フリーター、ニートは誰に投票すべきか?

きのうに続いて総選挙ネタです。
東大の本田由紀先生が、「今度の選挙では、フリーターやニートの人たちに、ぜひ投票に行ってもらいたい。」と呼びかけておられます(http://d.hatena.ne.jp/yukihonda/20050825)。
そして、なんと「労務屋さんのブログなどでマニフェストを見比べて、いずれがより「まし」かを考えてもらいたい。」と書いていただいているのを発見してしまいました。とはいえ、このブログでは自民党http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20050822#p1)と民主党http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20050817)の、それも雇用政策の部分だけを、しかも別々の日に紹介してしかいませんから、本田先生のブログをみてこのブログに来ていただいたフリーターやニートの方は、いったいどこを見ればいいのか?と思われたに違いありません。
というわけで、ちょっと遅ればせですが、もう少しこの問題を考えてみたいと思います。


まずマニフェストをあらためて書き出しましょう。政策の実現可能性という面を考えて、自民・民主の二大政党と、連立与党である公明党の三党に絞ることにします。洩れがあるかもしれませんが、とりあえずフリーター、ニート(の就業)に関係しそうな内容を抜き書きします。なお、お堅い文章が並びますので、面倒だと思う方は飛ばして先に進んでいただいても差し支えありません。
自民党

035. 各世代に応じた職業能力開発基盤の整備
若者の教育訓練に取り組む企業への支援、職業能力開発休暇の普及、労働者のキャリア形成促進などの施策を法的整備も含め講ずることにより、各世代に必要とされる職業能力の開発・向上を促進する。
037.非正規労働者対策の充実
短時間正社員制度の導入促進、パートタイム労働者の処遇の改善、正社員への転換制度の普及・定着等、パートタイム労働対策を充実・強化する。
038. 雇用ミスマッチ解消に向けた雇用対策の推進
ハローワークにおける個々の求職者への総合的な支援の充実、雇用情勢が厳しい地域に重点化した雇用対策の充実、シルバー人材センター事業の拡充等により、雇用のミスマッチを解消する。
103. フリーター・ニート対策の強化
フリーター・ニート等の増加傾向を反転させるため、フリーター25万人常用雇用化プラン、16年策定の「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」を強化・推進する。
http://www.jimin.jp/jimin/jimin/2005_seisaku/120yakusoku/pdf/yakusokuText.pdf

民主党

2)パート均等待遇の実現、育児・介護休業制度の拡充をすすめます。
正社員とパート社員などの間の合理的な理由のない格差を是正します。短時間労働であることを理由として、賃金その他の労働条件について正社員などと差別することを禁止する「パート労働法改正案」を、政権獲得後すみやかに成立させます。…
3)能力開発と月10万円の手当支給で、失業・廃業からの再出発と暮らしを応援します。
雇用保険特別会計の安定を図るとともに、失業給付期間が終わっても就職できない人や、自営業を廃業した人などを対象として、能力開発訓練を拡充し、最大2年間、月額10万円の手当を支給する法律を制定します(所要額2500億円)。また、倒産やリストラで失業した人が安心して医療を受けられるよう、医療保険料を離職後1年間軽減します(所要額25億円)。
4)若者の自立のため、就労支援をマンツーマンで行います。
「ヤングワーク・サービスセンター(仮称)」を整備し、失業・無業状態の若者に個人アドバイザーによるマンツーマンの就労支援、民間企業での職業訓練などのプログラムを用意し、必要に応じて就労支援手当を1日1000円(月3万円程度)支給します(所要額360億円)。学校にも行かず、職にも就かず、職業訓練も受けていない「ニート」と呼ばれる若者が集まることのできる場所をつくり、相談・支援を行います。また、全国の中学2年生に年間5日以上の職業体験学習を実施します(所要額17億円)。
http://www.dpj.or.jp/seisaku/sogo/image/BOX_SG0062_kakuron.pdf
 ※一部機種依存文字を変更しています。

公明党

12、…通常労働者とパート労働者の処遇均衡を図るための条件整備を推進します。
13、「若者自立・挑戦プラン」の効率化を図り、フリーター、ニートの総合的な若年雇用対策を強力に推進します(教育段階からの予防的対策に重点化を図ります)。
14、新規学卒者のミスマッチ縮小のための若年者ジョブサポーターを拡充します。
15、高校中退者再出発支援窓口の導入と推進を図ります。
16、就業経歴を書き込める「キャリアパスポート」制度を創設します。就職活動の手順が分かる「キャリアマップ」の作成と推進を図ります。
※生涯を通じて教育訓練スキルアップできるシステムの整備を推進します。パソコンやIT等を活用し、職業教育をいろいろな場所で気軽に受講できる「日本版ラーンダイレクト(草の根e―ラーニング)」を創設します。社会が必要とする職業能力を身に付けた若者に国が「証明書」を発行する仕組み「YES―プログラム(若年者就職基礎能力支援事業)」の整備、推進を図ります。
http://www.komei.or.jp/manifest/policy/manifest2005/03.html

どこまでフリーター・ニート関連か、というのは難しいところなのですが、まあこのくらいでいいでしょう。基本的には若年労働、失業対策、および非典型雇用対策を抜き書きしました。政策の整理のしかたが党によって異なるのですが、なるべく原文のままの引用としましたので、整理としては不十分かもしれません(というか、不十分だろうと思います)。
もっとしっかりやれよ、と言われそうですが、自民・民主についてはこれまでもhttp://d.hatena.ne.jp/roumuya/20050822#p1http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20050817ですでに書いたとおりで、公明も含めて各党ともあまり気合が入っていないといわざるを得ず、したがって私としてもしっかり整理するような意欲もわかないのです。実際、本日の日経新聞朝刊の「衆院選これも争点」というコラムでも、「熱意欠くニート対策――既定路線、大きく踏み出せず」と指摘されています。

