従業員と株主「痛み分け」

…という記事が、今朝の日経に載っていました。

 企業業績の悪化で、株主や従業員などステークホルダー(利害関係者)への利益配分を見直す動きが加速している。二〇〇九年春の賃金交渉では大手電機が相次ぎ従業員の定期昇給(定昇)の一時凍結を表明、期末配当見送りや減額も目立つ。収益悪化の痛みを従業員と株主双方が分かち合う「痛み分けの構図」が広がってきた。
 自動車や電機など主要業種が春季労使交渉の一斉回答日を迎えた先週十八日。ソニーは四月から一年間の賃上げ(実質定昇)凍結と、期末配当を前期末と同じ十二・五円にとどめることを同時に決定した。従来、期末配当は七・五円増を計画していた。
 ソニーは〇九年三月期に十四年ぶりの最終赤字に転落する見通し。「賃上げ凍結」と「増配断念」を同じ日に決めたことからは、「ステークホルダーとして従業員と株主にも痛みを分かち合ってもらいたい」という思いが透けて見える。
 今春の労使交渉で最大の焦点に浮上した定昇見直し。〇九年三月期に数千億円規模の最終赤字を計上する見通しの東芝日立製作所も定昇の一時凍結を打ち出した。両社は既に期末配当の見送りも決定。定昇の一時凍結と併せて、少しでも手元資金の減少を食い止める狙いだ。
 世界的な販売減に苦しむ自動車業界も事情は同じ。日産自動車は一時金の大幅減額と期末配の見送りを決めた。定昇凍結や一時金減額、賃金一律カットなど手法は様々だが、賃金抑制と配当減を組み合わせた選択肢は多くの業種・企業に広がりつつある。
 企業は前期までの増益で膨らんだ原資を優先的に株主に配分してきた。企業が生み出す付加価値に占める株主への配当割合(配当金比率)は、〇三年三月期までの三%台から〇八年三月期には九%近くまで上昇した。一方で従業員への配分を示す労働分配率は低下し続け、連合などからは「株主だけ重視」とも批判された。
 ステークホルダーとして株主の地位・存在感は着実に高まっている。だからこそ、今回の急速な収益悪化局面では株主も従業員と同様に応分の責任を果たさざるを得ない。
 世界的な景気後退で、さらに業績下方修正や配当修正を迫られる企業が増える可能性がある。今月二十五日は三月期決算企業の配当の権利付き最終売買日。投資家も株主として責任を感じながらの売買になりそうだ。
(平成21年3月24日付日本経済新聞朝刊から)

昨年末、ソニー中鉢社長のインタビュー記事をもとに「配当と賃上げ」についてのエントリを書きました(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20081217)。そこでは中鉢氏は「雇用を優先して、損失を出すことが、株主から私が期待されたことだとは思わない」と啖呵を切っていましたが、この3ヶ月間の情勢変化は激しく、そのソニーも「四月から一年間の賃上げ(実質定昇)凍結と、期末配当を前期末と同じ十二・五円にとどめることを同時に決定した」ということですから、いかに非常事態かということがわかります。ああそうか、この路線変更は中鉢氏が社長を退くのとも関係があるのか…そうでもないのか?
まあ、さすがに定昇1年凍結にまで踏み切るとなれば、いくらなんでも配当を続行するということでは社内の理解・納得は得られないでしょう。ところで脱線ですが、ソニーのこの「一年凍結」というのは、来年2年分の定昇を実施するということなのでしょうか?まあ、さすがにそうなんでしょうねぇ。もし来年は来年の分だけしかやらないということになると、今年の定昇は永久凍結=賃下げそのものということになってしまうわけで…。
それはそれとして、理屈からすればこうしたときにも配当を続行するために株主は内部留保を認めているのだ、ということも言えるでしょうし、株主はすでに近時の株価下落で十分に痛みを被っている、との意見もありましょう。従来、日本企業はあまりに株主を軽視しすぎていた、との主張も、これまで(記事にもあるように連合が「株主だけ優遇」と批判するくらいに)相当修正されてきたとはいえ、依然として有効な部分が残っているかもしれません。
とはいえ、従業員も非正規労働の雇い止め・失業や、正社員にしても残業減に加えて今次春季労使交渉での賞与大幅ダウン、ベアゼロ、一部での定昇凍結など、収入面では相当の痛みを被っているのが現実です(まあ、残業面に伴う減収は理屈上は「痛み」とはいえないかもしれませんが、それで減収になっているのも事実ですし、某与党党首がいうように「残業代が生活に組み込まれている実態もある」かもしれませんし)。
こうした中で、そもそも原資が乏しくて手元資金として確保せざるを得ない状況でもあるわけで、「配当を減らして賃上げ」とはなかなかいかないでしょうが、ベアゼロ、定昇凍結の中では無配も致し方なかろう、という経営者の判断も、それなりに妥当なバランス感覚なのではないでしょうか。日経新聞も、「無配にしたら株価が下がりまっせ」とあからさまには言わずに、むしろ「株主も従業員と同様に応分の責任を果たさざるを得ない」と書いているくらいで。