派遣労働が政治の集中砲火を浴びる中、7月28日に厚生労働省の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」の報告書が発表されました。この研究会は、そもそも労働政策審議会の需給部会で労使の議論がなかなかまとまらず、有識者による研究会に議論の材料となる報告をまとめてもらおう、という趣旨で設置されたものと聞いています。ところがそこに、「派遣労働ケシカラン」というヒステリックな議論が巻き起こり、それを見かねた政治から「派遣労働なんとかせよ」との圧力が強まったことから、この研究会報告もおおいに世間の注目を集めることになった…というのがことのいきさつではなかったかと、まあそう思うわけです。
そう思って(私のまったくの思い込みですが)読むと、この報告書の日雇派遣に関する部分は、なかなか苦労して書かれているのようにも読めてしまうのが面白いところです。
まず結論部分を読みますと、こうなっています。
…あまりに多くの問題を生じさせている日雇派遣という派遣形態については、労働者の保護という政策的な観点から、禁止することを検討すべきである。
その場合、禁止の対象とする、又は、禁止の例外とする業務等の範囲については、
・特に、派遣元事業主の教育訓練が不十分である場合に労働災害が発生するおそれがあるような危険度が高く、安全性が確保できない業務、雇用管理責任が担いえない業務は禁止の対象にすべきであること
・一方、専門業務等を中心に、労働者の側に広く交渉力があり、短期の雇用であっても労働者に特段の不利益が生じないような業務もあり、これらの業務であって日雇形態の派遣が常態化しているものについては、禁止をする必要がない業務もあること
などを考慮し、原則的に禁止すべきとの意見もあり、こうした意見も勘案しつつ、具体的な業務等の範囲を検討することが必要である。
(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/07/dl/h0728-1b.pdf、以下同じ)
「危険度が高く、安全性が確保できない業務」は禁止すべきであるいっぽう、「専門業務等」は禁止しなくてもいいと、この2例があがっていますが、当然ながらこの間にはきわめて広いグレーゾーンが存在します。「原則的に禁止すべきとの意見もあり、こうした意見も勘案しつつ」というのは、原則禁止のポジティブリスト方式にすべきだということですが、そのリストをどのように作るのかは、かなりの幅のある書き方になっています。
もともとこの前段では、日雇派遣について次のように総括しています。
…あまりにも短期の雇用・就業形態であることから、派遣元・派遣先の双方で必要な雇用管理がなされず、また、事業主のコンプライアンス意識の低さも相まって、現実には、禁止業務派遣や二重派遣、賃金からの不適正なデータ
装備費の控除等の法違反の問題が生じており、労働災害の発生も指摘されている。
我が国においては、雇用契約の期間について、これを付す場合の事由の制限や、下限規制はされていない。また、労働者派遣においても、臨時的・一時的な労働力需給調整のシステムとして位置付けられていることから、短期の有期雇用契約を締結して派遣されることは制度的に予定されている形態であるともいえる。したがって、日雇派遣について、雇用契約の期間が短いということだけで、そのような形態の派遣が当然に否定されるものではない。
他方、労働者の就業に関与する者が複数になれば、責任の所在があいまいになりがちであり、労働者保護に欠ける状態になりやすい。このため、現行法制は、禁止される労働者供給事業の中から、派遣元事業主を雇用者とする形態のみを労働者派遣として認め、派遣元事業主が必要な教育訓練等をはじめとする雇用者責任を果たすことを制度の前提としているものであるが、雇用関係の存続する期間が短期になれば、これが果たしにくくなる。上記のような日雇派遣の問題点も、このような雇用者責任の欠如が多くの原因と考えられる。
これをみると、「あまりに多くの問題を生じさせている」といってもその大半は「禁止業務派遣や二重派遣、賃金からの不適正なデータ装備費の控除等の法違反」、つまりすでに違法であって取締りと処罰で対応すべきものであり、それ以外は「労働災害」だけなのですから、基本的には危険業務についてのみ日雇派遣を禁止するのが適当という論旨になっているように思われます。日雇派遣に対して誇張とも思われるような批判的表現を織り込んでいることや、原則禁止のポジティブリスト方式を示唆しているところは政治的圧力への配慮であって、したがってグレーゾーンを広くとってポジティブリストの範囲を大きくとれるような書きぶりをしているのではないか…というのはさすがに深読みしすぎでしょうか?
実際、これに続く登録型派遣のあり方や、派遣先で直接雇用される労働者との均衡待遇、違法派遣の是正のための派遣先での直接雇用といった各論点については、あれこれと批判や規制強化論があるにもかかわらず、ほとんどが現状維持的な現実的な論調におさまっています(まあ、あまりに現行法を肯定しすぎていてつまらないことはつまらないのですが、昨今の諸情勢を考えればこれが精一杯でしょう)。研究会に集まった研究者が、その良心の許す範囲を守るべく苦心した作品…という見方はあまりに「うがちすぎ」かとも思いますが。