集中回答日

金属労協の統一回答指定日ということで、各社の回答が出揃いました。いずれ例によって(笑)社説の読み較べなどやってみたいと思いますが、とりあえず簡単な感想を。

 2010年春の賃金労使交渉は17日、自動車や電機、鉄鋼など主要業種の経営側が賃上げ額と年間一時金(ボーナス)を一斉に回答した。焦点の定期昇給(定昇)は維持するものの、日産自動車を除く主要各社で2年連続でゼロとなった。年間一時金もホンダや日産など一部で満額回答が出たが、総じて水準は低く、経営側が抱えるデフレへの懸念と景気の不透明感を色濃く映した。
 自動車では労組が月額4000円の賃金改善(賃上げ)をそろって要求した昨年から一転。今年はトヨタ自動車やホンダの労組は5年ぶりに賃上げ要求を見送り、日産自動車富士重工業ダイハツ工業の労組が賃上げを要求した。
 日産は成果主義に基づく独自の賃金体系に基づき6200円を回答した(要求は7000円)。定期昇給に相当する6000円に、若手層への特別配分と位置付けた200円を上乗せした。実質200円の賃上げとなるが、「ベースアップ」ではなく20歳代中心の若手層に重点配分する。年間一時金も5カ月と満額回答した。同日会見した高橋雄介執行役員は「実質賃上げで若手層の競争力を高めたい」と述べた。
(平成22年3月17日付日本経済新聞夕刊から)

まず日産自動車の「200円」について、「実質200円の賃上げとなるが、「ベースアップ」ではなく20歳代中心の若手層に重点配分する」とのことですが、これはやはりベースアップではないかと思うのですがどうなのでしょうか。
これに関しては、2006年にベアが復活した際に、一律に賃金の上がる「ベースアップ」ではなく「賃金改善」だ、という言い方を、主に労組サイドから言い始めたと記憶しています。当時は、ベア復活を勝ち取るためには経営サイドの拒絶反応を少しでも軽くするために「ベアではなく賃金改善」と、労働条件アップよりは人事管理の改善という語感のある用語を使おうという意図があったのかもしれません。
ただ、賃金カーブの修正などのために、労使協議の上でベースアップを傾斜配分する、といったことは、それ以前から行われていたわけですし、やはり総原資が増える形での賃金改定はベースアップと呼んでおいたほうが混乱が少ないような気がします。
もっとも、それは基本的に「労使協議の上で」であり、かつては(今もそうかもしれませんが)労組の多くは傾斜配分には否定的で、全員一律のベースアップをよしとしていましたので、それを考えれば回答時点ですでに労組が傾斜配分を容認しているということは従来のベアとは大きな違いではあるでしょう。
まあ、日産労組は「実質賃上げ」との認識のようで、個別労使間ではどんな用語を用いても差し支えないだろうとは思いますし、なにも回りにあわせたり周囲の理解に配慮する必要もないのではありましょうが、しかしわかりにくいことはわかりにくいですね。これで賃金改善が1,000円だったとしたら、それは「要求7,000円」に対して満額回答と言えるのかどうか。日産の労使間だと満額回答ということになりそうではありますが…。
さて、各社とも定昇は確保との回答となったようですが、記事にもあるように「経営側が抱えるデフレへの懸念」が強くあることを考えれば、それなりに経営サイドとしても努力した回答といえるのではないでしょうか。デフレで物価が下がる中で、名目で定昇が維持されれば、実質で評価すればベア(まさに物価下落率分の一律「ベア」)だとも言えるからです。企業の売上や利益も名目で計上され、物価が下がればそれに応じて減少するわけですから、定昇が維持されれば労働分配率が向上し、利益をさらに圧迫することになるでしょう。まあ、協約化されているかどうかは別としても、賃金制度は労使で協議した上で作られていることが一般的(多数かどうかはわかりませんが)でしょうから、そうそう一方の事情で簡単に変更するのも好ましくなく、ある程度の物価下落、売上減少であれば維持しよう、との考え方は健全なものだろうと思います。もちろん、労使で協議し、経営状況に鑑みて定昇凍結が必要であるとの判断になるのなら、それはそれで尊重されるべきものでしょう。