「期間の定めのない」とは言っても、現実には

さる10月5日に連合総研が開催したワークショップ「新しい労働ルールのグランドデザイン策定に向けて−イニシアチヴ2008研究委員会・中間報告会−」のもようが、連合総研のサイトにアップされています。
http://www.rengo-soken.or.jp/dio/no221/houkoku_3.pdf
このワークショップには私も参加していて、全体写真に後姿が写っています(笑)。一応、私も研究委員会にメンバーとして参画しているということで、当日も発言を求められました。かなり時間が押しそうな気配が漂う中、空気を読んで(笑)手短に発言しましたので、たぶん何を言っているのかわからない人も多かったと思います(笑)。
言いたかったことは、いわゆる「期間の定めのない雇用」について、法理論上の考え方と実務家の意識との間にギャップがある、ということです。

このところ注目されている非典型雇用問題について、この研究委員会でも当然取り上げられており、ワークショップでも議論がありましたが、水町先生が報告された研究委員会の中間報告では、雇用形態による差別の禁止を含む雇用差別禁止法制の制定に加えて、労働市場法制についても「雇用形態(契約形態)に対して中立的な法制度となるよう制度設計をする」ことが提言されています。そして、後者については具体論として「雇用の終了(解雇・雇止め)に対しては、実態に応じて解雇権濫用法理が適用される」(が、そこでは労働者代表との協議等のプロセスが「合理性」判断において重視される)という記述があります。これは要するに、期間の定めのない雇用と有期雇用とについて「中立的な法制度」とするために、有期雇用についても期間満了をもって当然に契約終了、雇い止めとなるのではなく、「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でない」場合は雇い止めは無効、契約更新しなければならない、ということしようということでしょう。福井秀夫先生が聞いたら「ごく初歩の公共政策に関する原理すら理解しない議論」と罵倒されてしまいそうな話ですが(実際、ことこの問題に限っては福井先生の罵倒にも一理あります)、労働法学者の中にはこういう考え方に賛成する人も多いようです。
で、これに対してコメントを求められましたので、私からは「実務感覚からすれば、有期雇用契約は期間満了をもって当然に終了し、例の「期間の定めのない雇用への転化」といったものが入り込む余地はないことを明確化することが『中立的な法制度』だと考えられる」ということを申し上げました。
わが国では労働基準法で有期雇用契約の期間の上限が原則3年例外5年に規制されていますので、それ以上の期間就労してもらうことを期待する場合、基本的には期間の定めのない雇用契約とすることになります。この場合、民法の原則でいえば(福井先生などが強調するように)、当事者の一方が一定の手続のもとに解約を申し出れば契約は解除されるわけですが、労働契約の特殊性にかんがみて解雇権濫用法理が法定されているわけです。
で、たしかにこの「期間の定めのない雇用」には、1年とか3年とかいう「期間」の定めはありません。しかし、ほとんどの場合は、就業規則等で「定年」多くの場合は60歳であり、定年の定めをするのであれば60歳を下回ってはならないことが法定されています)を定めていて、定年年齢に達したら当然に退職するものとされています。つまり、期間の定めのない雇用にはたしかに「期間」はないとしても、「定年まで」という(別のことばを使うとすれば)「期限」はあるわけです。実務家の受け止めとしては、期間の定めのない雇用というのは、「定年まで雇用する」(ただし、実務的には転籍出向などもふくめ、雇用=働く場を確保する、という幅広な意味においてですが)という超?長期の「有期雇用契約」というのが大半だろうと思います。
であれば、定年退職については定年到達と同時に「客観的に合理的な理由」とか「社会通念上相当」とかいったものとは無関係に当然に雇用契約が終了するわけであり、それと「中立的」というならば、有期契約についても契約期間の終了と同時に「客観的に合理的な理由」とか「社会通念上相当」とは無関係に当然に終了する、としなければ「中立的」とはいえないのではないか、というのが私の言いたかったことです。
こういう意味でいえば、解雇権濫用法理に対して実務家がそれほど(少なくとも福井先生たちのようには)否定的な態度をとらない、むしろ受容可能なものとして受け止めていることが多いのも説明がつきます。つまり、「期間の定めのない雇用」というのが事実上「定年までの有期(限)雇用」である以上は、それを途中で一方的に打ち切るのは約束違反であり、よほどのことがなければやってはならないことだ、という理解になるからです。逆にいえば、定年制が禁止されて、「期間の定めのない雇用」が本当に「期間の定めも期限の定めもない雇用」になったとしたら、これは民法の定めるとおりに、当事者の一方が一定の手続のもとに解約を申し出れば契約は解除されるということでなければ成り立たなくなるでしょう。ということで、私たち実務家がよくいうように「解雇規制と定年制はセット」だということになるわけです。