ベッカー「人的資本」(1)

日経新聞「やさしい経済学」はこのところ「名著と現代」のシリーズを掲載していますが、きのうから慶應義塾大学教授の清家篤氏がベッカー『人的資本』を紹介しています。

 この本が革命をもたらしたのは、労働者を、投資によって生産能力を高めうる資本であると捉(とら)えたことにある。新古典派経済学ではそれまで、企業は労働者の生産能力を与件として、そのときどきの生産能力に見合った賃金で雇用するものというふうに整理されていた。企業は必要に応じて労働者を市場賃金で雇用し、また不要になれば解雇するという世界で、労働は短期の可変生産要素と考えられていたのである。
 しかし、労働者を資本と考えるとまったく別の世界が見えてくる。労働者を育て、高まった生産能力を長く活用するための長期雇用や、勤続に応じて上昇する年功賃金などが、新古典派経済学の枠組みと整合的に説明できるようになったのである。
 実際、長期雇用や年功賃金は、世界中の多くの職場で見られる現象だ。そしてもうお気づきのように、長期雇用(終身雇用)と、年功賃金は、とりわけ日本の雇用制度の顕著な特徴であるといわれてきたものである。
(平成19年5月23日付日本経済新聞朝刊「やさしい経済学」から)

そうなんです。長期雇用はなにも日本だけのものではなく、世界中にあります。アメリカにだって、長期間にわたって一社に勤め続け、内部昇進していっている労働者はけっこういます。