小島貴子『働く意味』

「キャリアデザインマガジン」第65号のために書いた書評を転載します。

働く意味 (幻冬舎新書)

働く意味 (幻冬舎新書)

 「キャリアデザインマガジン」の読者にとっては、この本の著者は広く知られたカリスマ・キャリアカウンセラーとして周知だろう。この本は、2005年から2年間にわたって朝日新聞に掲載された、読者からの仕事に関する相談に著者が回答するコーナーの記事をまとめたものだという。相談は就職活動に臨む学生からのものが多いが、それに限らず、就職したばかりの若者や、親や上司などからの相談もある。
 したがって相談者は個人ではあるものの、相談事項の詳細な内容や背景などはわからない。リアリティという面ではやや物足りなさが残ることは否めないし、回答もどうしても一般論に傾きがちなのは致し方のないところだろう。もっとも、そこは著者自身がこれまでに接してきた多くの相談から実例をひいたり、ときには著者自身の経験もまじえたりしながら回答を進めているので、比較的具体的なイメージがわきやすいし、一般論を述べている部分でも、読み手がそれを自分自身に反映させて考えながら読み進めることを促すように、巧みに書かれている。カリスマのカリスマたるゆえんかもしれない。
 また、新聞の記事だから、当然ながら読み手は学生や若者に限られるわけではあるまい。著者はこうした幅広い読者、とりわけ若者の親世代、上司世代を意識しながら回答しているようだ。実際、一連の記事に対しては「こんなことを悩んでいたのか」という親世代、上司世代からの驚きの反響が多かったという。そういう意味で、直接相談を寄せる若者はもちろんのこと、親世代をふくむ幅広い読者にとって有意義な本といえるだろう。
 こうした若者たちの相談に対して、著者はその悩みを正面から受け止め、真摯に回答している。その姿勢は若者に対する共感にあふれている。結論をダイレクトに述べることもあるが、多くの場合は事例や比喩などを通じて読み手の「気づき」をうながすような書きぶりが多い。とりわけ、若者に厳しい回答ほど、単純な批判ではなく、きちんと受け入れることができる「気づき」を与えるように書かれているように思う。まことに思いやりあふれる姿勢である。
 こうした「気づき」は、ひとり若者世代に限らず、キャリアを意識する多くの世代にとって有益ではないだろうか。すでに若者の2倍の年齢に達している私にも、単に若者の意識を知るというにとどまらず、自分自身がキャリアを考えるうえでの材料になるような記述も多かった。文章は相談に対する回答であるだけに非常に読みやすく、短時間で読みきることができるし、明日からのさまざまなコミュニケーション、話題としても使える材料も多い。気軽に読んで役立つ本といえそうだ。