定年を延長せよ

きのうの日経「大機小機」欄から。各界のエコノミスト?がペンネームで自由に所論を述べるこのコラム、匿名だけに過激な所論もあってなかなか面白いものがあります。きのうは(越渓)との署名があります。お題は「定年を延長せよ」。

 厚生労働省の発表によると二〇〇六年には世界の平均寿命のうち、日本は男子七十九・〇歳でアイスランドに次ぎ第二位、女子は八十五・八歳で最高となっている。終戦直後は平均寿命が五十歳代であったのにずいぶん長生きをするようになったものである。しかし日本の労働年齢はそれに比例して伸びていない。六十歳を定年としている企業が九割を占めている。
 〇四年に、定年を廃止するか六十五歳まで引き上げるという法律改正があったが、これは一三年にかけて段階的に実行する。現状ではこの目標も達成されそうにない。一方で非正規社員は増加している。団塊世代が定年を迎え、六十歳以上の高齢者の雇用率は急減している。これは非正規社員の方が不況期の人員整理がたやすくできること、高齢者にふさわしい職を与えることが難しいこと、給料が高いわりに技術革新に追い付けないこと――などがあるためだろう。現在では雇用者の三人に一人は非正規雇用となっており、日本の特色であった終身雇用制は色あせてきた。
(平成19年9月6日付日本経済新聞朝刊「大機小機」から、以下同じ)

えーとですね、04年の高齢法改正は段階的に65歳までの「希望者全員の継続雇用」を求めているのでありまして、「定年を廃止するか六十五歳まで引き上げるという法律改正」ではないのですが。
それから、突然非正規の増加の話が出てきますが、体力などのばらつきの大きい高齢者を広く継続雇用していくためには、むしろ短時間勤務などの非正規雇用をうまく活用していくことが大切でしょう。

 不況の最中には日本の終身雇用制が弾力的な雇用を妨げているという議論もあったが、それは誤りであった。正規労働者を長く雇用するのは企業に対する忠誠心を強め、「わが社」意識を高めるという効果を持っている。それが企業一家という日本の企業の特性をもたらすものであり、経済発展の一因であった。最近では企業もそれを認識し正規社員を増やす傾向にある。

長期雇用はもちろん忠誠心強化の効果もありますが、最大のメリットは効率的な人材育成、技能蓄積にあります。そこを改めて認識したことで、企業は正社員を増やし始めているのだと思うのですが(もちろん、正社員でないと採用が難しくなっているという事情もありますが)。技能の伝承が問題視されているのも同じ話でしょう。

 六十歳以上になれば、自分の趣味やボランティアなどを中心に生きたいという人があり、それは人の生活を多様化するという点で結構である。実際には六十歳以上でも働く人が多く、ある調査では年齢に関係なくいつまでも働きたいという人が男子では三五%も占めている。その過半は契約社員、パート、アルバイトの非正規雇用である。所得がなくては不安だという経済的理由が主なものだろう。
 人は一体いくつまで働けるのか。厚生労働省では七十歳まで継続して雇用する企業を対象にして一社当たり四十万―二百万円程度を助成するという方針を決め、〇八年度の実施を目指していると言うが、それは良いことだ。世界保健機関(WHO)では健康年齢の国際比較を発表しているが、それでは日本は七十五歳である。七十五歳まで健康で働けるような社会の実現が望ましい。(越渓)

もちろん「七十五歳まで健康で働けるような社会の実現が望ましい。」でしょうが、それが非正規ではいけないという理由はないでしょう。年金などの社会保障とあわせて生計費を確保することや、若年時から体力、健康に配慮して高齢でも働ける人を増やすといった保健政策とも関連づけて取り組む必要があるわけで、「定年延長」が正解であるとは思えません。
まあ、匿名なのでデタラメを書き散らしても恥をかかないということでしょうかね。