勤務先の買収を望むとき

このところ、王子製紙による北越製紙に対する敵対的M&Aの話題が報道を賑わしていますが、例によってここでも北越製紙の労組が反対の姿勢を示しています。

 王子製紙北越製紙株の公開買い付け(TOB)を開始したのを受け、北越製紙労働組合(五十嵐栄正委員長、約1060人)は2日、都内で緊急の中央委員会を開き、王子のTOBに反対し、北越の取締役会を支持する声明を満場一致で決議した。
 北越労組は声明で「TOBは労組の意向を完全に無視したもので極めて遺憾である」とした上で、「組合員の生活および利益に重大な悪影響を及ぼす可能性があり、到底受け入れられない」としている。
(平成18年8月3日付産経新聞朝刊から)

賃金水準は業界最大手の王子製紙のほうが高いでしょうし、福利厚生などの面でもかなりのメリットはあるでしょうから、労組にとっては必ずしもマイナスばかりではないはずですが、広域配転の可能性が出てくるとか、あるいはやはり合併された側の従業員がなにかと「割を喰う」「冷遇される」ということを懸念するのもまたもっともな話でしょう。王子製紙は労使関係においても長い歴史と多くの経験を有する企業ですが、王子の経営陣から北越労組への説明などが行われているのかどうか、興味深いところです。
さて、きのうの日経新聞には、これと関連して、面白い調査結果が紹介されていました。
会社員を対象に、企業買収への意識を調査したものです。

 自分が勤める会社が他社に買収されることに「社風が変わる」などを理由に抵抗があると答えた人は8割に達した。2割は歓迎しているわけだが、「2割もいる」と見るか「2割しかいない」と見るか難しいところだ。
 どちらにせよ、歓迎の理由が「経営がしっかりする」「組織の活力が増す」であるのは興味深い。自分が勤める会社を離れ、一般論としてM&Aの増加について聞けば、「歓迎する」が「歓迎しない」を上回る。仏ルノーの傘下に入って日産自動車がよみがえるなど、わかりやすい成功例があるためと見られる。
 ただ、自由記述回答をみると敵対的買収を支持する声はほとんどなかった。40代の事務系女性会社員は「救済的な買収や生き残りの合併は歓迎するが、敵対的買収には断固反対」と回答。ライブドア事件村上ファンド事件が相次いだことで、強引なM&Aについて否定的な見方が広まったのは間違いない。
(平成18年8月21日付日本経済新聞朝刊から)

そうだろうなぁという結果です。記事中のグラフから歓迎・抵抗の理由を目分量で(数字は書いてないので)読み取ると、歓迎のほうは「経営がしっかりする」は約3分の2、「組織の活力が増す」は6割弱で、この2つが半数を超えています。抵抗のほうは「社風が変わる」がやはり約3分の2で唯一半数を超えています。これは、記事で紹介されている「救済的な買収や生き残りの合併は歓迎するが、敵対的買収には断固反対」という感覚とよく一致しているような気がします。歓迎の「2割」も、「どちらかといえば歓迎」が16.4%と多数で、「歓迎」は3.5%にとどまっています。「どこかが救済合併してくれないとヤバイんじゃないか」と感じている人が3.5%、「いい会社に買収されれば安心なんだけど」と感じている人が16.4%いると考えれば、なんとなく感覚的には納得できそうな結果です。
面白いのは、抵抗の理由に「人事などで冷遇される」というのが4割強あるのは、買収される立場としては当然だろうと思うのですが(本音ベースではもっと多いのではないかと思います)、歓迎の理由のほうにも「自分のステップアップの好機」が4割弱あるのはちょっと意外な感じです。もっとも、ほかにも「有能な上司・同僚と仕事ができる」が3割近くあり、「一から出直せる」「嫌な上司・同僚と離れられる」というのもそれぞれ1〜2割ありますので、買収歓迎組の中には、「今のままでいくくらいならいっそ買収されてくれたほうが」という人がかなりいるようです。会社人生がうまくいってない人にしてみると、とりたてて愛社精神もなく、「社風が変わる」ことにも抵抗がない、というところでしょうか。まあ、少数派でしょうが。
というか、そもそも、このアンケートを作った人が、こういう選択肢を設定しているところが何ともいえませんね(笑)。