島貫智行「事務系派遣スタッフのキャリア形成における現状と課題」

事務系派遣社員のキャリアを過去2年間の就労実績によって次の3つに類型化し、それぞれにおける労働条件やスキルの上昇などを検証した調査です。

  1. 派遣元・派遣先とも同一の会社で勤続している「派遣先固定型」(n=236)
  2. 派遣元は同一だが、派遣先を変えて複数派遣先で勤務した「派遣元固定型」(n=110)
  3. 派遣元・派遣先とも変更して複数派遣先で勤務した「変更型」(n=140)

それぞれの属性はあまり大きくは異ならず、女性が95%前後と圧倒的に多く、平均年齢も36歳前後、有配偶比率も30%台なかば、有子比率も15〜22%と目立った違いはありません。「自分が主たる生計維持者」も40〜55%程度で、単身者が多いことを考えれば妥当な水準でしょう。「正社員経験あり」がいずれも80%台なかばとなっているのは目をひきます。派遣就労期間は70〜80か月前後でかなり長い印象で、今の派遣先は1.がもっとも長く43.4か月、次いで2.も23.2か月とそれなりで、3.が9.9か月と短くなっています。ただ、過去2年間の就労で類型化したことを考えると、2.の「派遣元固定型」の23.2か月はやや不自然に長いようにも思えます。今の派遣元については53.2、52.9、9.4と、前2者で差がないのは妥当でしょう。
そこでそれぞれの仕事、賃金、スキルの変化をみてみますと、まず仕事難易度が上昇した人の比率は、1.で60%強、2.で50%強、3.で40%弱となっています。これは時系列の相対的な変化であって難易度の水準を示すものではありません。現在の仕事の難易度の水準をみると、2.が最も高く、次いで1.、3.という順になっています。スキルレベル(仕事ではなく自分の能力)の変化については、1.で60%強、2.で60%弱、3.で50%強が向上したとしています。
賃金については、上昇した人の比率は1.から順に50%強、40%弱、30%強であり、下降した人の比率は順に数%、10数%、20%強となっています。賃金水準そのものについては、2.が最も高く、次いで1.、3.という順になっています。
また、派遣経験期間と仕事難易度、賃金、スキルの上昇との関係をみると、総じて経験期間が長くなるほど上昇が鈍るという傾向がありそうなことが見てとれます。例外は2.で、難易度と賃金については長くなるほど大きく上昇する傾向がありそうです。ただスキルが伸びなくなる程度も2.が最大です。
こうしてみると、スキルを伸ばし、賃金を上げていくには同一派遣先に勤続することが有利であるという傾向がみられます。ただ、長期になるとその伸びは鈍化するため、ある程度スキルが高まり、ある程度希少性が出てくると、スキルの伸びとは直接の関係はなく(需給要因中心で)派遣先を変えることで賃金や仕事難易度がさらに向上する可能性があるということがわかるように思われます。
いまだに、事務職の派遣では賃金は上がらない、スキルも伸びないという思い込みで議論をする人も間々みられるのが現実ですが、この結果をみると決してそのようなことはないということがわかります。また、賃金やスキルの上昇には同一職場での勤続が重要であり、したがっ事務職であっても派遣期間などを事実上短く制約するような規制は行うべきでばないという含意が得られるように思われます。いっぽうで、派遣労働の継続ではキャリア的な限界もあることが示唆されており、正社員としての転職機会が増えることが望ましいという含意もありそうです。