テレワーク、今は拡大しているけれど

 昨日は兼業・副業の話題を取り上げましたが、本日はテレワークについて少し見てみようと思います、今日の日経新聞朝刊1面に掲載されている「コロナと企業」という連載特集記事でも、話のマクラにテレワークが取り上げられていますね。

 建設会社勤務の30代女性はコロナ禍のさなかの在宅勤務に疲れ果てたという。家の中には手がかかる2人の幼児。それでも会社は朝8時半から夕方5時半までの勤務を求めた。苦肉の策として彼女が仕事場にしたのが、自宅前に駐車した車の中。家の中で遊ぶ子どもたちを気にかけながら業務を続けるしかなかった。
 コロナ禍をきっかけに日本で広がるテレワーク。定着を目指す企業は多いが、オフィスと同じような時間で縛る働き方は難しい。
 本社勤務のほぼ全員がテレワークにシフトしたカルビー。すんなりと移行できたのは2009年から成果主義の報酬制度を順次取り入れてきたことが大きい。働く場所や時間は社員の自由。具体的な数字に基づいて会社と交わす「契約」の達成具合で給料が決まる。
(令和2年6月18日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)

 まずファクトから確認しますと、リクルートワークス研究所の機関誌『Works』の最新号(https://www.works-i.com/works/item/w160_toku.pdf)に掲載されている調査結果によると、前年と現在(緊急事態宣言発令後)のリモートワークの状況を比較して、「全くない」が85%から75%に減少する一方、毎日のように、は5%から10%に増加していますが、緊急事態宣言が出て、政府から強力に在宅勤務が要請されている非常時においてすらこの程度なのですね。「非常時」ということで、従業員も企業も相当にあれこれ我慢したり目をつぶったりしてこの程度なので、当然ながら事態が鎮静化すれば通常の通勤勤務へと戻る動きも出るでしょう(というか、すでに出ているような)。もちろん、今回の経験で在宅勤務のメリットを感じた人・企業も多いと思いますので(かくいう私もそうですが)「定着を目指す」方向性ではあるかもしれませんが、そのために人事管理を大幅に変更するという動きにはなりそうもないというのが私の見立てです。違うのかな。
 ということで、記事は続けてテレワークでは労働時間の把握が難しい、だから「ジョブ型」にして時間ではなく成果で評価しろ、それには日本の労働基準法が邪魔だ、という支離滅裂な展開になるわけですが、

 日本では戦後にできた労働基準法が会社に対して労働者の働いた時間を管理するよう求めてきたこともジョブ型が広がらない要因になってきた。
 海外に目を転じれば、ジョブ型は一般的だ…
 工場労働を前提とした「時間給」に縛られては日本は世界から取り残されかねない。働き手を時間から解き放つときが迫っている。

 いやまあ「働き手を時間から解き放つ」は悪いたあ言いませんよ。ただまあそれはやはり限られた一部の人の話であって(現状よりはかなり広げてもいいと思うが)、テレワークもたぶんそういう人たちのものなのでしょう。でまあ「海外に目を転じれば一般的」という「ジョブ型」の典型的なものは工場労働なんだからさ。さては君たち何もわかってないな
 さてテレワークに話を戻しますと、日経新聞は6月13日付朝刊でも1面でこんな記事を掲載しているのですな。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い本格化した在宅勤務を定着させる動きが広がっている。欧州では「在宅勤務権」の法制化が始まり、米国企業は在宅勤務の恒久化を決める例が相次ぐ。日本でも実施企業は増えたが、ルール作りなどで遅れている。在宅勤務は企業の競争力も左右する可能性がある。
 「本人が希望し職場も許すなら、コロナ後でも在宅で働けるようにすべきだ」――。ドイツのハイル労働・社会相は4月、現地紙のインタビューにこう述べた。労働者が企業などに在宅勤務を要求する権利を認める法案を今秋までに準備したいという。企業が要求に応じない際の罰則は想定せず理由を説明する義務などが盛り込まれそうだ。
 新型コロナを契機にドイツ国内で在宅勤務する人は12%から25%に上昇した。経済活動は徐々に正常化しているが電車通勤の混雑を避けるため、ホワイトカラー中心に在宅勤務する人は多い。
 ドイツでは近年、所定労働時間を短縮する動きが進んできた。在宅勤務では公私の区別があいまいで長時間労働につながる恐れがある。運用ルールを整備し労働者の権利保護を確実にする思惑もある。
(令和2年6月13日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)

 「在宅勤務権」といいますが「職場も許すなら」だからな。しかも比率は12%から25%と少数派です。やはり非常時だからということで、運用ルールの整備はこれからという話のようですから、流行がおさまれば通勤への回帰も起きるのでしょう。
 そしてここでも人事管理と労働法制に文句をつけるのですが、

 もっとも日本での定着には人事評価制度や労働法制の改革が必要だ。日本は労働時間に応じた給与体系が一般的で、企業側は在宅勤務を導入すると残業代の計算方法などが複雑となる。労働者にとっては長時間労働につながりやすい面がある。あらかじめ労使で決めた「みなし労働時間」で賃金を決める裁量労働制では、研究開発職など専門業務に限られる。

 いや欧州ではもともと労働時間規制が厳しい上に時間外労働なんてほとんどやらない、そもそも人事評価制度もありませんという労働慣行が定着しているわけであって、そういう人でもテレワークができる制度はあるものの経営サイドとしてはあまり関心ありませんというのが実態なわけでしょう。何時間働いても毎日働いても賃金は同じですなんてのは上位数%のエリートに限られているわけであってな。日経新聞は実はテレワークなんかどうでもよくて、「人事評価制度や労働法制の改革」をやりたいということなんでしょうね。
 なお結論として

 米国でも対面型のコミュニケーションを重視する企業は多く、アップルなどは今夏のオフィス勤務の本格再開に動くもようだ。個人の生活様式や職種、役割に応じて適した働き方は変わる。企業には在宅勤務も組み合わせ、多様な働き方を受け入れる環境づくりが求められる。

 たしかグーグルの日本法人だったと記憶していますが、わざわざオフィスの座席配置を移動動線が悪いように設計したり、邪魔になるところにお菓子とドリンクを置いたりして従業員の偶然のコミュニケーションを促進することで新たなアイデアを得よう、というような試みもされているわけですね。最初に出てきたカルビーフリーアドレスも有名ですが、これも座席は業務とは無関係にコンピュータに乱数を発生させて決めているわけで、やはり面着から生まれる価値というのはあるのでしょう。今般の感染症対策によるテレワークの拡大については、日経が言うような無理な固定化ではなく、冷静に事後検証して制度化していくことが望まれるように思います。