民主党マニフェスト政策各論その1

さて、きのう取り上げた民主党マニフェスト、今日は労働政策の各論をみてみたいと思います。該当部分は、政策各論の37〜41になります。

37.月額10万円の手当つき職業訓練制度により、求職者を支援します

【政策目的】
雇用保険生活保護の間に「第2のセーフティネット」を創設する。
○期間中に手当を支給することで、職業訓練を受けやすくする。

【具体策】
○失業給付の切れた人、雇用保険の対象外である非正規労働者、自営業を廃業した人を対象に、職業能力訓練を受けた日数に応じて「能力開発手当」を支給する。

【所要額】5000億円程度
http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2009/pdf/manifesto_2009.pdf、以下同じ

これは必要な政策だろうと思います。ただ、これについてはすでに「訓練期間中の生活保障給付制度」が導入されていて、金額も同じ月10万円(扶養家族を有する場合12万円)となっています。対象者についても求職者であれば足りており、民主党がそれ以上なにをやろうとしているのかは不明です。
推測するに、現行制度はいったん貸し付けた上で要件を満たせば返還を免除することになっていますが、これを最初から渡し切りの手当の給付にしてしまおうということでしょうか。まあ、貸し付けでは不安が残るから、という気持ちはわからないではありません。ただ、現行制度では再就職した場合には全額の返還を免除するということで、就労促進型の制度にしているという点には注意が必要で、渡し切りにするのであれば、たとえば公共職業安定所の紹介を3回断ったら受給資格停止、といったしくみをあわせて導入する必要がありそうです。それと現行制度とどちらがいいのかの比較は微妙ですが…。

38.雇用保険を全ての労働者に適用する

【政策目的】
セーフティネットを強化して、国民の安心感を高める。
雇用保険の財政基盤を強化するとともに、雇用形態の多様化に対応する。

【具体策】
○全ての労働者を雇用保険の被保険者とする。
雇用保険における国庫負担を、法律の本則である1/4に戻す。
○失業後1年の間は、在職中と同程度の保険料負担で医療保険に加入できるようにする。

【所要額】3000 億円程度

雇用形態の多様化が進む中、それに対応したセーフティネット整備が必要で、雇用保険についても先般の改正で相当の手当がなされました。民主党はこれをさらに拡大しようということで、たしかにあれこれ要件をつけずに雇われて働く人はすべて雇用保険の被保険者にするというのもわかりやすくていいかもしれません。ただ、給付のほうは適切な要件をつける必要があるでしょうが。
それから、「全ての労働者」とさらっと書いていますが、公務員は「全ての労働者」に含まれるのでしょうか?語義としては含まれないと考える理由はなさそうですが、公務員の加入まで念頭におかれているとするとかなり踏み込んだ提案で、これはぜひとも実現させてほしいものです。
あと、雇用保険の項で「失業後1年の間は、在職中と同程度の保険料負担で医療保険に加入できるようにする」というのが出てくるのがかなり唐突な感がありますが、これは具体的にはどうしようということなのでしょうか?国民保険料を在職中並に据え置くということでしょうか。これは賛否がありそうですが、失業したのに医療保険の負担が上がるのはツライだろうという気持ちはわかりますが…。

39.製造現場への派遣を原則禁止するなど、派遣労働者の雇用の安定を図る

【政策目的】
○雇用にかかわる行き過ぎた規制緩和を適正化し、労働者の生活の安定を図る。
○日本の労働力の質を高め、技術や技能の継承を容易にすることで、将来の国力を維持する。

【具体策】
○原則として製造現場への派遣を禁止する(新たな専門職制度を設ける)。
○専門業務以外の派遣労働者は常用雇用として、派遣労働者の雇用の安定を図る。
○2ヵ月以下の雇用契約については、労働者派遣を禁止する。「日雇い派遣」「スポット派遣」も原則禁止とする。
派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇原則を確立する。
○期間制限を超えて派遣労働者を受け入れている場合などに、派遣労働者が派遣先に直接雇用を通告できる「直接雇用みなし制度」を創設する。

