職場の回覧で、週刊ダイヤモンドの新年合併特大号「2010総予測」が回ってきました。たしかリストラで購読を中止したはずなんですが、見本誌でも送られてきたのだろうか。
時節柄当然ながら労働問題にも多くのページが割かれているのですが、「2010年注目の論点」のコーナーでは「雇用政策」について八代尚宏国際基督教大学教授と社会活動家の湯浅誠氏というご両所が登場してそれぞれに所論を述べておられます。なかなか興味深いので、ちょっと古いですがご紹介したいと思います。
本日はまず八代先生ですが、お題は「規制強化は雇用機会を減少させ日本経済に深刻な打撃を与える」となっています。まず最初の3分の1くらいを要約しましょう。
ここまでのところはまったくそのとおりと申し上げるよりありません。5.の「行政官庁」を八代先生は「労働基準監督署」と書いておられますが、これは公共職業安定所のほうが適切だったでしょう(もちろん労基法違反については労基署が監督するわけですが)。「同一労働・同一賃金」についても、派遣先での、すなわち企業内での待遇を正社員と均衡させるという意味であれば、これは企業の人事管理上も配慮が必要なことだろうと思います。このあたり、八代先生はさすがに今現在の表面的な金額だけをみて「格差があるから職務給で同一労働・同一賃金にすべき」などと言い立てる単細胞とは違います。まあ、派遣労働者の賃金は派遣会社が支払うので、派遣先ではコントロールしにくいのが難しいところではあるのですが。
続いて、「正社員保護主義の裏返し」という小見出しがあります。
労働界への言及については労働界の人たちにはまた別の意見があるでしょうが、それはそれとして八代先生は「日本では、1年前に雇われた正社員を守り、10年働いている非正社員が解雇されてしまう」と憤慨しておられますが、これは微妙なところです。1年契約で9回更新したものの、期間終了後の更新は約束していない、雇い止めがありうるという前提で1年契約して期限が到来した非正社員と、定年までなんらかの形で雇用すると約束して、他社の内定を断って就職してきた1年めの正社員がいたとして、はたして後者を解雇して前者の契約を更新することが妥当かどうかはおおいに議論があるところでしょう。
解雇の金銭賠償についてはまったくそのとおりで、大企業が1,000人整理解雇しようというときに金銭で済ませていいのかという議論と、中小、特に小企業がやむにやまれず1人、2人を解雇せざるを得ないときにどうするのかという議論とは分けて考える必要があるでしょう。現実をみれば、後者についてはなんらの金銭給付もなく解雇されている例が多いというのが実態ですし、仮にそれを訴訟にしたところで仕事がなくなって給料日の金策にも窮している企業が1人、2人を泣く泣く解雇したものを無効とする裁判所も少ないでしょう。であれば、金銭賠償ルールを決めておけば労働者にとってもメリットが大きいという八代先生の主張はうなずけるところです。これはむしろ、正社員より非正規雇用の雇い止めのほうがなじみやすいかもしれません。
最後の「非正社員の働き方を規制で封じ込めようという論理は、従来の日本的雇用慣行とそれによる既得権益を持つ正社員の保護主義の裏返しだ」というのは意味がよくわからず、これはおそらく編集のまずさによるものでしょう。八代先生はかねてから日本的雇用慣行には優れた点が多々あると評価したうえで、しかしそれを政府があたかも「無形文化財」のように保護・拡大し、それ以外を排除しようとしていることを批判しておられますが、ここも本来の趣旨はそういう意味だったのではないかと私には思えます。