日本電産に対する買収対抗策

一昨日の日経新聞に小さく出ていたのですが…

東洋電機製造 十七日、同社にTOB(株式公開買い付け)を提案している日本電産に対し、三度目の質問状を送付したと発表した。東洋電機の買収防衛策の手続きに沿った措置。過去二度の回答は「ほぼ過半について具体的な回答を留保された」とし、今回も従来の質問への再回答を求めている。日本電産労務管理などについて、引き続き書面での回答を要請している。
(平成20年11月18日付日本経済新聞朝刊から)

企業買収には特に関心はないのですが、「日本電産労務管理などについて」のところに反応しました。
で、両社のウェブサイトをみてみると、たしかに質問状(情報の提供要請)と回答書のやりとりが2往復半行われているようです。ただ、サイトに掲載されているのはお互いに「情報の提供要請を行いました」「提供要請が来たので回答書を送りました」「回答書が来ましたが不十分なので追加要請を行いました」といった事実だけで、質問や回答の具体的内容は開示されていません。まあ、そんなものなのでしょう。
それでも一応、東洋電機製造のサイトには、1回めの提供要請の際に<提供を要請した情報の項目とその概要>としてこうあります。

I. 日本電産及び日本電産グループに関する情報
日本電産グループの概要や内部管理体制、コーポーレート・ガバナンス、業績の状況、過去の企業買収の経緯及びその結果等について、十分な情報の提供を要請しております。
II. 本提案の内容に関する情報
本提案を行うに至った経緯や提案の方法、今後の本提案に関する手続の進め方、及び本提案の内容(当社との提携によるシナジーの具体的内容や買付価格の算定根拠、鉄道事業以外の事業を含む買収完了後の事業運営方針、当社取引先への対応、従業員の処遇等)について、より具体的かつ詳細な情報の提供を要請しております。
http://www.toyodenki.co.jp/html/images/teiansho2.pdf

ここでは、提携後の「従業員の処遇」が質問されているようです。
で、今回(3回め)の提供要請のリリースには、<再掲載した追加質問の概要>としてこうあります。

 「書面でのご回答をお願いしたい事項」
 本提案に関する提携による利益水準等の見通し及びシナジー効果、グループ会社管理の方法、日本電産グループにおける労務に関する状況について、書面での十分な情報の提供を要請しております。

 「インタビューにおいてご説明をお願いしたい事項」
 日本電産と当社の間の技術面でのシナジー効果の具体的な内容や、当社が日本電産のグループ会社となった場合の経営方針の詳細について、インタビューにおいて十分ご説明いただくよう要請しております。
http://www.toyodenki.co.jp/html/images/teiansho6.pdf

なるほど、「日本電産グループにおける労務に関する状況」について、「書面での十分な情報の提供」となっておりますな。
さて、東洋電機製造は7月に買収防衛策の導入を発表、8月の株主総会で承認され、9月に日本電産からの提携提案という話の流れなので、この買収防衛策も日本電産対策として導入された公算が高そうです。今のところは敵対的買収とまではいえないのでしょうが、一連のやりとりを見てもおよそ友好的という感じはしません。日本電産の永守社長は「敵対的であるとは断じて思っていない」と述べているそうですが、東洋電機製造側はおそらくそうは思っていないでしょう。
そこで「日本電産グループにおける労務に関する状況」が登場するわけですね。まだ記憶に新しいと思いますが、永守社長はこの4月23日の記者会見で「休みたいならやめればいい」「社員全員が休日返上で働く企業だから成長できるし給料も上がる。たっぷり休んで、結果的に会社が傾いて人員整理するのでは意味がない」「成長しているからこそ休みが無くても優秀な技術者がどんどん転職してきてくれている」などと発言し、これに対して連合の高木会長が猛反発、なんとメーデーの演説で「この会社の時間外・休日労働の実態を調べてみたい」「まさに言語道断。労働基準法という法律があることを、また、労働基準法が雇用主に何を求めていると思っているのか、どのように認識されているのか。ぜひ問いただしてみないといけない、そんな怒りの思いを持って、この日本電産のニュースを聞いたところであります」と批判、これを受けて日本電産も次のような弁明に追われるという一幕がありました。

 当社は雇用の創出こそが企業の最大の社会貢献であるとの経営理念のもと、安定的な雇用の維持が、社員にとっても最重要であると考えております。
 このような考え方に基づき、これまで経営危機に瀕し、社員の雇用確保の問題に直面していた多くの企業の再建を、一切人員整理することなく成功させて参りました。
 「ワークライフバランス」につきましては、当社では、上記の安定的な雇用の維持を大前提に、「社員満足度」の改善という概念の中の重要テーマとして位置づけております。
 このような考え方に基づき、社員の満足度向上を目的として、2005年度から「社員満足度向上5ヵ年計画」をスタートさせ、2010年には業界トップクラスの社員満足度達成を目指し、推進中であります。
 現に、社員の経済的処遇面に関しては、年々業界水準を上回る率で賃金水準を改善してきており、本年度も、平均賃上げ率は業界水準を大きく上回る6%にて実施することと併せ、年間休日も前年比2日増加させております。尚、休日については、来年度以降も段階的に増加させていく予定であります。
 加えて、男女ともに働きやすい会社を目指し、昨年4月にはポジティブ・アクション活動の一環として、家庭と仕事の両立を支援する目的で新たな制度の導入もし、更なる社員満足度向上に向けて努力を続けております。
http://www.nidec.co.jp/news/indexdata/2008/0428/CMFStandard1_content_view

賃上げ6%というのはなかなかスゴイなあと率直に思いますが、それはそれとして、日本電産のスタンスは「社長はそんなことは言っていない」というもののようです。まあ、このお方はなかなか強烈な個性の持ち主のようで、発言もポンポンと歯に衣着せずに極論を述べられるので、いろいろな形でマスコミを喜ばせているようです。日本電産のサイトにも「永守's Room」というページがあり、永守氏の著書を転載しているらしいのですが、そこをみてもこの手の表現があちらこちらに出てきて、けっこう微笑ましい(笑)ものがあります。まあ、実際のところは「そのくらいの意気込みでがんばろう」とか「われわれはそれほどに従業員のやる気、動機付けを重視している」ということなのでしょうが。私にも買収されて日本電産傘下に入った企業で働いている友人がいますが、彼をみてもまずまず普通に働いて普通に休んでますし。
とはいえ、あまりに公然と言われれば連合会長としても一言モノ申さずにはいられないでしょうし、そういうことがあれば敵対的(?)買収を仕掛けたときにも相手企業から攻撃材料に使われてしまうということも起こるわけで。いっぽうでこうした発言が永守氏のリーダーシップの源泉になっているという面もあるのでしょうから、それはそれで痛し痒しというところかもしれませんが。
東洋電機製造としては、従業員に対しても「日本電産の傘下に入ったらムチャクチャにコキ使われるんだぞ、そんなの嫌だろう」と間接的に呼びかけているのかもしれません(案外、これとは別に直接にも言っていたりして)。さて、それで従業員はどう受け止めるのか、そんなのイヤだよねぇ、というのも素直な反応でしょうが(そもそも買収されること自体抵抗があるでしょうし)、そのくらいでないとダメなんだ、俺はかまわないぜ、といった骨のある?社員もそれなりにいないと寂しいような気もしますが…。