上野善久『成熟産業の連続M&A戦略』

畏友、上野善久先生より、ご著書『成熟産業の連続M&A戦略:ロールアップ型産業再編の手引き』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

ロールアップ戦略とは多数の同業企業を買収することでシェア拡大と企業価値向上をもくろむもので、投資ファンドなどが採用することが多いようです。著者は企業経営者としてこれが成熟産業においてこそ有意義と洞察し、中小企業の同業他社を次々と買収して産業再編を実現した数少ない実践者であり、その手法を体系化したのが本書ということになります。
 合併会社において人的な融和が重要であることは言を俟たず、本書でもその実践例が広く論じられています。被買収会社のオーナー経営者を(組織内の管理職などではなく)理事として処遇し、その人脈や経験の活用を図った手法などはまことに水際だったものであり、人事管理の面からも興味深い本です。

日本労働研究雑誌2・3月号

(独)労働政策研究・研修機構様から、『日本労働研究雑誌』2・3月合併号(通巻751号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 例年2・3月合併号は「学会展望」が労働経済学研究→労働調査研究→労働法理論の3年ローテーションで掲載されますが、今年は労働法の順番ということで、この間のさまざまな業績に対して論評されています。座談会50ページというボリュームは従来と同様ですが、それ以上のボリュームでこの間の労働法主要文献目録がリストアップされているのが目をひきます。他の2つと違って、こちらは多数説に対する少数説によるコメントという印象があり(すみません偏見なので関係者の方は怒っていいです)、今回もパラパラ見た限りではそんな感じですが(重ね重ね失礼)、興味深い論点が揃っていますので勉強させていただきたいと思います。特集のほうは公募特集ということで投稿論文が3本集められています。

ビジネスガイド4月号

 このところいただきもの御礼が遅れており申し訳ありません。かなり洩れていると思いますがご容赦ください。
 (株)日本法令様から、『ビジネスガイド』4月号(通巻932号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今号の特集は「改正労災メリット制 不服取扱の変更と実務上の留意点」と「最新版厚労省モデル就業規則を踏まえた就業規則見直しの勘所」の2本です。厚労省のモデル就業規則といえば例の兼業解禁の際に業界ではおおいに話題になったわけですが、今回なにが最新になったかというと、働き方改革法案で努力義務化された「勤務間インターバル制度」、育介法改正で義務化された「産後パパ育休」、次世代法に基づく「不妊治療休暇」と3点のようです。いずれも厚労省としては大いにプッシュしたいということで入ったのでしょうが、しかし義務でも努力義務でもない、次世代法に定める一般事業主行動計画の策定指針で、行動計画に「盛り込むことが望ましい」とされただけの不妊治療休暇まで取り込むというのは少々欲張りすぎじゃなんじゃないかなあこれ。
 八代尚宏先生の連載「経済学で考える人事労務社会保険」は今回は「「100年安心年金」の見直し」ということで、来年(2024年)に財政検証が行われることをふまえ、現行の「100年安心」の問題点を整理し、年季支給開始年齢の引き上げが避けられないことを指摘しておられます。大内伸哉先生のロングラン連載「キーワードからみた労働法」は今回は「更新限度条項」が取り上げられ、昨年の日本通運事件の東京高裁判決についてその論点を詳細に検討し、実務的な留意点を提示しておられます。
 あと目をひいたのが「職務分析入門」という新連載が始まっていることで、まあたしかに(欧米に典型的に見られる)ジョブ型を本気でやろうとすると職務分析の復権というのもあるかもしれませんが…。

中小ならではの課題

 昨日(2/13)の日経新聞から。このところ春闘をめぐる記事が多くなっていますが、この日は7面に「中小賃上げ、横ばいどまり」との大見出しの記事が大々的に報じられています。価格転嫁が進まないことに加えて、中小企業の特殊事情として月60時間以上の割増賃金率が50%に引き上げられる(大企業は引上げ済)ことが上げられているのですが…。

