身勝手な退社話

日経新聞社会面のロングラン連載「サラリーマン」、一昨日は「身勝手な退社話、心もとない就職意識」と題して、若者の退職理由についての記事でした。

 「仕事は楽しいし、不満は全然ありません。でも、ほかに追いかけたい夢があるんです」。海外で貿易業を営む親類の元で働くのだという。
 「ここで辞めたら入社してから2年間の頑張りが無駄になるし、お得意先を裏切ることにもなるんじゃないか」
 「おまえの抜けた穴を誰かが埋めなければならなくなるんだぞ」

 支店の上司や先輩らは今後の事情説明を兼ねて得意先に頭を下げて回った。後釜の手当てがつかず、4カ月たった今も支店は「欠員1」のままだ。「円満退社」と思っているのは当の本人だけ。社会人としての常識があれば、突然の退社が周りにどれほどの迷惑を掛けるのかぐらい想像できるはずなのに……。
(平成18年8月21日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)

まあ、よろしいんじゃないでしょうかね。


たしかに突然の退職は迷惑でしょうが、勤続2年の人なら影響は知れているでしょう。このくらいのリスクには対応できる組織にしておくのが経営というものではないでしょうか。新卒2年後ならまだまだ若いし、失うものもないし、新しいことに十分チャレンジできるでしょう。甘い見通しかもしれませんが、それで行動できるのが若さの特権というもの。

 ミズノ人事総務部次長、原琢平さん(43)によると、今年二月に辞めた新入社員の理由は「イメージと違った」。
 そこそこの給料がもらえて、平日の夜のプライベートな時間を満喫できる――。こんな“バラ色の生活”を勝手に描いていた。周りの目には「地道に取り組んでいる」と映っていたが、良い顔を見せていただけで、内心では嫌々残業をこなしていたとか。
 引き留めようと面談に臨んだが、さじを投げて戻ってきた部下の報告に、原さんも「甘い考えを捨てられないのなら、退社は仕方ない」と苦笑するしかなかった。

「そこそこの給料がもらえて、平日の夜のプライベートな時間を満喫できる」ですか。まあ、「そこそこの給料」の水準次第では、そういう会社、職場もあるのでしょうが…。
ただ、実態、実情とまったく合わない勝手な幻想を持っていたというのはたしかに甘いのでしょうが、これからの時代、そういう働き方もできるようにしていくというのも案外大切な考え方なのかもしれません。もちろん、キャリアが伸びることはあまり期待できないでしょうし、「そこそこの給料」というのもかなり抑制された水準で、「夜のプライベートな時間を満喫」というのもせいぜい「白木屋」で一杯、というくらいになってしまうかもしれませんが…。それでも、そのほうがいい、という人がいるかもしれませんし、それはそれで必要な人材かもしれません。

 この1年間でほかに3人の同期が「なじめない」「違う道に進みたい」と辞めたが、どれも取って付けたような口実で、「やりたい仕事をさせてもらえない」との本音が透けて見える。
 ミズノでも実力主義を掲げ、公募制度や海外研修勤務制度の対象を入社3年目以上に広げた。「実績や経験のない新入社員を一足飛びで登用する会社なんてありえない。もう少し頑張ろうとの気概を持てないのか」。原さんは歯がゆい。

これも「登用」の程度次第ですが、本当に「新入社員を一足飛びで登用する会社なんてありえない」かというと必ずしもそうでもないかもしれません。ビジネスが急拡大して人手不足の会社では、新入社員であってもある程度のことは任せざるを得ないということもありうるからです。世間では、「年功序列の日本企業と違い、外資系企業は若手を登用する」という言われ方がされますが、それは多くの外資系企業では歴史が浅く、人手不足であることが多いからではないでしょうか。逆にいえば、明治39年創立の歴史を持ち、このところ売上がおおむね横ばいのミズノで、新入社員がいきなり「やりたい仕事をさせてもらえない」というのはいかにも考えが浅いという感じで、「気概」以前の問題のような気がしますが、人事担当者の嘆きはわからないではありません。もっとも、実力主義のピーアールがいかにも「新入社員でも実力次第でやりたい仕事ができる」という印象を与えるものであったとしたら、それにも問題ありという感じではありますが。