働き方改革実行計画(3)

ということでとぎれとぎれになっている働き方実行計画についてのコメントを続けたいと思います。今日も時間があまりないので短くなると思いますが…とりあえずエントリ名を(3)とか連番にしたのは正解だったな(笑)。最後まで行き着きますものやら。
さて続きは「(2)非雇用型テレワークのガイドライン刷新と働き手への支援」ということで昨今話題にもなれば問題視もされているクラウドソーシングの話ですね。大内伸哉先生などは今後AI技術の発展普及にともなってこういった働き方が主流になる可能性について指摘されているわけで、重要な課題ではあるでしょう。工程表のほうを見ると「非雇用型テレワークを始めとする雇用類似の働き方全般(請負、自営等)について2017年度以降、それぞれの働き方について順次実態を把握し、雇用類似の働き方に関する保護等の在り方について、有識者会議で法的保護の必要性を含めて中長期的に検討する。」「現行でも、契約形態にかかわらず、労働者としての実態があれば労働関係法令に基づき保護しており、これについては引き続き適切に実施」とされていて、たしかにこれらをすべて労働契約であるとして労働法による保護を及ぼすのは適切ではなさそうですし、事業協同組合による協約締結・団体交渉も使いにくいようですので、ここでも過去何度か書きましたが、委託や請負のための法整備をきちんと実施すべき時期ではないでしょうか。大内先生のご所論などを見ていると、「中長期」で間に合うのか…という感もなきしにもあらずですが。なおプラットフォーマーに対しても、まあ現時点ではまだ歴史も浅いのでガイドラインの改定という話なのかもしれませんが、将来的には業法の制定も考えられるように思います。
次が「(3)副業・兼業の推進に向けたガイドラインや改定版モデル就業規則の策定」なのですが、先日ご紹介した日経新聞の記事でも鶴光太郎先生が指摘しておられるように、常識的に考えれば副業・兼業すれば労働時間は長くなるのは自明であり、この「働き方改革」が長時間労働を目の敵にしているのとの整合性はどうなのさとは言いたくなりますね。でまあこれについては工程表の方には「海外では副業・兼業を通じた起業が多く、副業・兼業は起業の手段としても有効」と露骨に書いてあり、まあ以前も書いたように起業にともなうリスクを軽減しつつ、いずれは副業の方に専業化して会社は辞めてほしいというのが本音のようですな。
それに対して「副業・兼業を希望する方は、近年増加している一方で、これを認める企業は少ない」と言うのですが、それが制度的な問題だというのもやはり以前書いたとおりです。でまあ工程表のほうを見るとこう記載されてはおり、

雇用保険及び社会保険の公平な制度の在り方や、労働時間管理及び健康管理の在り方について、複数の事業所で働く方の保護等の観点や副業・兼業を普及促進させる観点から、検討を進める。
 ※複数事業所で合わせて労働時間が週20時間以上になっても、その労働者は雇用保険社会保険の被保険者とならないのが現状。

複数就業者への労災保険給付の在り方について、検討に着手する。
 ※複数就業者への労災保険給付額は、事故が発生した就業先の賃金のみに基づき算定しており、全ての就業先の賃金を合算した額を基に補償することはできないのが現状。

一応長年の宿題になっている労災保険給付日額についても触れられてはいますね。ただまあ上記参照先のとおり労働時間を通算して割増賃金や社会保険料を按分負担することは実務的に不可能に近く、実現可能な制度にしてくれないと結局は兼業原則禁止を続けざるを得ないのではないでしょうか。労災保険給付日額についても、まあ救済を手厚くすることに異論をさしはさむものではありませんが、しかし保険料はそれぞれの事業主が100%負担しているところ、事故が発生していない事業主の賃金についても給付日額に含めることの制度的な整合性に疑問があることも事実でしょう。
ちなみにこれについては他の様々な項目で言及されている「公務員自ら率先垂範」はさすがにありませんね(笑)。まあそりゃそうでしょうが。
次は「6.女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備」で、まず女性については冒頭の「正社員だった女性が育児で一旦離職すると、復職や再就職を目指す際に、過去の経験、職業能力を活かせない職業に就かざるを得ない」というのは重要な問題提起だと思います。でもその対策がリカレント教育ってのは微妙につながっていないような気がするのですがどうでしょうか。まあ就労していない期間にも職業訓練を受けるのはたいへんにけっこうなことですし支援するのもいいとは思いますが、やはり企業による受け皿の準備が最重要ではないでしょうか。長期休職制度やカムバック制度を導入した企業への支援の強化充実(あとの方で職安での情報公開とかは出てきますが)といったものは考えられていいように思います。
あとはまあ例の103万円から150万円という話で、そういえばこれについてはまだまとめて書いていませんでした。雑駁に言ってしまえば、まあ現状より改善されることは間違いないでしょうしそれなりに実情に合いそうな数字を持ってきてもいるのだろうと思うのですが、しかしまあ「一番有利な働き方」をめざしていろいろ調整するというのは変わらないのだろうなという感想です。あと、これもこのところよく言われる話ですが、

企業の配偶者手当に配偶者の収入制限があることも、就業調整の大きな要因の一つである。労使の真摯な話し合いの下、前向きな取組が行われるよう、働きかけていく。国家公務員の配偶者に係る扶養手当の見直しについて、着実に実施する。

ここでは本文で国家公務員について言及しています。まあ実際人事院ではいろいろスタディをはじめているようですが、これは給与なのでまさに民間準拠であり、まあだから民間に準拠しつつ「着実に実施する」という話なのでしょうか。まあ妥当なんだろうと思います。労使の取り組みについても、連合も配偶者控除の扶養控除への整理統合を主張している(と思いますが、いまウラ取りしてないので間違っていたらご容赦)ようなので、企業の手当についても配偶者から子へと原資をシフトすることには否定的でないはずで、各個別労使で進展するのではないでしょうか。
残りは若者対策で、年長フリーター対策として「同一労働同一賃金制度の施行を通じて均等・均衡な教育機会の提供を図るとともに、個々の対象者の職務経歴、職業能力等に応じた集中的な支援を行う」となにやら唐突に同一労働同一賃金を持ち出しているのはいい味出してるなという感じです。もちろん技能向上が待遇改善に結びつくことは望ましいわけですが。「若者雇用促進法に基づく指針を改定し、希望する地域等で働ける勤務制度の導入など多様な選考・採用機会を促進する」というのも余計なお世話だねえと思うところですが、まあこれは人手不足が継続して若年労働力がより貴重になれば各企業がそれぞれに知恵を絞るところではありましょう。「職業安定法を改正し、一定の労働関係法令違反を繰り返す企業の求人票をハローワークや職業紹介事業者が受理しないことを可能とする」というのは、要するにブラック企業は職安出入り禁止ということですね。
ということでまだまだ先は長いわけですが本日はこのあたりで。