…中小ならではの課題もある。23年4月から中小でも月60時間を超える残業の割増賃金率が従来比2倍になる。業務量の削減を進めて時間外労働を減らすことができなければ、ベアによる基準内賃金の引き上げは大幅な人件費増に直結することになる。
(令和5年2月12日付日本経済新聞朝刊から)

 「従来比2倍」というと猛烈なコストアップのように見えるわけですが、実際のところがどうなのか計算してみましょう。所定労働時間が月160時間、時間外労働は年間上限の720時間、うち6か月が複数月平均上限の80時間、他の6か月は40時間とすると、これまでは所定賃金が年1920時間分、時間外は720時間の25%増で900時間分、あわせて年間で時給の2820時間分ということになっていました。これが4月からは、年間120時間が25%増から50%増になりますので、増分は120×25%で30時間分、年間合計では2820時間分から2850時間分ということになるわけですね。2850÷2820×100で約1.1%のコストアップという計算になります。
 でまあ全員が法律で許される最大限の長時間労働をしていたとしても、総額人件費の中の月例賃金だけの1.1%のコストアップにとどまるわけですよ。実際には全員が全員こんな長時間労働をしているとは想定しにくいですし、割増賃金引き上げと関係ない賞与なども人件費の相当部分を占めているわけですし、割増賃金のない監理監督職なども一定割合いるわけですね。そう考えれば、この法改正による人件費増はまあコンマ数%にとどまると考えるのが妥当でしょう。
 ということで、記事にある1.98%とか2.85%とかいうベアの見通しの数字と比較すれば、割増賃金引き上げという「中小ならではの課題」のせいで「ベアによる基準内賃金の引き上げは大幅な人件費増に直結する」とはおよそ言えないよねえと、まあそう思ったことでした。まあこれでも大幅だと言うのであればそういう評価もあるかねえという、まあそういう細かい話です。

日本労働研究雑誌1月号

 (独)労働政策研究・研修機構様から、『日本労働研究雑誌』1月号(通巻750号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。今年のカラーは萌黄色というのでしょうか。

 本号の特集は「シングルの生活とキャリア」で、未婚化が進み、独身者・単身者の比率が上昇している今日にあって時宜を得たテーマといえそうです。多様なシングルについて様々な観点から分析が加えられており、勉強させていただきたいと思います。
 また、董艶麗・茨木瞬「日本における最低賃金の引き上げが雇用に与える影響ーメタ分析による評価」は「最賃引き上げは雇用を減らすか」という長年の論点について、昨今のわが国における積極的な最賃引き上げの影響を調べた40の論文のメタアナリシスで評価したもので、「改定された最低賃金を上回る賃金で働いていた労働者の雇用が失われ、賃金水準の低いパート・アルバイトの雇用が増えた」可能性が示唆されるという興味深い分析が示されていて注目されます。実はかなり以前(2007年だから15年前くらいか)に最賃引き上げはこれに近い結果をもたらすのではないかと書いておりましたので以下ご紹介させていただきます。

…もちろん、最低賃金を引き上げれば低所得の人の所得が増えるわけですから、その部分は格差是正に寄与するでしょう。ただ、その原資をどこから持ってくるのか、ということを考えると、連合が意図している(?のだと思うのですが)ように資本家への分配が減るとか、経営者や高賃金の管理職の所得が下がるとかいうことが起こりそうな気がしません。多くの経営者や管理職が働きに見合わない高い所得を不当に得ていると考える人もいるのでしょうが、現実には日本の経営者の報酬は諸外国に較べればいたって控えめなものですし、能力や貢献度が低くても年功的に高い賃金を受けている人は、このところの成果主義騒ぎなどの間にかなり減少しているはずです。多くの企業は、企業の成長につながるような、能力や貢献度の高い人の賃金を抑え込んで意欲の減退を招くことは避けたいと考えるのではないでしょうか。
となると、最賃引き上げの原資をどこから持ってくるかというと、民主党は底上げ路線を否定していますから総原資が拡大するというのはナシとして、起こりそうなのは次の2つです。