このあたりからかなりおかしくなってくるようで(笑)
政策目的はお題目ですからともかくとして、製造派遣については民主党がかねてから主張しているような、一定の専門職を除いて原則禁止という考え方のようです。今回たまたま製造業での仕事量の減少が激しく、雇用調整の規模も大きくなりましたが、だから製造派遣を禁止するというのはいささか短絡的で、それでは次に流通業(でもなんでも)で同様の事態が起こったら、その業界でも派遣を禁止するということでしょうか。また、いずれにしても業務量の変動に対応するための有期労働者は一定程度必要なので、派遣を禁止すればそれが直接雇用の有期契約に変わるだけでしょう。まあ、それでも直接雇用になるだけマシという考え方もあるでしょうが、「労働者の生活の安定を図る」「日本の労働力の質を高め、技術や技能の継承を容易にする」というお題目との関係はどうなるのかというと、まあお題目だからいいのか…。
続いて、「専門業務以外の派遣労働者は常用雇用」というのは、上の新たな専門職とはまた違う話なのでしょうか。おそらくは、比較的市場価値が高くて好条件の仕事が得られやすい専門業務については登録型派遣も認めるが、そうでない労働者は常用型派遣しか認めない、ということなのでしょう。
まあ、気持ちはわかりますが、しかしこれは現実とは正反対です。派遣会社としてみれば、一定の専門性を持ち、多くの派遣先から高い評価を得ている「稼げる派遣社員」こそ常用化し、派遣先のないときにも教育訓練を施すなどしてその人材価値を高めようということになるでしょう。政策的にも、こうした動きを後押ししていくことが望まれるのではないでしょうか。
いっぽう、それほどの専門性のない場合は、派遣先の期待も補助的なもので、働く人もそれほど収入を強く求めるわけでもなく、登録型で職種や勤務地、勤務日や労働時間の条件があう仕事があれば働くというスタイルを好む場合も多いでしょう。仮に専門性の高くない業務については登録型を認めない、となれば、現在登録型で働いて、それなりに満足している多くの人たちの仕事が失われることは想像に難くありません。まあ、またそのかなりの部分は直接雇用のパートタイマーなどで就労できるでしょうが、労働者派遣の持つ需給調整機能は大幅に失われますし、そもそも「労働者の生活の安定を図る」「日本の労働力の質を高め、技術や技能の継承を容易にする」というお題目との関係は(ry
やはり、政策目的にかなう政策としては、一人ひとりのスキルを高め、より付加価値の高い仕事につけるようにしていくことで、賃金も雇用の安定も向上していく、という方向性ではないかと思います。
「2ヵ月以下の雇用契約については、労働者派遣を禁止する」というのは、派遣期間が2か月以下はダメ、ということでしょうかね。だとすれば「日雇い派遣」「スポット派遣」もダメ、というのは当然の帰結となりますね。まあ、確かにこうした形態が低賃金・不安定労働で問題だ、というのはわかりますが、しかしだからといって禁止するというのもいかにも短絡的なような…。これまでも何度も書いていますが、日雇派遣を便利に使っている学生アルバイトや定年退職後の高齢者などにとってはまことに迷惑な話でしょう。また、現状のような厳しい雇用失業情勢がいつまでも続くことはないでしょうし、続いたら困るわけですが、少なくとも現時点においては日雇派遣でもスポット派遣でも働きたい、と考えている人も多いわけで、こうした人たちも大いに迷惑を被ることになりそうですが…。
それに続く「派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇原則」だの「直接雇用みなし制度」だのいった寝言にはいちいちコメントする気もおきません(「直接雇用を通告できる」という表現には吹きましたが)。遠い海の向こうの国ではどうのこうのと言われても、日本の現実はそれとは全然違っているんですから…。
ということで(どういうことだ?)続きは明日ということで(笑)