ワークルールチェッカー

連合は、この2月から「ワークルールチェッカー」という運動を展開しています。「3分間労働条件診断」と銘打たれており、「あなたの働き方が、本来守られなければならない労働のルールに沿っているかどうかをチェックするためのツールです。簡単な質問に答えるだけで簡単に労働環境の診断ができます」というものです。
http://www.work-check.jp/
開始後3か月を経過して、かなりの結果が蓄積されただろうということで、都道府県別の「全国の診断結果一覧」を見てみたところ…
http://www.work-check.jp/area
おお、「重大な法律違反があるかも!」を示すしおしおのぱーの顔が47個ずらりと並んでいて、一つの例外もありません。orz
これは「ひとまず安心」「やや問題あり」「かなり問題あり!」「重大な法律違反があるかも!」の4段階になっているようで、本日8:30時点の分布をみますと

A ひとまず安心 21.4%
B やや問題あり 6.6%
C かなり問題あり! 21.2%
D 重大な法律違反があるかも! 50.8%

…と、なっております。
さて、チェックの内容をみてみますと、なるほどこれは簡単で、以下のとおりの9つの文章があって、自分に該当する文章のチェックボックスにチェックを入れて「診断する」ボタンを押すだけというものです。

労働時間・休日・賃金・業務内容などの労働条件を書面でもらっていない。
給与明細に「厚生年金保険料」「健康保険料」が載っていない。
給与明細に「雇用保険料」が載っていない。
残業したのに、残業代が全部または一部支払われない。
有給休暇がもらえない、あっても取りづらい。
会社で健康診断を受ける機会がないか、自腹で健康診断をしている。
仕事上の病気・ケガをしたら、会社から「自分で治せ」と言われた。
会社の都合で仕事が休みになったのに、賃金補償がない。
仕事中にミスをしたら、罰金をとられる。

さて、どういう回答をするとどういう判定になるのかは説明がないので、週末にあれこれ試してみた*1ところ、それぞれの設問について上表のA〜D(ひとまず〜重大な)の判定が決まっていて、全体の判定はその中で最悪のものとなるようです。Cの「かなり問題あり!」が複数あっても、Dの「重大な法律違反があるかも!」がなければ判定はCになりました。
ということで、各設問の判定は次のとおりです。

設問 1 2 3 4 5
労働時間・休日・賃金・業務内容などの労働条件を書面でもらっていない。 B B B B B
給与明細に「厚生年金保険料」「健康保険料」が載っていない。 D D D A D
給与明細に「雇用保険料」が載っていない。 A D A D D
残業したのに、残業代が全部または一部支払われない。 D D D D D
有給休暇がもらえない、あっても取りづらい。 C C C C C
会社で健康診断を受ける機会がないか、自腹で健康診断をしている。 C C C C C
仕事上の病気・ケガをしたら、会社から「自分で治せ」と言われた。 D D D D D
会社の都合で仕事が休みになったのに、賃金補償がない。 C C C C C
仕事中にミスをしたら、罰金をとられる。 D D D D D

1:フルタイム正社員
2:パート・アルバイト(週25時間)
3:パート・アルバイト(週15時間)
4:派遣社員(期間2か月未満)
5:派遣社員(期間1年)
週15時間就労のパートタイマーの厚生年金・健康保険がD判定だったり、正社員の雇用保険がA判定だったりするのはやや不可解ですが、それらを除けばまずまずこんなところなのでしょうか。
ちなみに派遣社員だけはさらに5問の質問があって全14問となっています。判定は上の4、5とも同じでした。

「打合せ」「見学」の名目で、派遣先と事前に会ったことがある。 B
派遣先で行なっている業務が「港湾運送」「建設」「警備」「病院での医療」のどれかだ。 D
派遣先では同じ職場、同じ業務のまま3年以上働いている。 B
「派遣先との契約が途中で解除されたら、その時点で解雇する」という契約になっている。 C
派遣会社から 「退職後一定期間は、派遣先と雇用契約を結ぶな」と制限されている。 C

この判定もまあ妥当なのでしょう。
そこで、この基準で判定した結果を再掲しますと、こうなっていました。

A ひとまず安心 21.4%
B やや問題あり 6.6%
C かなり問題あり! 21.2%
D 重大な法律違反があるかも! 50.8%

まあ、特段問題を感じていない人はこういうものには手を出さない傾向がありそうなので*2、そういうバイアスがあるものとして見る必要はあるでしょうが、それにしても「重大な法律違反があるかも!」が過半というのは憂慮すべき事態と申せましょう。内訳はわからないのですが、いわゆるサービス残業(残業したのに、残業代が全部または一部支払われない)については連合の調査では約3分の1にとどまっていましたので、社会保険の未加入やいわゆる労災隠し(仕事上の病気・ケガをしたら、会社から「自分で治せ」と言われた)、罰金徴収などにチェックのついたケースも一定数あったのでしょう。
これに対して、「有給休暇がとりにくい」にチェックが入ると「かなり問題あり」と判定されますので、このハードルはかなり高かったかもしれません。ちなみに同じ判定となる「会社の都合で仕事が休みになったのに、賃金補償がない。」というのはかなり不適切な設問で、そもそも「会社の都合で仕事が休みになった」経験がない人は回答しようがありませんし、経験のない人には賃金補償の経験もないということでこれをチェックしてしまう人もいそうです。また、賃金補償の水準の問題もあり、法定の平均賃金の60%は上回っているものの全額までは補償されなかった人の中には、これにチェックをしてしまう人もいるでしょう。
いっぽう、「ひとまず安心」というのはひとつもチェックがつかないか、加入義務のない社会保険料が天引きされていない他にはチェックがつかないケースに限られ、「やや問題あり」も派遣社員以外は労働条件を文書通知されていない(これは通知されていても忘れているというのがけっこうありそう)以外にチェックがつかないケースにほぼ限られます。もちろん、100%「ひとまず安心」というのがあるべき姿ではありますが、とはいえ少なくとも3割近い人が「有給休暇がとりにくい」をチェックしなかったというのは、連合の取り組みの成果が現れつつあると評価してもいいのではないでしょうか。
まあ、この手のインターネット調査はあまりあてにはならないわけで、連合としてもデータをとるというよりはチェックしてもらうことのほうが主目的でしょうが、それにしてもあれこれ眺め回すとなかなか面白いものではありました。

*1:したがって、上の表の割合には私があれこれ試した分が含まれていますのでご注意ください。回答数はかなり多いようなので、それほど影響はないと思いますが…また、都道府県別の結果になるべく影響が出ないようにするには勤務地を適切に分散させたほうがよかったのでしょうが、それも面倒なので、手間を省くために勤務地は回答数がいちばん多いだろう東京都にして試しました。

*2:もっとも、特段問題を感じていない人こそこうしたチェックを行うことで「実は問題なのだ」という自覚を持つことができる、というのもこうした取り組みの目的のひとつではあるでしょうが。