1.賃金上昇分を雇用減で吸収する。これは失業率の上昇につながります。
2.比較的賃金の高くない層の賃金水準を抑制する。単純にいえば、時給700円の求人が1000円に上がるいっぽうでこれまで1300円だった求人が1000円に下がる、といった調整が外部労働市場全体で起きそうです。

 この場合、最低賃金引き上げの格差是正効果は実はあまり大きくない、ということになるのではないでしょうか。

roumuya.hatenablog.com
 たいして近くもないかな(笑)。

ビジネスガイド2月号

 (株)日本法令様から、『ビジネスガイド』2月号(通巻930号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今号の特集は「デジタル給与解禁 制度解説&実務対応」で、賛否両論ありましたがこの4月からPayPayや楽天ペイなどのデジタルマネーでの給与支払が可能となったころからその解説です。現状すでにアプリのワンプッシュで銀行口座から移せるわけなのでわざわざ直接デジタルマネーで支給してほしいろいう人はどのくらいいるのかな。
 八代尚宏先生の連載「経済学で考える人事労務社会保険」は今回は「基礎年金の抜本的な改革を」とのことで、かつて議論された基礎年金財源の目的消費税への意向の再検討を提案されています。大内伸哉先生のロングラン連載「キーワードからみた労働法」は「カスタマー・ハラスメント」を取り上げ、カスハラは労働法で規定されたハラスメントには直接該当しないものの、安全配慮義務違反などの問題があり得ることを指摘し、具体的な裁判例や法的留意点などについて解説されています。
 

ジョブ型、試行錯誤

 あけましておめでとうございます。今年も本ブログをよろしくお願いいたします。


 さて、本日の日経新聞朝刊に「ジョブ型、試行錯誤」との記事が掲載されておりましたので以下見てまいりたいと思います。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)など経済環境の変化が加速するなか、あらかじめ仕事の内容を定めた「ジョブ型雇用」が普及してきた。働き手の専門性や意欲を高めやすく、経団連の提言から2年ほどで導入企業は予定も含めると大手企業の約2割となった。もっとも、仕事とスキルのミスマッチや賃金連動の遅れなど課題もみえてきた。
…日本では職務を限定せず年功序列の色彩が強い終身雇用が標準だったが、2020年1月に経団連春季労使交渉の指針でジョブ型を提言して以降、高度人材を求める大手企業で導入が加速している。日本経済新聞が22年5月に実施した調査では、有効回答を得た上場企業と有力非上場企業の計813社のうちジョブ型雇用を導入済みの企業は10.9%、今後導入予定の企業は12%に達した。
(令和5年1月5日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)

 「予定も含めると大手企業の約2割」ということですが、これをどう評価したものでしょうか。元ネタは日経新聞が毎年実施している「2022年スマートワーク経営調査」であるらしく(https://smartwork.nikkei.co.jp/survey/20221104.html)、結果のプレゼン資料(https://smartwork.nikkei.co.jp/survey/pdf/20221216_survey.pdf)も公開されているのですが、どんな設問だったのかが不明なのでなんとも評価しにくいところです。まあ上記リリースには「専門性の高い人材には、それにふさわしい雇用体系も要る。ジョブ型雇用について、導入済み、または22年までに導入する企業は108社あった。将来の導入予定を含む合計は187社と23%にのぼった」とありますので、日本であれば非正規雇用の相当部分が該当しそうな欧米の典型的なジョブ型について訊ねたものではなさそうです。「2020年1月に経団連春季労使交渉の指針でジョブ型を提言」とありますので、こちらの方でしょうか。
 そこで経団連の『2021年版経営労働政策研究委員会報告』を見てみると、経団連の提唱する「ジョブ型」は専門業務型・プロフェッショナル型に近い雇用区分をイメージしており、「欧米型」のように特定の仕事・業務やポストが不要となった場合に雇用自体がなくなるものではないとされていて、さらに、各企業においてメンバーシップ型のメリットを活かしながら適切な形でジョブ型社員を組み合わせた「自社型」雇用システムを確立することを主張していたわけですので、まあもともと専門職のためのものであり、この「ジョブ型」が主流になることははなから想定されていないということになりそうです。もちろん欧米の典型的なジョブ型とはまったく異なる日本型のいわゆる「ジョブ型」ということになるわけですが(というか、悪名高い1995年の自社型雇用ポートフォリオにおける「高度専門能力活用型」となにが違うのさという話になるわけですが)、だとしたらまあ23%でも多いという評価になるのかなあ。比較的人事制度改革に熱心と思われる「上場企業と有力非上場企業」限定の結果としては迫力に欠くような気もしますが…。
 さて記事はこう続くのですが、なるほど試行錯誤という感じです。

