円城寺次郎記念賞

東大社研の玄田有史先生が、日経新聞・日経センターの第2回円城寺次郎記念賞を受賞されたそうです。おめでとうございます。
この賞は「理論を踏まえて現実社会に有益な分析・提言をした若手・中堅の経済学者を3年に一度、顕彰する」ものだそうで、今回はもうお一方、澤田康幸東大准教授が受賞しておられます。
http://www.jcer.or.jp/enjoji/enjoji.html
岩田一政先生の選評から。

 1990年代後半に日本の労働市場には、大きな構造変化が生じた。非正規雇用が増加し、すでに雇用者の3割を超えている。…社会的なつながりを失い、希望を喪失したニートや独身無業者が増加した。大企業、中小企業を問わず、企業における人的資本資源の管理は、新たな「日本企業モデル」形成過程における核心部分といえる。非正規職員であっても、ジョブ・キャリア形成が可能になる仕組みを社会にビルトインすることが求められている。

 玄田氏は、日本の労働市場の構造変化を事業所の開設と閉鎖を含む雇用機会の創出(ジョブ・クリエイション)と消失(ジョブ・ディストラクション)の視点から、若年雇用問題や中高年のリストラ問題を中心に手堅い実証分析を重ねてきた。…揺れる若者は、日本の先行きに敏感に反応した、炭鉱のカナリアではないかと警鐘を鳴らしてきた。…
 玄田氏は、日本の企業社会が、戦後経済発展の美点であり、しかも国際競争力の源泉である「人を育成する」ことの重要性を忘れかけているのではないかと問い、現代日本社会の病を鮮やかに活写している。同時に、中小企業の中に人を育てる経営を行い、業績をあげていることに注目している。
 また、雇用創出には、人とのつながりや創業支援が重要であり、企業、再就職支援会社、個人、地域、行政など多岐にわたる社会的な「連携」を構築することが不可欠であると指摘している。
 玄田氏は、…内外の研究者と共に、グローバルな視点に立ったユニークな「希望学」プロジェクトを東京大学社会科学研究所で推進している。優れた研究者であるだけでなく、経済学、経営学社会学政治学、人類学、文化人類学を横断的に組織する学際研究プロジェクトの卓越した組織者でもある。心から受賞をお祝いしたい。
(平成21年11月30日付日本経済新聞朝刊から)

ここにあるように、玄田氏がこんにちの若年雇用問題について初めて実証的な根拠をもとに説得的に警鐘を鳴らした人であることは間違いないでしょう。しかし、そのインプリケーションが「戦後経済発展の美点であり、しかも国際競争力の源泉である「人を育成する」ことの重要性」と従来型の企業内人材育成を肯定し、「非正規職員であっても、ジョブ・キャリア形成が可能になる仕組みを社会にビルトインする」というものであったことから、一部の首切り賃下げマンセー厨や反企業内人材育成・市場横断的職務給厨や非正規雇用禁止厨からおおいに不評を買いもしたわけです。とはいえ、「手堅い実証分析」にもとづく考察の帰結としては、玄田氏の結論がもっとも妥当なものではないかと私などは思うわけですが。なお余談ながら、日経新聞も一時期は首切り賃下げマンセーを吹かしまくっていた(一部誇張あり)ことを思うと隔世の感があるといいますかなんといいますか。
そういう意味で、日経センターのサイトに掲載されている今回受賞を受けてのインタビューにおける玄田氏のこの発言も、あるべき方向性を示したものといえるでしょう。

労働市場の改革、よりよい雇用政策のあり方は?

 人を大切にするという日本的雇用システムの根幹を維持しつつ、状況に応じた適切な変化を遂げるには、柔軟なモードチェンジを絶えず繰り返すことが必要である。今回重要なチェンジを一言でいえば、非正規雇用も大切にするシステムを、経済合理性に照らしつつ、いかに社会全体に普及させるか、である。
 不確実性が高まるなか、企業は正社員の採用に慎重であり、非正規の積極採用は今後も継続する。ただ中長期的には人材活用や労働力不足を念頭に、不測の事態がない限り、優秀な非正規にはできるだけ長く勤め続けてもらいたいという企業のニーズも強い。一方、非正規労働者にとっても、賃金の改善の他、まず何よりも安定した就業機会の確保を期待している。
 そう考えると今後は、非正規の安定雇用化もしくは内部化が、労働市場の一つの確かな方向となるだろう。労働市場の動きを無視した改革は成功しない。市場の流れを適切に後押しする雇用政策が最終的には効果を持つ。

これは会員限定のコンテンツらしいので、転載はまずいのかな。まあ大目にみてください。具体論は語られていないのですが、今後おそらく実証的根拠をもとに提示されることでしょう。注目して待ちたいと思います。
それにしても、どうでもいいことですが新聞掲載写真のヒゲ面は似合いませんぜ。