…アルバイトや無職を繰り返すフリーター、通学・求職・職業訓練をしていないニートなどへの対策は今回の総選挙の重要な争点だ。
 人口は減り高齢化の加速も見込まれる日本。社会の支え手になる若年労働力は一人でも多く育てたいところ。選挙戦に突入した各党も現状認識に大差はない。 今春「ニート・フリーター対策部会」をつくり、前向きな姿勢を示した自民党マニフェストではフリーター25万人の常用雇用化などを掲げる。しかしいずれも政府の若年対策プランなど既定路線の追認にとどまった。公明党もほぼ歩調を合わせる。
 個人アドバイザーによるマンツーマンの就労支援に360億円を投じる自立支援を打ち出したのは民主党。無職の若者が社会問題視された英国で効果を上げた対策に似ている。ただ民主案も、国の財政規模に応じた費用負担では英国に遠く及ばない。
 社民党は有給インターンシップ制度、共産党奨学金制度の充実などを掲げるものの、日本総合研究所の山田久主任研究員は「若者の能力を最大限引き出すための投資が重要なのに、各党の熱意は乏しく、危機感も希薄だ」と指摘する。ニート・フリーター対策をどれだけ重視するか、各党の本気度が試される。
(平成17年9月1日付日本経済新聞朝刊から)

日経新聞も、各党が「本気でない」と批判的な論調です。まあ、マニフェストの関連部分を読むかぎりは、与党はたしかに現行政策の追認がほとんどですし、民主党もそれに若干のバラマキを加えただけということになって、「けしからん」という結論になるのかもしれません。
ただ、私にはここで気合が入っていないことがそれほど「けしからん」悪いことだ、とも思えません。実際、とりあえず職業訓練とかカウンセリングとか、供給サイドの改善やマッチング機能の改善という意味では、ほぼ対策は出尽くしているという感があります。もちろん、まだまだやれることはあるでしょうが、それなりの効果が期待できるかというと望み薄なのではないでしょうか。実際、民主党が新たに提案しているバラマキは、たしかに経済的に「一息つく」ことの助けにはなる(それは気分的には案外大きいかもしれませんが)としても、就労に結びつく効果はいかほどのものか疑問でしょう。民主党ではありませんが、それこそ「もっと大事なことがある」と思います。
私は、フリーター・ニート問題の最大の要因は、供給側=フリーター・ニート本人たちではなく、需要側、すなわち圧倒的な求人不足にこそあるのではないかと思います。もちろん、このところ雇用情勢も好転し、有効求人倍率は1倍に迫る勢いですが、フリーター・ニート問題の解決につながる正社員(とはいわないまでも、少なくともフルタイムで一定期間の勤続が見込め、職業能力の蓄積に資する雇用)などの「有意義な」求人はまだまだ不足しているのではないでしょうか。ニートにはいくら求人があっても無意味だ、との指摘もあるかもしれませんが、有意義な雇用の機会が極度に狭められている、事実上閉じられていることが就業意欲を喪失することに直接間接の大きな原因になっているのではないかと思います。
したがって、フリーター・ニートが本当に注目すべきなのは、直接的なフリーター・ニート対策よりは、雇用機会の拡大につながる施策がどうなっているか、なのではないかと思います。
いちばん直接的なのは、国や地方自治体などがどんどん公務員を採用するとか、企業に無理やりに採用させる、あるいは非典型雇用を禁止する、という施策で、実際そういう施策を考えている政党もあるようです。諸外国の例をみても、過去の歴史をみても、こうした考え方を採用して経済がうまくいった例はほとんどないのではないかと思いますが、もちろんうまくいく可能性もゼロではないでしょうから、それに賭けることも自由です。
とはいえ、現実的な正攻法としては、やはり民間のビジネス、企業活動が活発になり、経済が活性化して、企業がたくさんの人を必要とするようにしていくことが大切でしょう。これはもちろん、基本的に企業のやるべきことです。商品開発、研究開発投資などやるべきことはたくさんあります。そして、政治の役割は企業がこうした活動をやりやすい環境を整えることでしょう。そういった、経済活性化のための施策はどうなっているのか、どの政党の掲げる施策がもっとも雇用の増加、若者の有意義な仕事の増加につながるのか、を見ていくことが大事なのだろうと思います。そういう意味では、世間を騒がせている郵政民営化の議論も大いに関係してくるでしょう。
結局のところ、政策には唯一の正解があるわけではなく、また、これからの状況の変化によっても結果は変わってくるわけで、絶対の正解がないから、各党が異なる公約を示して争うということなのでしょう。どれだけ多くの有権者を説得できたかで各党の議席数が決まる(まあ、それ以外の要素も多々あるわけではありますが)わけで、フリーターやニートのみなさんにも、「わからないから投票しない」というのではなく、誰にもわかるわけがないのですから、とにかくいちばんよさそうな政党や候補に投票してほしいものだと思います。

  • それにしても、多くの人たちにいろいろな形で政治に参加してもらうためにも、きのうのエントリで書いた「マイナス投票」みたいなものもあってもいいと思うのですが。