 ジョブ型に欠かせないのが、働き手が主体的に自らのキャリアプランを考え、実現に向けた能力開発に取り組む「キャリア自律」だ。企業側では各部署がそれぞれのポストに必要なスキルを明示して希望者を募る社内公募制をとることが多い。
 20年秋以降、ジョブ型を段階的に導入した三菱ケミカルは、主要ポストを社内公募に切り替えた。これまでに約2700のポストを公募したが、応募があったのは半分で実際ポストに就いたのは3分の1だ。部署間の人気の格差もあるとみられ、応募がない部署は従来の会社主導の人事などで埋めている。公募手法のノウハウ蓄積を急いでいる。
 24年度までに全グループ会社にジョブ型雇用を広げる日立製作所は、21年度に社内外で同時に約480件のポストを公募した。グループの人材が就いたのは3割で、残りは経験者採用だった。専門性の高いポストと社内人材のスキルのミスマッチもあるようだ。

 いやいや「主要ポスト」を公募して半分しか応募がないってことはありえないだろう。公募して応募がないポストが「主要ポスト」だってのは言葉の定義上どうなのさ。まああれかな、新規事業や傍流事業とかの「主要ポスト」で「部署間の人気の格差」があったということかな。いずれにしても人気のないポストを公募して半分しか応募がなく、しかも就任したのは3割にとどまるというのでは(まあ不人気ポストに応募する人は能力的に難があることは十分想定されるので就任が少なくなるのは納得できますが)、「キャリア自律」を支援しているとは言えないよねえ。しかも「応募がない部署は従来の会社主導の人事などで埋めている」という状態を「ジョブ型」と称するというのはどうなのよ。「ジョブ型」を自称するならせめて続く日立製作所さんのように「残りは経験者採用」としてほしいところですよね。もっともその日立さんにしても「グループの人材が就いたのは3割」というのですから、やはり社員の「キャリア自律」の支援の成果が上がっているとは言いにくそうです。このあたり、見出しにもあるように「試行錯誤」でご苦労が多々あるようですね。
 さて記事は「専門性の高いポストと社内人材のスキルのミスマッチもあるようだ」を受けてこう続きます。

 こうしたジョブとスキルのミスマッチ解消にはリスキリング(学び直し)も重要となる。KDDIは20年のジョブ型雇用の導入に合わせ、高度デジタル人材の育成講座「KDDI DX ユニバーシティー」を始めた。希望者がデータサイエンティストなど5つの職種に必要な知識を学べる。22年7月から段階的に全社員にDXの基礎知識を教える研修も始めた。1人当たりの研修時間は21年度に10.4時間で19年度比で倍増した。
 学ぶ内容や時間は働き手の自主性に委ねられている面もあり、本人のキャリア自律が不足すると学習効果が上がらないリスクもある。KDDIは社員と直属の上司が定期的な対話を通じて「能力開発計画」を策定し、希望キャリアに就くため必要なスキルを助言するなど、リスキリングの効率を高める工夫もする。木村理恵子人財開発部長は「会社の重点領域への人材配置と社員のキャリア選択のバランスは課題」と話す。

