定年延長と希望者全員再雇用

8月22日のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110822#p1)にhamachan先生からコメントをいただいていたようで、教えてくださる方がいてようやく今日気付きました(『日本人事』の紹介エントリ(http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-e3bb.html)でも言及いただいていました)。ご教示いただいた方、ありがとうございました。正直教えていただかないと気付かないままだったと思いますので、今後ともどこかで叩かれてたりしているのを発見された方はぜひご連絡ください。
さてhamachan先生のコメントへのご回答は当日のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110822#p1)に追記しましたが、以降の記事をつらつらと斜め読み(?)していたところ、「定年、継続雇用制度とはそもそも何か?」というエントリ(http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-c658.html)で
こんな問題提起がされていました。

…「定年制とは、労働者が一定の年齢に達したときに労働契約が終了する強制退職制度である」と述べた。定年以前に雇用保障がどの程度あるのかという問題は別として、一般的にはこれが定年制の定義として通用している。
 しかしながら、もし本当に、定年という言葉がこれだけの意味しかないのであれば、実は定年と希望者全員継続雇用とを法概念的に区別する理由は見いだせないのである。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-c658.html

私も法理論的に厳密に考えているわけではない、というかそんなん無理(笑)なわけですが、以前も書いたとは思いますが思うところを少し書いてみたいと思います。
実務的に気になっているのは継続雇用者の職務・労働条件をどうするのかという問題です。定年延長の場合には、あわせて職務の変更や労働条件の引き下げが行われることが想定されるわけですが、これは労働契約法10条が適用されて、定年延長の利益などと労働条件の低下などを総合的に勘案して合理性を判断することになるでしょう。すでに60歳定年延長の際に第四銀行事件で最高裁判決が出ています(というか大筋この判決を成文化したのが労契法10条なわけですが)。
いっぽう、再雇用となると、いったん従来の労働契約が終了し、新たな契約を結ぶことになりますから、労契法10条が直接に適用されるかどうかというと難しいように思われます。もちろん類推(?)適用されるべきだという考え方はあるでしょうし、いやいやいや再雇用であっても適用されるのだという主張もありうるかもしれません*1。いっぽうで、新たな契約である以上は労働契約法10条の不利益変更は適用されず、使用者の任意でよい(まあ労働者が再雇用を希望しないことを意図した内容が公序良俗ではねられるとしても)という考え方もあるでしょう。このあたりに、定年延長と希望者全員再雇用の違いが出てきそうな気もします。
同様のことは解雇に合理性と相当性を求める労契法16条にもあり、使用者がなんらかの理由で希望者を再雇用しなかった場合に、これが労契法16条の解雇に該当するのかどうか、議論がありそうです。60歳以降は1年の有期契約として65歳まで更新、といった制度にした場合には、契約更新のたびに同様の問題が起こり得ます。まあこちらは解雇にあたるとか、類推(?)適用するといった意見が有力なような気もしますが、やはり入職時には60歳までしか約束していなかったのだから再雇用拒否は解雇にはあたらず、労契法16条は適用されないという考え方もあり得ると思います。この場合、合理的な理由のない拒否は公序良俗ではねることになるのでしょうが、解雇よりは緩やかに合理性を認めるべきだとの立場もあるでしょうし、いやいや年金支給開始年齢引き上げにともなう必要から政策的に雇用を義務付けているのだからより厳しく厳しく判断すべきだとの立場もあるでしょう(ある官僚はこちらを支持していました)。
なお、話は変わりますが、「定年制とは、労働者が一定の年齢に達したときに労働契約が終了する強制退職制度である」というのが一般的な定義として通用しているというのはそのとおりなのだろうと思います。ただ、hamachan先生はこれを「いやがる労働者をむりやり「定年だから」といって社外におっぽり出す年齢のこと」と理解されているようなのですが、それは違うのではないでしょうか。普通に考えて労働者が入職する際には定年制が存在することも承知の上であり、それを了承の上で労働契約を締結しているはずで、まあその時がくればいやかもしれませんが、しかし合意の上での退職であるはずです。そういう意味では厳格に言えば強制退職とはいえないのかもしれません。

*1:さらにこの際、生計費や従来支給されていた年金額も考慮して合理性判断すべきとの意見もあるかもしれません。