松浦民恵「派遣営業職の現状と課題」

海外ではフリーの営業職というのもそれほど珍しくはないらしいですが、わが国でそれに近い存在というと派遣営業職ということになるのでしょうか。大規模インターネットモニター会社を利用してもそのサンプルはきわめて少なく、この分析では91人が対象になっています。ニッチな分野なので目新しく、それだけで興味深いのですが、調査結果もまた興味深いものになっています。
派遣営業職の業務を顧客のアポ取りから情報収集・情報提供、ニーズのヒヤリングなどの「訪問活動」、営業戦略の検討や企画・提案の作成・プレゼンといった「戦略業務」、および契約交渉・締結・苦情処理といった「契約保全業務」に大別し、それぞれについて「主たるメンバーとして」高く関与している分野が2つ以上あれば「基幹型」、1つ以下を「非基幹型」と類型化しています。さらに非基幹型のうち、営業の本質的業務とされる訪問業務への関与が高いタイプを「訪問特化型」、それ以外を「営業補助型」と分類しています。
この3つの類型を比較すると、明らか(有意)に言えるのは非基幹型に女性が多いこと、営業補助型の現派遣先での勤続が長いこと、非基幹型に正社員希望が少ないことなどが上げられます。また、営業のタイプとして、非基幹型は法人訪問・対個人営業が多く、法人営業が少なくなっています。
また、働き方をみると、非基幹型、特に営業補助型は難しい仕事を任されることは少なく、また、仕事に関する拘束度は全般に基幹型で高いことが示されています。スキルについても、基幹型のほうが能力向上を実感しているようです。
あと、興味深い結果としては、賃金については営業補助型で明らかに低い一方で、基幹型が有意に高いという結果は得られていません。また、直接雇用の可能性(ほぼ正社員とみてよさそうに思われます)について、基幹型が明らかに高くなっていることがあげられます。ちなみに仕事や労働条件全般などへの満足度については有意な差はみられないものの、基幹型で意欲の低下が観察されるとのことです。
これらをふまえて、基幹型では負荷の高さに較べて労働条件で恵まれず意欲の低下を招いているとの解釈が示されていますが、私としては基幹型に正社員採用期待が高いことに着目したいように思います。勤続すれば正社員になれる可能性が高いと感じているいっぽうで、今のところなれていないという現実が意欲の一時的低下を招いているという見方もできそうに思われるからです。まあ、期待が高いといっても3割程度なので、やや無理のある見方かもしれませんが…。
なお、補論として営業職場の管理職に対するアンケート結果も付されており、それによると多くの管理職は営業で派遣労働者を活用することは中長期的な営業活動・顧客との関係や情報管理の面で困難をともなうと考えているようです。もっとも、回答者の多くは派遣労働を活用した経験はないようで、思い込みというか、心配しすぎの可能性もありそうです。おそらく、その規模の小ささが派遣営業職のキャリア形成を制約する最大の要因と思われますので、派遣営業職の職域の拡大と、正社員化の双方が課題となりそうです。