玄田有史・斎藤珠里『仕事とセックスのあいだ』

「キャリアデザインマガジン」のために書いた書評です。

仕事とセックスのあいだ (朝日新書 24)

仕事とセックスのあいだ (朝日新書 24)

関係ありませんが、今回「キャリアデザインマガジン」を編集していて参ったのが、「キャリアイベント情報」がないことでした。公的機関というのは、年度換わりのこの時期、シンポジウムなどのイベントは開催されなくなるものなのですねぇ。初めて知りました。
というわけで?以下書評です。


 この本の「オビ」をみると、「仕事とセックスについて、マジメに考えてみました。」「勇気をもってこの問題に向きあっていかなければいけない」などの惹句が並んでいる。たしかに、表立って公然と議論するのには抵抗が少なくない内容だし、人前で読むのは勇気のいる本でもある。新書という、かなり幅広い層の大衆をターゲットにした形態で、「セックスレスと仕事の関係」という、一歩間違えば下世話な興味本位の本になってしまいかねないテーマにもかかわらず、特徴的な事例の紹介と科学的な分析によって興味深い事実を提示し、問題提起につなげることに成功している。
 玄田有史氏と女性ジャーナリストの共著、というのは、大きな話題となった玄田氏の旧著『ニート−フリーターでもなく失業者でもなく』と共通しているが、『ニート』とは異なり、この本では玄田氏のパートはもっぱら学術的な分析に費やされている。統計的分析の手法や結果といった詳細は省略されているが、先行研究をふまえ、「アエラ」誌の独自調査の分析結果を別調査(JGSS)のデータの分析によって裏付けるという本格的なものだ。いっぽう、斎藤氏のパートは海外事例の紹介が中心で、こちらは正直なところ読んでいて辟易する部分も多いのだが、それが「勇気をもって」向き合わなければならないところなのかもしれない。いずれにしても、この両者がほどよくバランスしているのがこの本の成功だろう。
 さて、この本が発見した主な事実を列挙すると、「セックスレスはすべてが個人の自由な選択の結果ではない」「働き方、職場や仕事のあり方が個人の性生活に影響している」「失業などの経験がある、職場の雰囲気に不満がある、経済的に苦しい個人ほどセックスレスになる可能性が高くなっている」といったことになるだろう。著者は、この結果をもとに、少子化対策の関係から「働き方の見直しが重要」という議論を展開しているのだが、キャリアデザインの観点からも含意はあるように思われる。個人差はあれ、豊かな人生を送るうえでセックスが一定の役割を持っていることが多いことは否定できないわけで、それが働き方や仕事の影響を受けるとなると、これは広い意味でのキャリアデザインを考えるうえでも、職業キャリアを考える上でも、看過しがたい指摘であろう。この結果を単純にひっくり返せば、雇用が安定し、職場の雰囲気がよく、経済的にも困難ではない個人はセックスレスになりにくい、ということになるだろう。かなり無理はあるが、拡大解釈すれば、これは「職業生活は不幸でも、家庭生活は幸福だから幸せな人生」というのはなかなか成り立たない、ということを示しているとはいえないだろうか。家庭が円満で安定している人は仕事も充実していると感じられることが多いし、仕事で不平不満のある人は家庭もなんとなくうまくいかない、という古くからの経験則、人事担当者の素朴な実感に共通してはいないだろうか。
 まあ、そこまで話を大きくするのは無理かもしれないが、いずれにしても興味深い本であることは間違いない。買い求めるときには若干恥ずかしい気持ちがするかもしれないが、ブックカバーをかけてもらってさっそく読んでみてほしい。