で、とりあえずおまえが言うかおまえが!

 「終身雇用を原則として維持しながらも、現実の雇用形態は多様化し、株式市場の改革に伴い企業経営の自由度も増した。変動する世界経済への適応力が日本経済に備わってきた」
(平成18年1月3日付日本経済新聞朝刊から)

エコノミスト誌編集長、B・エモット氏のインタビュー記事。まあ、インタビューなので、日経としては自分の意見じゃないよと開き直ることはできますが、それにしても「徐々に崩れる」との整合性はどうなんでしょうね。

…1990年代の国際競争の中で、ソニーの志向は米国型の経営体制づくりに傾き、泥くささをなくした。トップの足は現場から遠のき、現場の心はトップから離れた。ソニーらしさも見失った。…
…米国流の強い経営に光を求め、カリスマCEO(最高経営責任者)に期待を寄せた。グローバル化、IT(情報技術)化のうねりの中で、現場はリストラや合従連衡に揺れた。
 しかし米エンロン事件が象徴するように、カリスマに過度に依存する組織は意外なほどもろい。昨年没した米経営学者のピーター・ドラッカーは、終身雇用に支えられた日本の現場の強さを繰り返し指摘していた。
(平成18年1月3日付日本経済新聞朝刊から)

これには目を疑いますね。もちろん、この意見には同感ですが、それにしても、ソニーが米国型の経営体制を導入したときに「ソニーらしい」と言わんばかりに絶賛を尽くしたのは日経新聞ご自身だったはずですが。つい先日も、ソニーのストリンガー会長をカリスマ的に持ち上げていたと思いますが。終身雇用だってあれほど批判していたのに、いまさらドラッカー先生を担ぎ出してこられてもねぇ。

 アルプス電気は工場閉鎖と前後して中止していた社内運動会「アルプスオリンピック」を今年、復活させる。かつては3000−4000人の社員が駆けつけた。苦闘の末、業績が回復、後継社長の片岡政隆(59)は「職場の一体感、相互信頼というアルプスらしさを再確認したい」と再開を決めた。
 「悪しき集団主義の復活」と批判するのはたやすい。だが15年の格闘を経た日本の現場力は以前と違う輝きを放つ。「現場の強さから会社の復活を確信した」。日産自動車社長、カルロス・ゴーン(51)の言葉は人口減社会に突入し、一人ひとりの価値を高めるしかない日本にとってこの上なく重い。
(平成18年1月3日付日本経済新聞朝刊から)

「「悪しき集団主義の復活」と批判するのはたやすい」とおっしゃいますが、日経新聞ご自身もさんざん「悪しき集団主義」を批判してこられたのではないかと思うのですが。日本の現場力も、まずはこの15年間、いろいろな逆風(日経新聞も、現場力破壊につながる施策を多々声高に主張していたはずです)にもかかわらず「よく保たれてきた」という評価をすべきでしょう(耐える過程で強くなった部分があることもあると思いますが)。
ゴーン氏の言葉を「日本にとって」などと言う前に、まずは日経新聞ご自身が「この上なく重」く受け止めてもらいたいものです。「おごりや独善に陥らず」「中正公平」を旨とするのであれば。

――日本人が見過ごしている日本の強みは何でしょう。
 「チームワークだ。競争力のある人を採用してもチームの一員として働くのは簡単ではない。日本はその点でやりやすい。日本拠点を訪問するたびに私はチームワークの値打ちを学ぶ。個人的な野心を抑え共同で顧客のために働く文化だ」
(平成18年1月4日付日本経済新聞朝刊から)

ゴールドマン・サックス会長のH・ポールソン氏のインタビュー記事です。まあ、これもインタビューなので、日経は「自分の意見じゃないよ」と逃げることはできますが、しかし、外国人投資家が正しく見抜いていた(というか、日本の経営者にとっては当たり前のことでしょうが)日本の強みを、弱みだ弱みだ、克服しろと煽り立てていたのが日経新聞だったと思うのですが。