態度が悪いからクビ!

一部事業が仕分けられてしまった(独)労働政策研究・研修機構(JILPT)が実施した「個別労働関係紛争処理事案の内容分析―雇用終了、いじめ・嫌がらせ、労働条件引下げ及び三者労務提供関係―」という調査結果がJILPTのウェブサイトに掲載されています。事業仕分けどおりだとこういう研究成果の普及は廃止されてしまうんですよね。やめてくれえ*1
さてこの調査ですが、全国の47都道府県労働局のうち4局において2008年度に取り扱ったあっせん1,144件の個別の記録を分析したというJILPTならでは(ではないかと思うのですが)のもので、「4局については明らかにできないが、全国的なバランスと都道府県規模等を考慮して選定したもの」で、「同時期における全国のあっせん申請受理件数8,457 件の約13.5%に相当する」とのことです。1,000件を超える記録すべての全体を通読したうえで分類、分析を行ったというまことに勤勉な調査ですが、研究メンバーは次のとおりです。おやhamachan先生ではないですか

濱口桂一郎 労働政策研究・研修機構統括研究員
内藤 忍 労働政策研究・研修機構研究員
鈴木 誠 労働政策研究・研修機構アシスタントフェロー
細川 良 労働政策研究・研修機構臨時研究協力員

さて調査結果をみると面白い内容が豊富なのですが、その中でも多数の具体的な解雇理由の事例が紹介・分類されているのが、ああ実態はこうなんだよなという感じで非常に興味深いのでご紹介してみたいと思います。
まずあっせん申請内容別の集計をみてみると、解雇案件が多く、普通解雇が330件(28.8%)、整理解雇が104件(9.1%)、懲戒解雇が26件(2.3%)で合計470件となっています。「いじめ」かつ「解雇」といった案件は2件でカウントされているようですが、これらは独立でしょうから、1,144件中470件と全体の約4割が解雇が現に行われた案件とみてよさそうです。これとは別に退職勧奨が93件(8.1%)、自己都合退職が93%で、このあたりは重複してカウントされている可能性もありますが、雇止めも109件(9.5%)あり、過半は労働関係の終了をめぐるあっせんということになりそうです。あと目立つのはいじめ・嫌がらせの260件、賃金の引き下げ102件、配置転換53件といったところでしょうか。ちなみにセクハラや育休などの案件がほとんどないのは雇用均等室所管のものが除かれているからとのことです。
そこで解雇理由をみてみますと、いちばん多いのは経営上の理由、いわゆる整理解雇で218件、28.8%なのですが、同一事業所から複数人が対象となっているケースを調整すると144件となり、態度を理由とした167件、22.1%を下回るとのことです。
で、この「態度を理由とした解雇」の「理由」というのが列挙されているのでいくつか紹介しますと(本当はこの研究の趣旨からするとこうした個別事例列挙の紹介は好ましくないのですが、御容赦ください)、まず業務命令拒否というのがあって、

・売上増のため出張を要求され、「行かないのなら辞めろ」
・受付業務を教えるように言われ、拒んだら普通解雇
・職務命令違反、勤務態度不良で普通解雇
・上司に従わないという理由で懲戒解雇を予告されたので退職届を提出
・上司の指示に従わない(トイレ掃除等)ので普通解雇
・指導に従わないので普通解雇
・仕事を拒否し、意に反することがあると無断欠勤するので退職勧奨
・指示に従わないので退職勧奨
・「会社の方針に従えなければ辞めてくれて結構」
・受付事務でカウンセリング業務を拒否したので普通解雇
・業務改善に応じず「明日から来なくてもいいです」
・再三の是正指示にかかわらず業務着任できないため普通解雇
・社命に従わず仕事に熱意なしと普通解雇

善し悪しはともかく解雇したくもなるわなという感じのものもありますが、端的に俺の言う事を聞かないならクビだというのもありそうで色々だなあという感じです。
勤務態度の悪さを理由とするものも多く、たとえば

