人並みで十分

 今春の新入社員のうち、「働き方は人並みで十分」と考えている人の割合が半数を超え、92年以来の高水準だったことが社会経済生産性本部などの意識調査でわかった。同本部は「売り手市場を背景に、スムーズに内定に至った『カーリング型』の新入社員が多く、お気楽志向が強まっている」と分析している。
 今年3〜4月に同本部が実施した新入社員研修の参加者を対象に調査し、3833人から回答を得た。「人並みで十分」は前年比4ポイント増の51.9%で、「人並み以上に働きたい」は4.3ポイント減の38.5%。「思っていたよりも満足のいく就職ができた」という回答が82.4%もあった。
(平成20年6月30日付朝日新聞朝刊から)

ちなみに「カーリング型」というのはこういうことだそうです。

 社会経済生産性本部(東京)は26日、今年の新入社員の特徴を表すキーワードを「カーリング型」と発表した。「売り手市場」の時期に入社し、会社への帰属意識は低めのため、会社側が働きやすい環境づくりに腐心する、というのが命名の理由という。
 氷上競技カーリングは2006年、トリノ冬季五輪で日本女子代表の活躍が注目を集めた。就職氷河期だった先輩世代と異なり、今年は「氷の上を滑走する石のごとくスムーズに就職できた」。入社後は「方向を見定めそっと背中を押す」ことなどが不可欠とする。
 育成も、カーリングの石と同様に「ブラシで氷をこするのをやめると、減速や停止をしかねない」。「磨きすぎると目標地点を越えてしまったり、はみ出したりしてしまう」こともあり、上司には微妙な“ブラシさばき”が求められそうだ。
(平成20年6月27日付日本経済新聞朝刊から)

ははあなるほど、とそれはそれとして、「人並みで十分」の52%は、過去最高だったバブル期(1991、1992年調査)の53%に次ぐ水準なのだとか。「「思っていたよりも満足のいく就職ができた」という回答が82.4%」なんて、就職超氷河期世代の人からしたら冗談じゃないという感じでしょう。
もっとも、この調査は毎年実施されて注目されているものではありますが、対象は世間一般の新入社員ではなく、日本経済青年協議会が開催している新入社員向け合同研修会「新社会人研修村」に参加した新入社員であることには注意が必要です。自前ですべて新入社員教育をやりきってしまうほどではないが、しかし決して安くはない費用をかけて外部の研修会に新入社員を派遣するだけの意識はある企業の新入社員、ということです。実際、企業規模をみても、回答者の9割以上は従業員数500人以上、半数は3,000人以上の企業に勤務しており、3割近くが5,000人以上の大企業勤務です。そう考えれば、回答者は比較的就職に恵まれた人たちであり、「思っていたよりも満足のいく就職ができた」と考えている人が多いのも自然なのかもしれません。
この調査結果、http://activity.jpc-sed.or.jp/detail/lrw/activity000867/attached.pdfでみることができますが、なかなか興味深いものがあります。

●仕事中心か生活中心かでは、「仕事と生活の両立」という回答が大多数(79.7%)を占め、「仕事中心」(9.5%)、「生活中心」(10.7%)、という回答を大きく上回る。

人並みに働いて仕事と生活を両立したい、生活を犠牲にしてまで人並み以上に働きたくはない、というのは、まあ理屈はあっているといえそうですが、

●デートか残業か──プライベートより仕事を優先が多数派
「デートをやめて仕事をする」(81.4%)、「ことわってデートをする」(18.1%)と、プライベートな生活よりも仕事を優先する意向が窺える。このうち、「デートをやめて仕事をする」という回答は男性77.6%に対して、女性87.1%と女性のほうが10ポイント近く上回っている。

デートか残業か、となると急にストイックになるようです。ことわってデートをしてこそ「人並みに働いて仕事と生活を両立」ということになるのではないかと思うのですが、デートで残業を断るのは「人並み以下」だ、という意識なのでしょうか。あるいは、デートは生活の中でも優先順位の低いイベントなのか。女性のほうがデート軽視の傾向が強いのも、女性のほうがデートなんて言っていられない状況におかれているということなのか、男性の女性に対する意識より女性の男性に対する意識が低いということなのか…。いずれにしてもちょっと気がかりといえば気がかりです。
まあ、現実にはまだ社会経験のほとんどない新入社員ですから、これからの経験を通じていろいろと意識も変わってくることでしょう。いまはいくらか「お気楽志向」であるにしても、先行きに関しては

…社会の先行きについてはむしろ暗いイメージをもつものが増加している。「世の中は、いろいろな面で今よりもよくなっていくだろう」(Q30-18)が昨年の48.5%から42.9%に減少し、「世の中は、いろいろな面で、今よりも昔のほうがよかった」(Q30-19)が昨年の44.1%から48.1%に増加している。

ということで、それほど楽観しているわけではなさそうで、これから山あり谷ありの職業人生が待っていることでしょう。次代を担うべき新入社員たちが大きく順調に成長することを期待したいものです。