「六本木ヒルズ特区」フォロー

hamachan先生から、9月24日のエントリにトラックバックをいただいておりました。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/09/post-2b8b.html
そこで先生のブログを少しさかのぼって読んでみたところ9月21日には八田先生の資料に関するエントリも書かれていて(http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/09/post-2c4d.html)、これを読むと解雇に関しては「いかに特区でも権利濫用法理を逃れることはできない」という基本的内容はまったく共通していますし、その中で予見可能性を高めていこうという方向性もおおむね一致しています(先生が書かれた「権利濫用法理の枠内で、それを予め明確化しようというのが、「ちゃんと物事の道理がわかっている」規制改革会議の方向性。」という記載はそういう意味だろうと思うのですが)。ちなみに八田先生が労働や法律の素人だという認識でも一致しておりますな(笑)。
ただまあ私のエントリが説明不足なせいでやや誤解を招いている部分もありそうなのでここで補足を兼ねてコメントを書いておきたいと思います。
hamachan先生にはこのようなトラックバックをいただいたのですが…

とりあえず価値判断抜きに、客観的に何が起こるかを予測するとですね、

そういう「とても優秀で自力で戦える」たぐいの高給取りの強い労働者は、雇用契約に書いてあるとおりの理由でクビにされたって、絶対にはいわかりましたなんて引き下がりませんから。

まずは同じ六本木ヒルズか、近場の泉ガーデンあたりの超優秀な弁護士をそろえたローファームに行って、準備万端不当解雇で訴えるに決まってます。

解雇特区なんていうこけおどしに引き下がるのは、法律の構造をよく知らない素人。玄人であれば当然、「特区ごときで民法1条3項の権利濫用法理が適用除外できるはずがない」という当然の理路を繰り出すし、裁判官も当然その上で審理する。

まあ、なんだかんだで相当の金をふんだくって解決ということになるでしょう。絶対にあり得ないのは、特区をやりたがっている人が望んでいる泣き寝入りという選択肢。

泣き寝入りするのは、同じ六本木ヒルズの中にあるお店やレストランの下働きの労働者だけということになりそうです。そんな馬鹿高い弁護士費用なんて払えませんからね。

で、単身あっせんに行っても、契約に書いてあるからという裁判所では通用しない理屈で相手側不参加でおしまい。

これは、特区の範囲が六本木ヒルズであろうが、港区であろうが、東京都であろうが、本質的に変わらないはず。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/09/post-2b8b.html

まず「お店やレストラン」に関しては私も当然ながら規制緩和の対象とは考えていないわけでありまして、ここは前段の記述との関連で読み取っていただきたかったのですが基本的に外資系企業や創業まもないベンチャーなどを念頭においています。また、これまた当然ながら、私としても前段でどこまで行っても権利濫用が争われる可能性はあると書いているように、hamachan先生が9月21日付で書かれたような「社長の命令はいかなるものであっても従わねばならない。従わないときは直ちに解雇する」なんて解雇はまあ特区においても権利濫用で無効になるだろうと考えております。
ただ、24日のエントリにも「たとえば従業員の半数が外国人の米国企業の日本法人であれば、そこに入社しようという人は普通に考えて事情によっては一方的な解雇もありうるという前提で応募しているでしょう(違うのかな)し、採用する側も業績や能力に問題がある場合や事業規模を縮小する場合は解雇しますという説明をするでしょう」と書いたように、あらかじめ営業成績とか企業業績とか合理的なもので「こうこうだったら解雇する」と労働契約に書いて、それが実現してしまったら解雇できる、という特区を作ってみてもいいんじゃないかまあうまくいかないだろうけどというご提案をしたわけです。まあこれも24日に書きましたが現行法制でも合理性相当性があれば解雇できるわけですが、ここはそういう特区だよと宣言することで多少なりとも予見可能性は向上するのではないかという趣旨です。
ということで、hamachan先生はこう言われるわけですが、

とりあえず価値判断抜きに、客観的に何が起こるかを予測するとですね、

そういう「とても優秀で自力で戦える」たぐいの高給取りの強い労働者は、雇用契約に書いてあるとおりの理由でクビにされたって、絶対にはいわかりましたなんて引き下がりませんから。

まずは同じ六本木ヒルズか、近場の泉ガーデンあたりの超優秀な弁護士をそろえたローファームに行って、準備万端不当解雇で訴えるに決まってます。

まあ、なんだかんだで相当の金をふんだくって解決ということになるでしょう。絶対にあり得ないのは、特区をやりたがっている人が望んでいる泣き寝入りという選択肢。

そうなんでしょうかね。とりあえず私が見聞きした限りの外資系企業などの実例をみると、成績不振だから解雇しますと言われて弁護士事務所に行きましたというのは一度も見たことがないのですが(もちろん裁判例もあるわけですし他にも一切ないだろうと主張するつもりもありませんが)。たいていははいわかりましたとは言わないまでもまあそんなもんだよねという感じで淡々と転職していっているような気がします(クビになりそうだから先手を打って自分から辞めましたという例もいくつか見たな)。それはたしかに解雇した側からすれば期待どおりかもしれませんが泣き寝入りというほどのものでもないでしょう。「「とても優秀で自力で戦える」たぐいの高給取りの強い労働者」にとっては、手間ヒマとカネをかけて恐れながらとお白洲に出向いて業界で札付きになる(それがいいことだというつもりはない)よりはとっとと同じくらい稼げる企業に転職したほうがはるかに合理的なのだろうと思います。でまあそもそもそういう実態なんだからここはそういう特区ですと宣言したところで何も変わらなかろうと思うということも24日のエントリに書きました。いっぽうで、弁護士事務所に行きますよというのを交渉材料に使ってテーブルの下でなんだかんだの金をふんだくるというのは、これはあるのかなあ。他人に自慢して歩くような話ではないので、知られてないだけで案外あるのかもしれません。