シンポジウム「人材ビジネス研究のこれから:6年間を振り返って」

佐藤博樹先生がコーディネーター、玄田有史・守島基博・山川隆一各先生がパネリストという豪華な顔ぶれで、加えて佐野嘉秀先生が研究全体のコメンテーターとして参加されました。
テーマは人材ビジネス研究の今後の課題、ということで、まずは守島先生が人事管理論の立場から、人材ビジネスを通じて就労している人たち、特に派遣労働者が職場でどのようにマネジメントされているのか、直接指揮命令する職場上司と、派遣会社のマネジャーとがどのような役割を負ってどのような管理をしているのか、といった観点からの研究が不足しているのではないかとの問題提起をされました。
続いて労働法の立場から山川先生がコメントされましたが、特に印象に残ったのは、労働法学者というのは基本的に紛争になったケースを研究しており、判例などを通じて具体的な労使関係や人事労務管理に接してはいるものの、それはやはり異常事態であって、正常な状態については知識がない、との指摘でした。
玄田先生は労働経済学の立場から、現状の労働市場が二極化している中で、今後の労働市場をどうしていくのかというビジョンがいくつか示されている、たとえば全員正社員にするという一極化、全員非正社員にするという無極化(これは玄田先生と同カテゴリの経済学者に多いそうです:私は労働研究者でない経済学者に多い意見だと思いますが)、そして多様な雇用形態を認める多極化などがある、と指摘され、将来ビジョンの中で人材ビジネスのあり方を見極めていくことが重要だとの意見を述べられました。今後のビジョンが重要であることについては山川先生も言及されていたと思います。佐藤先生はこれに対して、多極化が望ましいとしても当面はまず三極化ではないか?とのコメントをしておられました。
聴講者からの質問もいくつかありましたが、面白かったのはリクルートワークス研究所の村田弘美先生の意見で、派遣は直接雇用と違って消費課税されるので、それを派遣労働者の能力開発支援の財源としてはどうか…というものです。これに対しては玄田先生が「追加的に課税するのであれば派遣労働の縮小を招き、現行消費税を目的税化すると派遣労働の活用を奨励することになる。いずれにしても中立ではないので慎重な検討を要する」と回答しておられましたが、佐藤先生からは「面白い考えじゃないか」との感想も聞こえておりました。
私の感想としては、まあなかなか難しい課題ではあるのですが、企業での労使関係や人事労務管理の実務の立場からみれば、人材ビジネスはその中の一部を占めているに過ぎず、各企業の人事管理の方針などに応じて補完的に活用されているわけです。企業の自前と人材ビジネス利用とのトレードオフ?はどのような関係にあるのか。また、世間ではともすれば「人材ビジネス=非正規労働」という短絡がみられるわけですが、もちろんそうではありません。企業の自社型雇用ポートフォリオ、その構築に人材ビジネスがどこでどのように関与しているのか。そこが整理されてくると、かなり視界も開けてきて、実務に対する示唆も多く生まれるのではないか…などといった感想を持ちました。まあ、聴講しての印象に過ぎないのではありますが。