・業務怠慢を理由に普通解雇
・移転就職で、住民票を移しておらず自分の車をもたないことを理由に普通解雇
・業務上の失態重なり報告怠るので普通解雇
・仕事に誠意が見られないとして解雇
・業務手順が守られないという理由で普通解雇
・職務怠慢を理由に懲戒解雇
・ずさんな清掃の仕方ゆえ普通解雇
・能力、勤務態度、協調性の問題から普通解雇
・仕事中に抜け出すので普通解雇
・ミスを報告しないので普通解雇
・態度が反抗的なので普通解雇
・勤務中の居眠りを理由に普通解雇
・後輩に誤った指示をし、業務をほったらかしにしたので普通解雇
・勤務中の言動や行動に改善なしとして普通解雇
・警備室内でスリッパを履いていたので普通解雇

具体的内容がわかりませんのでなんともいえないのではありますが、普通それで解雇にしますかそれでというのが相当入っていそうな印象はあります。俺に逆らう奴はクビだみたいなね。解雇規制の厳しさをやたらに主張する論者というのも多いのですが、しかし現場の実態の何という軽さ。それとは別に、仮に解雇に値するような態度だったとしても手続きというものがありますよという問題も大いにありそうで、繰り返し注意し指導したけれど改まらなかった、こう指導したのにこんな調子でした、これほど注意したのに改まりません、その記録もバッチリ残っています、というのでなければ出るとこ出れば負けますよと、でも出るとこ出なければそれっきり、というかとりあえず都道府県*2労働局に到達しただけでもマシなわけであって…。
もちろん、職場のトラブルというのもあって、中には思わず失笑してしまうのもあるのですが…*3

・職場のトラブルで夫が威力業務妨害したので退職勧奨
・フロアマネジャを怒らせたので出勤停止、普通解雇
・宗教関係の精神の混乱のため退職勧奨
・「傷害事件を起こす恐れがあるので辞めてもらう」
・個人を誹謗中傷するメールを再度送ったため普通解雇
・人間関係乱したとして普通解雇
・職員との信頼感欠如を理由に普通解雇
・自分でネットショップを経営し火の車で使用者や他の従業員に無心したので普通解雇
・現場責任者が指導したところ噛みつきトラブルになり退職勧奨
・挨拶ができない、声が小さいので普通解雇
・取締役に罵声を吐くなど勤務態度不良で普通解雇
・意思疎通を図らず社長の指示以外聞かないので普通解雇
・職場での暴言、脅迫、命令無視を理由に懲戒解雇
・女性パートが嫌がっているという理由で雇止め
・業務中不満をぶちまけ、同僚を脅迫したため退職勧奨
・風紀を乱したため普通解雇
・忘年会で上司への暴言を理由に懲戒解雇
・他の作業を手伝わなかったから普通解雇

「他の作業を手伝わなかったから普通解雇」というのはhamachan先生のご憤慨が目に見えるようですが(笑)、とりあえず噛みつくのはやめてくれ噛みつくのは。妻が職場でトラブったらコワモテの(かどうかはわかりませんが)夫が殴りこんできた、というのもたいがいどんなもんかとは思いますが、それが一度くらいでクビというのもいかがかという感もあり、しかしトラブっても殴り込めばOKというのも組織秩序の面で容認しがたいというのもわからないではなく…うーん。
「挨拶ができない、声が小さい」から解雇というのは過酷なような気がしますが、これは試用期間中なんですね。であればこれも気持ちはわからないではない…しかしやっぱりそれなりに指導の努力はしていただかないと。とりあえず顧客や上司には頭を下げておけ、店に客が入ってきたらとにかくいらっしゃいませと云え、というところから教え込むのも日本的雇用慣行の長所といえば長所なわけで、とはいえそれすらできずに就職してくるというのは家庭教育も学校教育もなにをやっているんだという年長者の嘆きもまあもっともで、いったい教育の職業的意義というものは(ryでもそれでいきなり解雇はいかんよ解雇は。
あと「女性パートが嫌がっているという理由で雇止め」ってのはそれはあまりじゃないかそれはと私などは思うのですがこれって私だけ?ヤッパ私だけ?
次は顧客とのトラブルで、

