「首都大准教授、諭旨解雇に」フォロー

しばらくぶりにhamachan先生のブログを読んでいたところ、私のブログの「態度が悪いからクビ!」がたくさんブックマークされていると書いてありましたのでさっそく見てみたところ「首都大准教授、諭旨解雇に」がもっと多くて驚いた件(笑)。
で、実はhamachan先生も同じネタに食いついておられてhttp://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-624d.html、「これはやはり裁判に訴えて正当性を問うてほしいところではあります。」おっといきなり裁判ですかhamachan先生強硬ですねえ、というか「「そりゃクビ大ですから」という突っ込みは禁止。」とまったく同じネタを繰り出しておられてちょっと恥ずかしかった件(笑)。ちなみに投稿日はhamachan先生のほうが先なのでオリジナリティはhamachan先生にあります。いやパクったんじゃなくて偶然の一致なんですよお、などと弁明するのも恥ずかしいネタではありますねえ。
さてヨタ話はいいかげんにして、私はブックマークはコメント欄やトラックバックと違って双方向コミュニケーションを想定していない*1ものであり、基本的に応答は必要でない、あるいはすべきでないものだと考えています。それゆえ、これまでブックマークはたまにしか見ていませんでした*2が、今回は自分のエントリに対する反応や意見を知るという意味ではたいへん有益なものだということを知りました。これからは頻度を上げてチェックすることにします。
ということで、今後とも(今後ますます)ブックマークをお寄せください、とお願いしたいのですが、しかしお願いするばかりでは当然いけないはずなので、それなりの反応を示すことも大切なのかなあとも思うわけです。実際、今回ブックマークを見ていて、少し誤解を与えたかなあとか、言及が行き届いていなかったかなあと思うところもありましたので、それをふまえて7月7日のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20100707)をもう少し敷衍したいと思います。

  • 正直なところ今回ブックマークとのつきあい方というのに迷うところがありまして、これは一覧で参照することができるという点でそこらの掲示板とかで叩かれるのとは明らかに異なっており、したがってブックマークした人には応答に対する一定の期待もあるのかなあとも思うからです。はてな上をざっと見た限りでは、いちいち反応している人は少数のようですが、ある程度ブックマークのつく人はまったく無視もしていないという感じです。ということで、とりあえず応答を期待される方は引き続きコメント欄のほうにお願いします。長文の議論をされたい方はご自身のブログからトラックバックしてください。ただ、もっぱら私自身のリソースの問題から、十分な応答ができるかどうかは自信がありませんが…。

