鉄鋼6年ぶり賃上げ要求

本日の日経新聞で、基幹労連(鉄鋼+造船重機)が来春闘で賃上げを要求する見通しだと報じられていました。

 鉄鋼や造船重機などで構成する基幹労連は来年の春季労使交渉に向け、1人当たり3000−5000円の「賃金改善」を要求することで調整に入る。賃上げ要求は鉄鋼で6年ぶり、造船重機で4年ぶりとなる。好業績の配分を基準賃金の引き上げに反映させ、自動車など他の製造業より低い賃金水準を改善するよう経営側に求める方針だ。日本経団連も好業績企業の賃上げを容認する労使交渉指針を示す見通しで、来春は本格的な賃上げ交渉になる可能性が高い。
基幹労連は7、8日に開く集会で、執行部の基本方針として1人当たり3000−5000円の「賃金改善」の要求案を示す。具体的な要求方法は各労組に任せるが、原則として基準賃金の原資拡大を目指す。
…獲得した原資の配分については若年層など特定の年齢層に重点配分することも可能で、一律に賃金カーブを引き上げるベースアップ(ベア)としても活用できるとみている。産業別に一律にベアを要求していた過去の労使交渉とは異なる柔軟な姿勢を示している。
…業績が回復した企業の多くは設備投資と配当を優先してきた。従業員には主にボーナスで還元してきたが、来春は基準賃金を引き上げる可能性もあり、個人消費の動向にも影響を与えそうだ。
(平成17年12月7日付日本経済新聞朝刊から)

土曜日の「経団連賃上げ促す」(?)報道と同様1面トップの扱いで、日経新聞は「日経が賃上げをリードした」という形をつくることにご執心のようです(笑)。


さてこの数字、率にすればだいたい1%前後に相当しそうですから、先日連合がしめした「目安1%」をふまえた数字なのでしょう。これまでは「賃上げ」といえば多くは定昇相当分を含む数字のことを指していたと思いますが、今回は3000−5000円ということは、「賃上げ」とはいってもさすがに定昇相当分は含まれない数字なのでしょう(定昇相当分だけで7000円くらいはあるはずなので)。ということは、従来までの用語でいえばこれは「ベア」ということになるのではないでしょうか。しかも「基準賃金の原資拡大」をめざすとなると、これはベア以外のなにものでもないようにみえます(定昇相当分だけなら理屈上は原資は拡大しないので)。
それでもあえて「ベア」ということばを避けているのは、経営サイドに「ベア」に対する抵抗感が強いことに配慮したのでしょうか。「獲得した原資の配分については若年層など特定の年齢層に重点配分することも可能」だから「ベアではない」という理屈のようですが、従来からベアをどのように配分するかは必ずしも一律ではなく、各労使で交渉して傾斜配分するのはごく普通に行われていましたから、これはずいぶん苦しい説明です。
ただ、経営サイドにも、ベアゼロが続くことで賃金政策が非常に不自由になっているという認識はあるでしょうから、労組としては賃上げが実現すれば賃金政策には柔軟に協力するよ、という姿勢を示しているのでしょうか。
経営サイドがどのような姿勢なのかはまだ不明ですが、日経の熱意ある(笑)報道とは異なり、昨年も経団連は「好業績企業の賃上げを容認する労使交渉指針を示」していました(12月3日のエントリ参照)ので、いまのところ見通しはつけにくいものがあります。ただ、今年いよいよ賃上げ(まあ、敬意を表して「ベア要求」とはいいますまい)要求を再開するとなると、労組としても並々ならぬ決意の現れでしょうし、その意味はかなり重いとみるべきなのでしょう。となると、今回は金額水準云々よりは、たとえ100円でも10円でも有額回答が出るのか、出るならどういう出方になるのか、それともやはりゼロ回答か、というところが争点になるのかもしれません。