サマータイム、やってみては?

洞爺湖サミットを前に日本でもサマータイムの導入をめざそうとの動きが活発になり、超党派議員連盟が今国会に法案を提出する方針を示したいましたが、どうやら今国会については見送りとなるようです。

 自民党は9日、政調全体会議を開き、超党派議員連盟が今国会に提出する方針を示していたサマータイム法案の扱いを谷垣禎一政調会長に一任することを決めた。谷垣氏は会議で「まだ議論を煮詰めないといけない。民主党とどう連携するかも考える必要がある」と指摘。同法案の今国会提出は見送られる公算が大きくなった。谷垣氏は会議で「安易に党議拘束を外すのは難しい」とも語った。
(平成20年6月10日付日本経済新聞朝刊から)

会期は小幅に延長されるようですが、首相問責決議案などで政策的には無為な時間が浪費される(政治的には意味があるのでしょうが)ことを考えると、実際問題として時間的にも無理でしょう。
今朝の日経新聞は、社説でサマータイム制をとりあげています。


 過去に何度も取りざたされたサマータイム導入が現実味を帯びている背景には、環境問題への意識の高まりや、環境を主要テーマに洞爺湖サミットが開かれることがある。
 ただ、省エネ、経済効果の数字の多くはあくまで試算にすぎない。睡眠不足など体への悪影響、コンピューターシステムや時計、電気製品などの調整の手間を問題にする声もある。結局暗くなるまで働き残業が増えるとか、早く帰宅すれば家庭の光熱費がかさむとも指摘される。
(平成20年6月11日付日本経済新聞朝刊社説から)

電気製品については電機各社がすぐにサマータイム対応機を出しそうです。また、これは冗談ですが、環境対策という面でいうなら、日中はついつい冷房を強くしてしまいがちな家庭にいるよりはクールビズ28度設定の会社にいたほうが効果的という面もあるかもしれません。
それはそれとして、睡眠不足などを心配する意見はあるようで、先日は日本睡眠学会サマータイムに反対する声明を出したとか。

 超党派議員連盟が2010年の導入を目指す、サマータイム制度について、日本睡眠学会は5日、「体のリズムを乱して睡眠に影響を与え、健康を損なう」として反対の声明を発表した。
 サマータイムは、夏季に時計を1時間進める制度。欧米各国で実施されている。同学会の特別委員会(委員長=本間研一・北海道大教授)は、これら先行実施の国での調査や研究文献をもとに、夏時間への移行後、最長で2週間程度、睡眠時間が短くなり、眠りの質が下がると分析。さらに、体内時計を昼夜の変化に合わせる機能が低下しているため、不眠や朝に起きられないなど睡眠障害に悩む人たちの症状が悪化すると主張した。
 また、学会は、2004年に初めて、北海道の企業が始業時間を1時間早めた実験の結果などをもとに、サマータイム制度導入を全国に広げた場合、医療費の増大や作業能率の低下で約1兆2000億円の経済損失が生じると試算した。北海道の実験では、従業員の4割が体調不良を訴えていた。
(平成20年6月6日付読売新聞朝刊から)

サマータイムが睡眠という面においてはデメリットがありそうだというのは見やすい理屈で、ほかのメリットと総合して考えるべき問題でしょう。直観的には、もともと現代の日本人はすでにかなり夜更かしで睡眠が不規則なことを考えると、サマータイムにしたところでたいして関係なさそうな気がするのですが、だからこそこれ以上不規則にすべきではない、という考え方もあるのでしょう。「日本睡眠学会」という学会がどういう学会なのか知らないのでなんともいえませんが、基本的には規則的な睡眠習慣を推奨しているのでしょうから、サマータイムに反対というのはよくわかります。
それにしても1兆2000億円の経済損失とはかなり大きな数字で、にわかにはうのみにできない感はあります。サマータイムを「早起きしなければならない」と受け止める人にしてみれば、サマータイム=眠い=体調不良、と訴えるのは自然な話で、これはそういうものだとあきらめてしまえば、あるいは慣れてしまえば、かなり軽減されるのではないでしょうか。どうもこの数字は相当の過大評価がありそうな気がします。
実際、さきほどの日経の社説に戻りますと、同じ北海道でもそれほど否定的な意見は多くないことが紹介されています。

 賛否どちらの言い分に、より理があるのか。それを計るため、札幌商工会議所の呼びかけで北海道の企業・団体が出退社時間を1時間早める試行を続けている。今のところ、時計は進めず学校や交通機関は不参加だが、参加した経営者の51%、従業員の37%は北海道が独自に時計を進めることに賛成している。「全国一律なら」を合わせると、賛成はそれぞれ88%、71%に上る。
 緯度が高い北海道は季節による昼の時間の差が大きく、欧州と同じようにサマータイムには好条件だ。道民の合意があれば、時計を進める本格的なサマータイムを北海道がまず導入するという発想があっていい。その結果を、全国実施の判断材料にすることもできる。
(平成20年6月11日付日本経済新聞朝刊社説から)

実際に実施している企業において、北海道独自でも従業員の37%、全国一律なら71%が賛成と、日本睡眠学会の声明とはかなり違う結果が紹介されています。詳しい内容がわからないので即座にはなんともいえないでしょうが、睡眠学会は2004年に初めて実施したときの調査らしいので、その後4年の経験でかなり慣れてきているということなのかもしれません。まあ、賛成でない人が100-71=29%、体調不良を訴える人が4割という比較をすれば、それほど大きな違いではないともいえるかもしれませんが…。
いずれにしても、さまざまなメリットも指摘されており、やってみてうまくいかなければやめてしまえばいいだけの話なので、北海道だけがいいのか全国一律がいいのかはまた別の議論として、一度数年間やってみる価値はあるのではないでしょうか。もちろん一時的なコストはかかりますが、驚くほど大きいものではないでしょう(そうでもないのかな)。なんといっても国民全員参加での温暖化対策という意味で、数字に表れない部分(行動する、なにかを変える、変えられる、といった意識の面はけっこう大きいと思うのですが)も含めて値打ちは大きいと思います。