、久谷與四郎・全基連編著『労働関係はじめてものがたり×50』が刊行されます。縁あって私が推薦文を書かせていただきましたので、ご紹介する次第です。
http://www.zenkiren.com/tosho/new-book.html
店頭に並ぶのは年明けになるようですが、28日までに全基連に直接注文すれば年内発送してもらえるとのことですから、年末年始の読書にいかがでしょうか。ご注文は全基連のサイトのお問い合わせフォーム(https://ssl.alpha-mail.ne.jp/zenkiren.com/inq.html)、電話ファクシミリ(03-3437-6609)などでどうぞ。
以下に私の推薦文を転載しておきます。はたして「読んでみたい」と思っていただけるものになっているかどうか、はなはだ自信はないのですが…。

労働関係はじめてものがたり×50

労働関係はじめてものがたり×50

「労働関係のルーツを訪ねて」

 かつては優れたシステムとして評価されていた「日本的雇用慣行」ですが、最近ではいささか旗色が悪いようです。過労死やワーキングプアワークライフバランスなどといった問題に関して「長期雇用、職能給、企業別労組といった日本の雇用慣行に根本的な問題がある。職種別労働市場、職務給、職種別労組へと抜本的な改革が必要だ」といった主張が、不思議なことに自由主義者からも社民主義者からも聞こえてきます。前者が米国やカナダなど、後者が北欧や大陸欧州などという違いはありますが、日本のあり方を否定して海外に範をとろうという発想も共通しています。
 このような主張はスマートでカッコいいものではありますが、しかし米国と北欧では労働市場、人事管理、法制度には大きな違いがあります。もちろん日本のそれらも、両者とは相当異なっています。どれがいいのか、を考える前に、どうしてこうも違うのだろうか、を考えてみなければならないでしょう。各国とも、それぞれに経緯があり、長い時間の中で現在のような形ができあがってきました。つまり、歴史を知ることが非常に大切です。
 この本は、わが国の労働関係の幅広いファクターについて、どのような時代背景のもとに、労使がいかに努力して、成立し、変化し、こんにちの姿となったのかを、わかりやすい読み物で伝えてくれます。史跡を訪れ、史料をひもとき、生き証人をたずねて綴られた文章は、さすがに練達のジャーナリストの手になるものだと感心させられます。楽しく読み進めるうちにわが国の労働関係の歴史の重要な情報を自然と知ることができます。
 とりわけ労使の当事者にとっては、過去の先達たちの苦心と努力に対して深い思いを抱かせるものと思います。たしかに現在の労働市場、人事管理には問題もあるでしょうし、矛盾もあるでしょう。とはいえ、この本に描かれた過去に較べれば、ずいぶん「マシ」なものになっていることも間違いありません。それは先達の試行錯誤と悪戦苦闘の貴重な成果であり、歴史の必然(と偶然)でもあるのです。
 そう考えると、たしかにあれこれ問題はあるにせよ、日本のやり方をすべて放棄して米国や北欧のようにすればいい、と考えるのはいかにも乱暴だという印象は禁じ得ません。建物に例えれば、たしかに米国の近代的なビルディングや、欧州の伝統ある古城などは、外からみれば堅固で均整のとれたものに見えるでしょうし、内側からみた日本の建物は、まことにみすぼらしい掘っ立て小屋に見えるかもしれません。こんなもの全部ぶっ壊してビルかお城に建て替えようよ…と思う人がいるのも頷けます。
 とはいえ、この掘っ立て小屋は、労使を中心にして行政や学識、ときには司法も加わりながら、狭いといっては建て増し、雨漏りがするといっては修繕して、長年かけてつくり住んできたもので、わが国の風土や、気候変動に応じた、それなりに暮らしやすいものになっているのではないでしょうか。何度も繰り返しますがたしかに問題はあります。これからも新しい問題が出てくるでしょう。しかしこの本を読めばわかるとおり、過去をみても新たな問題が出てこなかった時代などなかったのです。そして、労使を中心にさまざまな努力、交渉と互譲と妥協を積み重ねてこんにちがあります。この本を読んだら、今後の私たちにはそれができません、などとは諸先輩にあまりに申し訳なくまた恥ずかしく、とても言えないでしょう。
 面白いだけではなく、豊富な知識が得られるだけでもなく、自信と勇気を与えてくれる本でもあります。多くの労使関係者に一読をお薦めします。