最賃、今年も二桁引き上げ

最低賃金法改正を受けて、初めての最賃改定が「平均15円」でまとまったそうです。実態としては、法改正が遅れたために今年が初めてになりましたが、実際には2年めということで、2年続けて二桁アップとなり、一応引き上げの流れは定まりつつあるようです。

 厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会は六日、今年の地域別最低賃金引き上げ幅の目安を平均で時給十五円程度と決めた。昨年より約一円多く、二年続けて二ケタの上げ幅となった。
 今年は、一部地域で生活保護費を下回る問題の是正を求める改正最低賃金法が七月から施行された。六月末には、政府の「成長力底上げ戦略推進円卓会議」で、政労使が「高卒初任給」を目標に最低賃金を引き上げていくことで合意した。
 これらを踏まえて、審議会で使用者、労働組合、学識経験者の代表が協議し、目安をまとめた。一昨年までの、前年比数円の上げ幅で決着する慣行は崩れた。従来は、中小零細企業の支払い能力を重視する形になっていた。昨年と今年の二ケタ引き上げによって、「労働者の生計費」にもバランスよく考慮する流れが一応できたといえる。

 生活保護の水準を下回る十二の都道府県については、審議会は原則二年以内、特に事情のある地域には三年から五年程度で、生活保護との逆転を解消するように求めている。「高卒初任給」の水準に五年程度で引き上げるという円卓会議の合意は、十五円程度の引き上げが続けば計算上達成できる見通しだ。
 今回の目安はぎりぎり現実的な線で決着した。しかし国際的な金融不安、米国経済の悪化、原材料高などで、景気は下向いている。経済の低調な地域では、中小零細企業の経営環境が厳しさを増している。
 働く人たちの安全網である最低賃金の引き上げは重要だが、ピッチが速すぎると地域によっては雇用に響く。中小零細企業の活性化策など、他の施策も併せて必要である。
(平成20年8月6日付日本経済新聞朝刊から)

「ピッチが速すぎると地域によっては」の代表例が北海道で、日経の北海道ローカルにこんな記事が掲載されていました。

 原油高などで他地域以上に景気減速感が強い中で、経営者側は「決定通り引き上げれば赤字転落する中小も出てくる。結果的に雇用が縮小することにつながりかねない」(北海道経営者協会の山本敏朗労働部長)と不安を隠さない。
 影響が大きいと見られるのはパート・アルバイト従業員の多い流通業やサービス業などだ。従業員約八千人の約八割をパートが占めるコープさっぽろ(札幌市)。スーパー業界の募集賃金の今の相場は時給六百八十―七百円だが、「最低賃金が上がると影響を受けるだろう」(人事部)。パートにも支給するボーナスの減額・廃止を検討する一方、昇給も勤続年数ではなく熟練度に応じ判断するなど、賃金体系を練り直す方針だ。

 今年度ポイントとなるのが、最低賃金の時給が生活保護の給付金を時給換算した場合の額を下回る逆転現象をどう解消するかだ。厚生労働省の調べでは全国にはこうした地域が十二都道府県あり、北海道は五十三円と、東京、神奈川という首都圏を除けば最も逆転幅が大きい。
 この逆転現象の解消期間を、中央審議会答申は事実上、北海道に配慮し「五年程度」とした。しかし、五十三円を五年で解消するには毎年十円強の引き上げが必要。仮に経営者側が解消期間の一年程度の延長に成功しても毎年九円弱の上げ幅となり、経営の前提が大きく変わる。
(平成20年8月7日付日本経済新聞朝刊北海道地方面から)

ちなみに北海道の最賃引き上げは昨年・今年とも10円でした。記事のとおり、(10円+α)×5年で53円で、全国版の記事では「生活保護の水準を下回る十二の都道府県」とされていましたが、実態は「事実上、北海道に配慮し」ということのようです。
企業への影響については、まあ賞与などを含めて総額人件費のレベルで調整できるのであればそれほど大きくはないのかもしれず、そう考えれば「経営の前提が大きく変わる」はやや大げさな感がなくもありません(もちろん、かなりの影響ではあるでしょうが)。「昇給も勤続年数ではなく熟練度に応じ判断するなど、賃金体系を練り直す」というのは、むしろ労務管理の高度化であると捉えることもでき、パート労働法の趣旨にもかなうと考えることもできます。最賃の引き上げはこうした労務管理の改善の契機になるというのは、想定外の?効果といえるかもしれません。