・小児科医が看護師や患者の母親とトラブルを起こすので普通解雇
・利用者や市からセクハラ発言にクレームがあったので普通解雇
・仕事上のクレームがあったため普通解雇
・他社の運転手や客からの苦情多く普通解雇
・仕事のミスで顧客を怒らせたので普通解雇
・得意先に失敗多く改めないので普通解雇
・仕事のミスや苦情がひんぱんなのに反省がないので退職勧奨
・利用者のウケが悪いからという理由で普通解雇
・顧客からクレームがあったため普通解雇

利用者のウケが悪いからってのはなんだろうというのはおいといて、お客様は神様ですってのも行き過ぎはいかがなものかと思うのですが、そもそもろくでもない神様もいるのも実態なので、一度くらいのトラブルで解雇というのはどうかなという感はあります。もちろん個別の中身をみてみないとなんともいえませんが、やはり最初は注意や指導、それでも改まらずに度重なれば…という手続きだろうと思うのですが。
ほかにもいろいろあって、たとえば休務を理由としたもの。

・休みが多すぎを理由に普通解雇
・体調不良による半休を理由に退職勧奨
・社長から「メタボ、豚、デブ」と言われ、うつで休み普通解雇
・休務したいと伝えたら社長命令で普通解雇

社長が従業員に「メタボ、豚、デブ」というってのもとんでもなく程度が低いですが、休みたいなら会社をやめりゃいいだろと社長が言ったってのも底が抜けそうな程度の低さです。なんなんでしょうね、これは…。まあ発言も解雇もけしからんけれどそんな会社やめて正解。
不平不満、会社批判に対して「イヤなら辞めろ」も多いようです。

・「このままでは体がもたない」「やってられない」と愚痴ったら退職手続
・「この会社は最低だ」と叫ぶので「そんなに嫌なら辞めたらどうだ」
・「時給上げないとやる気起きない」に派遣先が不快感で退職勧奨

いや愚痴なんですから、愚痴。まああまりに言い募ればそこまで言うなら勝手にやめろよと思うかもしれませんが、それも「勝手に」やめろよということであって、だったら解雇というのは若干ヤバいわけで。
あと、社風に合わないとかいった「相性」が理由に挙がることもあるようで、まあそういうものがあることも事実でしょうし、合わないと悲惨なことも多いわけですが、しかし社風って何か説明してみろと言いたくなりますよね?

・社風に合わないことを理由に普通解雇
・店長から「俺的にだめだ」と普通解雇
挨拶しなかったため採用4日後に「辞めて欲しい」
・会社方針に合わないと普通解雇
・社長交代で普通解雇(不参加)
・廃業し息子が後継するにあたり、他は継続雇用するが、本人は雇用したくないと普通解雇
・再面接で社員としての適合性に欠けると判断して内定取消

面接して内定出したのにもっかい面接してやっぱ取り消しってそりゃいくらなんでもアコギではありませんかあなた。店員を「俺的にだめだ」と解雇できる店長は労基法上の管理監督者にして残業代なしでこき使ってやれ(すでにされてたりして)。あと、社長交代で、というのはなんとも理不尽ですが人間関係の固定した小規模企業ではありがちな感じで、特に息子が後を継ぐときにどうにも煙たい年輩者を解雇したくなるというのはいかにもありそうな話です。気に入らない従業員をうまく使うのが経営者の器量というものだと思うんですが、安易な解決に走ろうという誘惑は常にあるんでしょうね。
報告書ではこのあと、犯罪行為などの非行による解雇なども紹介していますが、長くなってきたので今日はここまでにしておきます。それにしても個別の実態の多様なこと。理論・理屈で一律に割り切れないよなあとしみじみ思います。

*1:いやもちろん廃止しないでくれという意味です。為念。

*2:実際には都道府県のいずれかは含まれていない可能性が大ですが。

*3:いろいろな意味で。こんなんでクビにするかよという使用者の程度の低さに失笑したものも多々あります。