国策企業

28日の日経産業新聞から。「VW経営権巡り対立深刻――ポルシェ、保護法の撤廃求める」という見出しがついています。

 独フォルクスワーゲン(VW)の経営権を巡って、大株主のポルシェとニーダーザクセン州の対立が深刻になってきた。今秋にもVWの子会社化を目指すポルシェに対し、労働組合も強硬な姿勢を示す。約半世紀にわたる政労使一体の経営を見直し、トヨタ自動車を目標とするVWの改革は進むのか――。ポルシェは難しいハンドルさばきを迫られている。
 独ハンブルクで二十四日に開かれたVWの株主総会は異様な雰囲気に包まれた。会場周辺ではVW従業員の九割が加入する金属労組(IGメタル)が約一千人を動員。ポルシェによる子会社化に反対して早朝からシュプレヒコールを叫んだ。
 VWの傘下ブランド車が並んだ会場内では、筆頭株主のポルシェと二位株主のニーダーザクセン州の対立が、一般株主の目にも明らかになった。ポルシェのヴェンデリン・ヴィーデキング社長と同州のクリスチャン・ヴルフ州首相は、隣席に座りながら目線を合わせようともしなかった。
 今回の株主総会で注目を集めたのは、VWを敵対的な買収から守ってきたVW法だ。欧州連合(EU)の最高裁にあたる欧州司法裁判所は昨秋、「VW法が資本の自由移動を保障するEUの法令に違反する」との判決を言い渡した。
 ポルシェは州政府の特権をことごとく「否」とした判決を受け、同法が撤廃されると踏んでいた。だが、連邦政府のブリギッテ・ツィプリース法相は一月、VW法を撤廃せず、法改正する考えを示した。
 議決権行使の制限などは改めるが、二〇・一%のVW株を保有する同州による拒否権の行使は担保。それが生産拠点の移転や人員削減などの歯止めになるという雇用責任の論理を持ち出した。
 メルケル連立政権内部でも異論がある法改正の是非が決まらないうちに、株主総会を迎えたポルシェは急きょ、株主提案に踏み切った。VW法に基づいてニーダーザクセン州の拒否権を認める定款の変更が狙いだ。
 独株式法では、VW法より五%高い二五%の持ち株比率を拒否権のハードルにしており、特別な法律で守られていないダイムラーBMWなどと同じ「普通の会社」とアピールできる。
 ポルシェの法務担当者は「人員削減の予定はなく、傘下ブランドの売却もない」と言い切ったが、ニーダーザクセン州は拒否権に必要な持ち株比率を二〇%のまま維持するように主張。同州の財務相は「独株式法にも拒否権に必要な持ち株比率で柔軟な規定がある」と応戦した。
 十時間を超えた総会で定款は何も変わらなかった。同州が反対したため、ポルシェは承認に必要な八〇%の支持を得られなかった。VW法が生き続ける限り、ポルシェの経営戦略も同州の拒否権でひっくり返される可能性が残る。
 ポルシェは「EUの法令違反の判決を適正に反映させるべきだ」とする声明を発表。ヴルフ州首相も「歩み寄りは難しい。法廷で判断してもらうほかない」と漏らした。
 苦々しい思いをしたのはVWのマルティン・ヴィンターコーン社長だったに違いない。
 過去最多の自動車販売を記録した前期業績に加え、今後十年の長期計画で自動車業界のトップになる夢を語ったが、大株主の覇権争いは「ポルシェとニーダーザクセン州の存在はVWの強固な基盤」といさめるのが精いっぱいだった。
ハンブルク=後藤未知夫)
(平成20年4月28日付日経産業新聞から)

ちなみに、きのうの日経新聞夕刊にはこんな小さな記事も報じられました。

 【ミュンヘン=後藤未知夫】独南部シュツットガルトの労働裁判所は二十九日、フォルクスワーゲン(VW)の従業員代表が、筆頭株主のポルシェに対し、経営参加の強化を求めた訴えを棄却した。
(平成20年4月30日付日本経済新聞夕刊から)

見出しには「保護法」となっていますが、別にVWが保護されているわけではないのですね。要するに、ポルシェはVWを子会社化してリストラをしたいけれど、それで地元の雇用が失われるのは困るということで、大株主であるニーダーザクセン州がリストラを拒否できるようになっている、それがけしからん、ということのようです。これは現地の労働者、労組にとっても有利でしょうから、そういう意味では間接的に労組・労働者の保護法となっているとはいえるかもしれません。
で、そもそもは投資家がニーダーザクセン州を上回る20%超の株式を取得すること自体が禁じられていて、それが欧州委員会からの要請によって、投資家は20%超の株式を取得できるものの、事実上ニーダーザクセン州が20%超の株式を保有する限り拒否権を持つという法改正がされて、そこでVWが安定株主対策として?ポルシェに株式保有を要請した、という経緯だったと記憶しています。ニーダーザクセン州としてみれば、ポルシェが安定株主になってくれるのはいいけれど、親会社になってVWをリストラされるのはたまらん、というところでしょうか。もともと国策会社であったVWの出自を考えると十分ありうる話で、今のところはポルシェの読みがちょっと甘かったというところでしょうか。
やる気なら、ニーダーザクセン州も株を買い増して25%超まで持っていってしまえば特別な法律は不要になるわけですが、さすがにそこまで資金を費やすことには住民の理解が得られないのかもしれません。