テレワークは普及するか

次は5月13日のエントリを取り上げます。タイトルは「テレワーク普及のためには、人事制度も進化しないと」です。
http://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/2baeae78551322d5ea0e0fed8d46644d

…確かに、インフラという点では、テレワークはとっくに実現可能な環境になっている。
 ただし、それだけでは不十分だ。合わせて日本企業の人事制度も進化する必要がある。
 簡単に言えば、日本企業のそれはタコ部屋でばりばり働かせるためのもので、
個人の自主性に任せる風には設計されていないのだ。
 学生の課題レポートを想像すると分かりやすい。学生に課題を持って帰らせて後で提出させるには、「あなたの課題は○○ですよ」とテーマ・範囲を明確に切り分けることと、「提出されたレポートを評価する」という評価システムの両方が必須である。
 言うまでもないが、一般的日本企業は属人的な職能給だから、担当業務の明確な基準なんて誰にもわからない。
 評価システムにしても、年齢給なんてわけのわからない積立式のものなので成果評価はほぼ不可能だ。
 というわけで、普通に考えれば、“テレワーク”の普及は、あるとしても職務給(役割給といってもいい)が浸透し、年俸制などの出来高払いのシステムが一般化してからだろう。

このエントリで賛成なのは、一般論として「テレワークの普及には人事制度も進化する必要がある」という意見です。ただ、進化の方向性は異なります。
実は、テレワークの普及を阻んでいるのは労働法制だというのは実務家の共通認識になっていると思います。実際、雇用契約でのテレワークには労働時間の計上・把握とか労働災害の取り扱いとかいった問題が大きく、これを回避するために業務委託・請負などにした場合にも、労働者性の問題が立ちはだかります。ここをなんとかしないと、テレワークの大きな拡大は難しいだろうと思います。
もちろん、企業の人事管理においても、適切なコミュニケーションの確保など、取り組むべき課題はあります。城氏は評価と賃金のことを気にしておられますが、たしかにテレワークだと仕事のプロセスがみえませんので、職能給だと能力の評価が難しくなる可能性があります。成功確率の低い仕事を与えると、いいところまで行ったけれど結局ダメだったのか、そもそも何もしてなくてダメだったのかの区別がつかないとかいうことが起き得るでしょう。こういう仕事はテレワーク向きではないわけで、逆に言えば仕事の結果をみればそれなりに能力も評価ができるような仕事がテレワーク向きということになります。このあたりの層別は人事管理の課題でしょう。たしかに職務給のほうがテレワーク向きかなという感じはしますが、しかし必ずしも職務給にしなければテレワークが普及しないということではなさそうです。なお、これは冗談ですが、極論をいえばむしろ一部の労組が理想としているような人事考課のない完全年功制ならテレワークでも評価や賃金決定に困ることはなくなります(笑)。
なお、城氏は「評価システムにしても、年齢給なんてわけのわからない積立式のものなので成果評価はほぼ不可能だ。」と書いておられますが、賃金項目として年齢給を持っている企業(これも少なくなりつつあると思いますが)でも大半は別の賃金項目、たとえば職能給や役割給(役職手当など)を持っていますし、賞与は業績評価に応じて決めていますから、成果評価や成果を通じた能力評価は可能ですし、行われてもいます。また、年齢給というのは一般的には年齢にインデックスした賃金テーブルで決まる賃金項目を指しますので、「積立*1」が行われる性質のものではありません。
また、城氏は「“テレワーク”の普及は、あるとしても職務給(役割給といってもいい)が浸透し、年俸制などの出来高払いのシステムが一般化してから」という見解を示しておられますが、用語が混乱しています。出来高払いというのは典型的な成果給であり、職務給とは異なる概念です(純粋な職務給であれば、出来高がどうあれ職務が変わらなければ賃金も変わらないということになります)。まあ、職務によって出来高払いの単価が決まるようにすれば職務給だ、と強弁できなくもないでしょうが、一般的な用法とは違うと思います。同じように、年俸制は年間の賃金を事前に一括して決める制度なので、職務給であれ職能給であれ年俸制にすることはできますが、出来高が確定しないと賃金も確定できない「出来高払い」のシステムには理屈上はなりえません。まあ、前年の出来高で年俸を決めれば出来高払いだ、という強弁は不可能ではないかもしれませんが、しかし典型的な年俸制であるプロ野球選手の例などをみても「年俸**万円+出来高**万円」と区別されているわけで…。

*1:そもそも賃金制度には「積立」という概念はなかなかなじみません。勤続によって増額する退職金制度などは「積立」と言えなくもありませんが。あるいは、積み上げ式の昇給を行っている企業では、現在の賃金水準は過去の昇給を「積立」た結果だ、と言って言えないこともないかもしれませんが、かなり無理があるとは思いますが…。いずれにしても年齢給とは無関係ですし…。