週刊ダイヤモンド「解雇解禁」(2)

週刊ダイヤモンドの特集記事「解雇解禁」への感想、きのうの続きです。
次は「雇用弱者」の記事ですが、最初の「新卒」についていえば、派遣法改正が新卒就職を厳しくしたという風が吹けば式の議論がどうなのかはよくわかりませんが、いずれにしても総枠が増えない限りはどこかを増やせばどこかが減るとうい当然の話で、非正規を正社員にしたい、高齢者雇用もさせたい、新卒の就職もさせたい、というのであれば全体を増やさなければ無理にきまっているということです。まあそういう趣旨で読めばいいのでしょうが。
中小企業については、すべてが記事のとおりとも思えませんが、かなりひどい実態もあることも事実のようです。いっぽうで10人、20人の企業では「1人」が経営に与える影響も大きいわけで、多くの場合は、経営者が事情を説明し、理解を求めて退職に応じてもらっているというのが現実ではないかと思います。「大企業労働者との格差」で理屈をつけてはいますが、中小企業で解雇が横行しているから解雇規制を緩和せよというのはさすがに無理な主張でしょう。大切なのは経営者への労働法教育と、悪質な解雇への毅然とした対処でしょう。その手段として悪質解雇には高額の金銭解決というのは有力なはずなのですが・・・。
次の「壁を壊す」の記事は、まあ広島電鉄の事例はもともとの契約社員制度がかなり不出来なものだったようで、いずれは持たなくなっていたものでしょうが、それでも従来の正社員の賃金引き下げが受け入れられた事例としては立派で貴重なものだと思います。
そのあと空洞化の記事があってまとめに入りますが、しめくくりはまあありがちな議論になっています。解雇解禁のために安全網を整備せよ、それは雇用保険職業訓練だ、というお話でトランポリンの挿絵が描かれているわけですが、たしかに雇用保険職業訓練のさらなる充実は必要としても、それで解雇解禁してしまっていいものかどうか。解雇される人が、とりわけ不況期に、いかに職業訓練するにせよそうそう簡単に再就職できるわけもなく、それでも再就職させようとするとスウェーデンのように就労者の3分の1が公務員というようなことになってしまうわけです。
また、記事は解雇ができないから生産性が低下していると強調していますが、雇用が守られることによる生産性の向上もまた存在するわけで、きのうも書きましたが、企業経営者は「解雇するぞということになれば、社員はこれまでのようには働かないだろうな」と考えているのではないでしょうか。
最後は「中高年の既得権を守るために若年が犠牲に」という陳腐な議論に陥って終わっていて残念このうえないのですが、結局のところきのう最初に書いたように「なぜ解雇は規制されているのか」の考察がないことが致命的なようです。若年もいずれは中高年となり、中高年もかつては若年だった。我が国の正社員は職業キャリア全体に対して処遇されているわけなので、ある一時点だけをとらえて議論しても意味がないのです。
つまり、新卒新入社員というのは、なんら仕事ができるわけではなく、仕事を教えてもらいながら賃金を得ているわけで、これを「ダメ社員」と言わないのはひとえに今後の成長と貢献への期待があるからです。同様に、これまで企業の発展におおいに貢献してきた中高年が、たまさか組織の事情で窓際にあるからといって、軽々に「ダメ社員」というのは人事管理の観点からは好ましいことではないでしょう。
さはさりながら、現実にしんどい仕事に従事する身からすれば、上司や年長者へあれこれと不満を覚えるのも情においてまことに自然なことであり、こうした記事が需要されるのもよくわかる話です。人事担当者はこうした気持ちにもうまく対処する人事管理に知恵を絞っていかなければならないのでしょう。