清家篤先生

今朝の産経新聞に、慶應義塾大学教授の清家篤先生が登場され、参院選で問われる雇用問題について3点コメントしておられます。なかなか適切な指摘です。

 −−今回の参院選で問われている雇用問題は何か
 「大きく言って3つある。まずは格差。とくに正規・非正規間の問題は重要だ。賃金格差だけでなく、偽装請負や労災隠しなどの問題も残っている。また、記録紛失のことばかりが注目されているが、非正規雇用にも年金問題がある」
 −−具体的には
 「パート労働者などが厚生年金に加入していない点だ。また、企業側もパートならば年金保険料を払わなくて済むため、パートを過剰に増やすという結果にもなっている。これは市場の選択をゆがめている。パートも厚生年金に加入するよう改正法案が提出され、結局は継続審議となったが、改正案では加入対象となるパート労働者の範囲が狭く、不十分なものだった」
(平成19年7月20日産経新聞朝刊から、以下同じ)

これは私も同感です。とりあえず今回提出された改正法案は第一歩だとは思いますが、さらに拡大が望まれます。たしかに、企業は一時的に負担が増え、働く人は目先の手取りが減りますが、企業の負担は中長期的には賃金水準や雇用量で調整され吸収されていくわけですし、手取りの減少はいずれは年金受給という形で取り返せるわけですから。

 −−その他の争点は
 「2点目は雇用の構造変化への対応策をどうするか。たとえば、高齢者については65歳まで雇用確保が義務付けられたが、その多くは退職・再雇用というもの。次の段階として、定年年齢の引き上げの見直しなどの方向性を打ち出すことが必要だ」

これも大筋では同感です。やはり、定年制を採用する以上は定年年齢は年金支給開始年齢と接続するというのが大原則だろうと思います。2階建ての日本の年金制度や、退職金制度の存在などを考慮に入れれば、老齢基礎年金の支給開始が65歳になる2025年を目標に、労使が協力して段階的に定年年齢を65歳まで引き上げる努力をすべきではないかと考えます。もちろん、高齢者の多様性をふまえた労働条件変更や職務変更の柔軟性の確保は必要です。また、人により、仕事により、また企業によって事情は多様でしょうが、65歳を超えてさらに定年を延長することは広汎に行うことは無理でしょうから、年金支給開始年齢65歳がきちんと堅持されるよう、年金制度についても適切な対応が求められるでしょう。
それはそれとして、『定年破壊』がキャッチフレーズの清家先生が定年制を前提とした指摘をされているのはちょっと意外です。まあ、足元の参院選がらみの記事なので、当面現実的な指摘をされたのであって、長期的にめざすところはまた別だということかもしれません。

 −−3点目は
 「雇用の高度化政策だ。労働者の教育・能力開発は企業が行っているが、その対象は正社員で、派遣などの非正規社員には実施していない。このままでは人的資源の空洞化を招く結果となり、そうしたコストを今後、どのように社会全体で負担するかを考えなければならない」

これもそのとおりだろうと思います。ただ、企業が非正規社員に教育・能力開発を行わないかというと必ずしもそうではなく、問題は非正規社員だと能力向上に有意義な仕事につくチャンスが比較的少ないというところだと思います。つまり、非正規社員がどのようにキャリアを形成していくかという、キャリアデザインの観点が重要だろうと思うわけです。ひとつの考え方として、派遣については登録型から常用型へのシフトを政策的に誘導するというアイデアがあるだろうと思います。常用型であれば、派遣会社も派遣労働者になるべく仕事をあてがおうとするでしょうし、派遣労働者がうまくキャリアアップして能力を高めればそれが派遣会社の利益にも直結してくるからです。ほかにもいろいろなアイデアがあるでしょう。
さいごにもうひとつ。

−−最低賃金の引き上げについては
 「確かに今のレベルは安いと思うし、生活保護水準より上に引き上げる必要がある。しかし、あまり高いと企業が人を雇えなくなる。労使の話し合いで決めるという現行の仕組みを尊重すべきで、外部から『いくらまで上げろ』というのはそぐわない」

水準に対する評価や、生活保護との関係については無条件には同意しかねます(「無条件には」であって、同意できないわけではありません。為念)が、後段はまことにそのとおりでありましょう。