定額給付より雇用対策

先週からとりあげている政府の新雇用対策ですが、先週金曜日に1兆円から2兆円へと規模が拡大していたようです。

 与党は五日、非正規労働者雇用保険の失業給付を受ける際の条件緩和などを盛り込んだ新雇用対策をまとめる。対策の期間は三年で、関連費用は二兆円。百四十万人の雇用創出を目指す。同日中に麻生太郎首相に申し入れる。
 新雇用対策は政府との調整も踏まえ、一兆円規模とすることが固まっているが、与党は一兆円の上積みを求める。ただ、雇用保険料を積み立てている労働保険特別会計から捻出(ねんしゅつ)する一兆円以外には財源のメドが立っておらず、政府側と協議を続ける。
(平成20年12月5日付日本経済新聞朝刊から)

雇用創出数も100万人から140万人に上積みされています。財源はというと、さすがに雇用保険の積立金をさらに流用するのはやめたようです。

 三年間で二兆円とした対策費の財源にも不安が残る。雇用保険料を積んである労働保険特別会計から捻出(ねんしゅつ)できるのは一兆円。とりまとめ直前に上積みした一兆円について与党は「一般会計でまかなう」として、まずは今年度第二次補正予算案に千五百億円を計上するよう政府側に求める方針だが、残る八千五百億円の扱いは未定だ。自民党保利耕輔政調会長は五日、「予算折衝では大きな障害もあると思う」と語った。
(平成20年12月6日付日本経済新聞朝刊から)

問題は財源ということのようですが、積立不足となるリスクをどうみるかという問題は別として、雇用対策に雇用保険の財政を使うというのにはそれなりの理屈はあります。雇用保険のおカネを使って雇用対策をやり、結果的に失業が抑止されれば、その分の失業給付を支払わなくてすむわけですから、財政面では計算上は差し引きゼロになる可能性もあります(プラスになることもあるかもしれません。マイナスになる可能性のほうがなんとなく高そうではありますが)。たとえば、雇用調整助成金制度などにはそういう考え方も含まれているのでしょう。とはいえ、今後雇用失業情勢が悪化することが確実なことを考えれば積立金の流用には疑問が大きく、さしもの与党もさすがに1兆円が限度という判断ということなのでしょう。
ではどうするかというと、日経新聞は6日の社説で、定額給付をあきらめて雇用対策にまわしたらどうかと提案しています。

 派遣や期間社員の契約打ち切りが相次いでいる。与党は3年間で2兆円をつぎ込む「新たな雇用対策」をまとめたが、労働保険特別会計の1兆円を除いて財源のメドは立っていない。雇用対策こそ最優先すべき政策である。評判の悪い定額給付金も2兆円規模だ。この際、5兆円にのぼる雇用保険の積立金を取り崩し、さらに定額給付金を回してでも雇用の悪化に対応しなければならない。
(平成20年12月6日付日本経済新聞朝刊「社説」から、以下同じ)

ふーん、日経さんは雇用保険の積立金を取り崩すのはいいんですね。それはそれとして、割り切って考えれば、定額給付金も雇用対策も対象や程度に違いこそあれ再分配といえばいえなくもないわけで、定額給付をやめて雇用対策を積み増すという考え方もありかもしれません。広く薄く国民にあまねく給付して需要を喚起し、雇用を増やすという考え方もあるでしょうし、日経の社説が主張するように、雇用保険を幅広く手厚くすることで失業者に集中的にセーフティネットを提供するという考え方もあるでしょう。財源という意味では、定額給付金はこれまた財投特会の準備金を「埋蔵金」として活用するということだったと思いますので、財投の準備金を雇用対策にあてる、という話になりそうです。こちらは雇用保険特会を雇用対策に流用するのと違って理屈はつきませんが、それを言うなら定額給付金の財源にする理屈もないわけなので、この際そんなこと言ってられないというところでしょうか。日経新聞定額給付金に批判的で、準備金に余剰があるなら国債費にあてるべきだという意見ではなかったかと思いますが、これは私の勘違いかもしれませんが…。