4割という数字はそんなものかと思いますが。

さて上記エントリを拝見した際に、別の日のエントリ(http://jyoshige.livedoor.biz/archives/4778130.html)で高年齢者雇用について書かれているのを発見しましたのでついでに取り上げます。

 経団連の調査によれば、現在検討されている定年の65歳義務化で、4割の企業が新卒採用の削減を検討するという。人件費の総額は規制で増やせないのだから、定年を先延ばしさせればその分、入口が削られるのは当たり前の話だ。そして、その当たり前のことが当たり前のように実現しつつある。

 まだ世の中には「就職氷河期は終身雇用とは関係ない、終身雇用は悪くない」という妄言を信じている人がごく少数残っているようだが、本調査結果を見ても明らかなように、誰かの雇用を規制で守れば、新しい雇用が減るのは当然の結果である。
 定年というのは、社会保障制度の都合によって、過去に55歳から65歳まで順次引き上げられてきた経緯がある。そのたびにこうして新卒採用が削られ、その時々に世に出る新卒者の雇用が失われてきたわけだ。
 なるほど、確かに大学は増えて単純な学力平均は落ちたかもしれない。
だが、定年が無かったなら、そして既存の雇用にメスを入れてはいけないという一方的な規制が無かったなら、もっと多くの椅子が若者に回っていたのは間違いない。
 この調査結果をもって、もうこの種の議論は卒業しよう。
http://jyoshige.livedoor.biz/archives/4778130.html

途中省略した部分では年金の話が書かれていて、突っ込みどころもあるのですが全体としてはまあこういう意見もありかなという話なので省略しました。
さて65歳定年義務化については労使ともに現時点では否定的なので「現在検討されている」というのは少し変です。ちなみに城氏がリンクしているソース(経団連タイムス、http://www.keidanren.or.jp/japanese/journal/times/2011/1006/04.html)では、次のように正確に記されています。

 現在、厚生労働省労働政策審議会において、高齢者の継続雇用制度の対象に関する基準を撤廃することの是非について議論が行われている。仮に、基準が廃止され、希望者全員の65歳までの継続雇用が義務付けられた場合の対応として、約4割の企業が「若年者の採用数の縮減」を行う用意があると回答しており、企業の将来を担う若年者の雇用を阻害しかねないことが懸念される結果となった。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/journal/times/2011/1006/04.html

調査結果に対する感想としては、4割というのはまあそんなものかなあという感じです。やはりすべてが新卒削減に向かうわけではなく、かなりの部分は非正規労働の削減に向かうということでしょう。このあたりは過去のエントリで何度か書きました。
さて「人件費の総額は規制で増やせない」というのは、まあ企業としては経営上許容される人件費の総額の上限があるでしょう、という意味かな。法律かなんかで人件費総額が規制されているみたいな書き方ですが。
さて長期雇用の話については、就職氷河期と長期雇用の関係について「解雇規制が厳格で雇用調整が困難なために企業が正社員採用に慎重になる」という議論はありだと思います。ただ「誰かの雇用を規制で守れば、新しい雇用が減るのは当然の結果」ってのは当然じゃないよねえ。長期雇用・解雇規制の是非はとりあえずおいておいて、理屈の話としてそもそもこの調査結果は希望者全員継続雇用義務化についての調査であって長期雇用・解雇規制に関する調査ではなく「本調査をみれば明らか」とは言えないでしょう。長期雇用・解雇規制が問題になるのは人員を減らしたいけれど減らせないという局面であり、こうした局面では解雇規制がなければ適正人員規模までは解雇が行われるにとどまり、新しい雇用はできない可能性が高いでしょう。同じく「定年が無かったなら、そして既存の雇用にメスを入れてはいけないという一方的な規制が無かったなら、もっと多くの椅子が若者に回っていたのは間違いない」というのも、そうかもしれないと推測することは可能かもしれませんが、間違いないと断言するなら証拠がほしいところです。とりあえず定年がなく既存雇用にメスを入れられる米国において、わが国以上に中高年の雇用情勢が厳しいとか若年の雇用情勢が厳しくないとかいった事実はなさそうなわけでして。