さて、まず誤解を与えてしまったかなと反省しているのは、私は7月7日のエントリでは私自身にとっての正義とか価値観とかに照らして諭旨解雇が妥当か否かを議論しているのではなく、あくまで法的にどうか、裁判所がどう判断するだろうかについて書いたつもりです。首都大の就業規則を引用したり、労働審判*3に言及したりしているので、普通ご理解いただけるのではないかなあとも思うわけですが、そんなことどこにも書いてないじゃないかと言われればたしかにそうなので、もっとはっきり書いておけばよかったかもしれません。
どういうことかと申しますと、「公開・非公開にかかわらず動画作成自体が犯罪的行為であり、指導教員がそれを容認したことの情状は重い」という趣旨と思われるブックマークが複数寄せられたわけですが、それはブックマークされた方の正義や価値観にもとづく判断であって、私がエントリで議論した内容とは直接的には無関係だ、ということです。「被害者の立場からすれば」というブックマークも基本的に同様かと思います*4。言い換えれば、私は裁判所はこう判断するだろう、と述べているのに対して、ブックマークされた方は「そう判断するとは日本の裁判所はなんと甘いのか」という感想を書かれているに近いわけで、もちろんそれでいいわけですが、私としてはもう少し整理して書くべきだったかなと反省しているわけです。
ここで直接的にはと強調したのは、今現在大学が処分の理由としてあげているのは「指導が不十分で大学の信頼を著しく失墜」と「調査に虚偽の報告」だけですが、仮に本当に訴訟になれば、大学がさらに「犯罪的行為を容認」とか「被害者の心情に慮って」といった処分理由を持ち出してくる*5ことは十分に考えられるからです。そこまでは先日のエントリでは手を広げきれていませんでした。
そこでこれらの事由が持ち出されたときに裁判所がどう判断するかを想像してみますと、たしかに学生の行為はまったくもって不愉快な迷惑行為ではありますが、いっぽうでこれが犯罪であるにしてもかなり軽微なものだとも思われます。被害にあわれた方の心情も当然慮るべきでしょうが、しかし被害者が報復を望むのであれば刑事告訴とか損害賠償請求といった方法も開かれており、准教授についても刑事告訴はかなり難しいとしても損害賠償請求で責任を問う訴えを起こすことは可能でしょう*6。そう考えると、これらが指導教員を諭旨解雇にするという重い処分の根拠になるかといえば、これまでの傾向からして裁判所はそうは考えないのではないかと私には思われます。実際、大学も現時点では学生の行為自体ではなく「信頼を著しく失墜」を問題にしているわけですし。
「写真集であってもウェブに掲載されるなどのリスクがある」というブックマークも複数いただき、たしかにここも言及が不十分だったかと思います。
まず、情報が少ないのではっきりとはしないのですが、しかし准教授が「私が出版社を世話するから写真集にして出版して本屋さんで売ろうよ」という指導をしたとはさすがに思えません。自分たちでアルバムに貼って写真集をつくり、卒制として合格したらあとは首都大の図書館に死蔵される*7ということで、まず外には出ないという方向性での指導ではなかったのかと思われます。まあこれは推測なので断言はできませんが普通そう考えていいでしょう。
それでもウェブに掲載されるといったリスクはゼロではありませんが、それは悪意の第三者の手によるものだろうと思われます。はたして、大学が「学生がいうことをきかないリスク」だけでなく「第三者による悪用のリスク」まで考慮した指導を行うことが適切だったと主張するかというと、おそらくそこまではしないのではないかと思いますし、仮にしたとしても、その部分は裁判所はあまり考慮しないのではないかと私は思います*8
もうひとつ、「卒制は指導教員が通さなければ卒業できないので教員の関わりは大きく厳罰は当然」という趣旨のブックマークもいただきまして、私もこれは大切なポイントだと思います。たしかに指導教員は学生に対してかなりの権限を行使するわけで、私もエントリの中で「指導教員と学生の関係を考えればたしかに一定の監督責任・連帯責任は免れないだろうとも思われます」「*4:…指導教員と学生では力関係が明らか」と書いたのはそういう趣旨だったのですが、書き方が不十分だったかもしれません。
ただ、いっぽうで、教員の振るう権力が大きければ大きいほど学生がその指示に従うだろうことも見やすい理屈で、となれば「指導したが、従わなかった」という事実はむしろ酌量すべき情状とも思われます。ただ、これは裁判所がどう考えるかは私には見当がつきません。
なお、hamachan先生のブログのコメント欄によれば、首都大の教員はすべて任期付なのだそうです。そこでも書かれていましたが、だったらとりあえず出勤停止くらいにしておいて、次の契約のときに雇止めすればたいして変わらないと思うのですが…。そういえば「この後、誰も、同准教授のゼミを採らないだろう」というブックマークもありましたし、講義を聴講する学生も激減でしょうから、雇止めしても問題にはならないでしょう。まあ、大学としては世間に示しをつけたということでしょうか。危ない橋を渡るもんだとは思いますが。
さて、以上「裁判所がどう判断するか」という観点で考えてきたのですが、あるいはおまえ自身はどう思っているんだという疑問もありましょう。
それについては、こと今回のケースに関しては裁判所が行うであろう(と私が考えた)判断が妥当だと私は思っています。解雇には合理性と相当性が必要とするわが国の解雇権濫用法理や、裁判所が合理性・相当性を判断する考え方などについては、数多くのケースを通じて成立してきたものであり、多くの部分で妥当なものになっていると私は考えます。もちろん、個別のケースの中には裁判所の判断に疑問を感じることも少なからずありますので、これに関する私にとっての正義とか価値観といったものがわが国の法制度や裁判所とまったく同じというわけではありませんが、しかしかなり接近していることも間違いないと思っております。
なお、ついでに「態度が悪いからクビ!」のほうですが、「警備室内でスリッパを履いていたので普通解雇というのが印象に残った」というブックマークがありましたのでここでご紹介。これは容易に想像がつきますが、おそらくは「警備室」なので警備の必要が発生した際に即時に対応できるよう適切な靴の着用を義務付けていたのでしょう。
ということで、珍しく(初めてかな?)ブックマークでのご指摘をふまえたエントリを書いてみたのですが、うーん、やはりあまり成功していないような。まあ、各位これに懲りずに(笑)、今後はおおいに参考とさせていただきたいと思いますので、ブックマークもおつけくださいませ。

*1:自分から見に行かなければ見えないという点で、コメント欄やトラックバックとは異なります。

*2:まあ、そもそも通常はあまりブックマークされないという事情による部分も大きいわけですが(笑)。

*3:これをhamachan先生のように裁判所にしておけば私の意図はより明らかだったでしょうが、そこはそれ裁判所はちょっと強硬すぎるかなあという判断が働いたのです。労働審判のほうがアクセスが容易なのでお薦めするには向いていますしね。

*4:もちろん無関係を承知の上でご自身の価値観を書かれたということであれば、私が誤解があると思ったのが誤解だったということになります。

*5:規則等をあらためて確認していませんので断言はできませんが、おそらく学生の犯的行為を容認するかのような指導は規則上懲戒の事由とできるでしょう。

*6:それでどれほどの報復が実現するかといえばやはり大きくは期待できないでしょうが、それはつまり大学による准教授への処分の軽重に通じる話になるでしょう。

*7:卒論だとほぼこうなると思うのですが、卒制って展示されたりするのでしょうか?

*8:なお今回騒ぎが大きくなったのはそれが「動画」だからであって、静止画であればここまで騒ぎが大きくなる=大学の信頼を失墜するかどうかという疑問もあります。