 いやその「本人のキャリア自律が不足すると学習効果が上がらない」というのはたぶん話が逆で、従来は本人のキャリア自律などおかまいなしで、まずは会社が人事権を行使して「重点領域への人材配置」を実施し、しかるのちに業務として必要なスキルを学ばせることで、効果的な人材育成を実現してきたわけですよ。もちろんその人事異動を不本意として退職する人もいるわけでしょうが、むしろそれがキャリア自律というものでしょう。まさに人材開発部長さんの言われるとおりで「会社の重点領域への人材配置と社員のキャリア選択のバランスは課題」であり、「会社の重点領域」の仕事が賃金が高いとかそれも含めて魅力的だという保障はない以上、学習機会を与えても社員が会社の思いどおりにそれをめざして学習することは期待できないとしたものでしょう。そこで1on1で上司が助言ということになるのでしょうが、それで「そうですかではそうします」というのがキャリア自律なのかというとあまりそんな感じもしないわけです。
 さて記事はいよいよ本丸へと進みます。

 職種別賃金が一般的な欧米と異なり、日本のジョブ型では仕事内容と賃金の連動が大きな課題だ。日本の標準的な職能給制度は依然として年功色が強い。これでは、仕事の市場価値に応じた高い賃金を提示し、優秀な専門人材を採用しやすくするジョブ型の利点を発揮しにくい。
 富士通はジョブ型雇用導入に合わせ、20年以降、段階的に働き手を職責で評価する人事制度を導入したが、基本的に職種別の賃金体系になっていない。「日本は欧米に比べ人材の流動性が低く、職種別賃金市場が成熟していない」(同社)ためだ。
 人工知能(AI)人材など一部の専門職について高い賃金で処遇したり、コンサル人材を集めた専門子会社に独自の賃金体系を導入したりしている。日立やKDDIも職種別賃金体系は導入せず、一部の高度人材やスキル重視の職種別採用などについて賃金を上積みしている。

 「職種別賃金市場」というのは聞きなれない言葉ですが、富士通の人がそう言ったのかな。人事の専門家が使う言葉ではないと思いますが、(同社)ということだから広報の人とかが言ったのかも知らん。
 それはそれとして、企業が人事権を行使して社員の職種変更を一方的・日常的に変更している日本企業で職種別の賃金体系というのはしょせん無理な話で、だから富士通さんもFUJITSU Levelという職務等級で処遇しているわけでしょう。本当に稀少な高度人材は富士通もおやりのとおり個別契約で「仕事の市場価値に応じた高い賃金を提示し」厚遇すればいいだけの話で、「優秀な専門人材を採用しやすくするジョブ型の利点を発揮しにくい」とか文句を言う必要はありません。このあたり、優秀な専門人材をダシにして中高年の賃金を引き下げたいという日経の本音が透けて見えるような気がしなくもない。でまあ案の定記事はこう続くわけだ。

 日本の職種間の賃金格差は10%程度だが、ジョブ型が標準の欧米は40%程度に開くという調査もある。職種別賃金の導入で働き手の一部の待遇が悪化する可能性があるのも、各社が制度刷新に踏み切れない理由のひとつだ。米人材コンサル、マーサーの日本法人の白井正人取締役は「職種別賃金への転換には、転職の増加などの労働市場の構造変化も必要で、移行には10~20年かかる可能性もある」とみる。
 DXの加速など急激な事業環境の変化に、既存の日本型雇用が対応できないことは明らかだ。ジョブ型導入企業で浮き彫りになった課題に向き合い、組織構造の変化に伴う摩擦を抑えながら働き方改革を継続できるかが問われている。

 コンサル氏は「移行には10~20年かかる可能性もある」と言われたそうですが、さあどうでしょう、それですむでしょうかねえ。日本社会というのは多分に日本企業の人事管理を前提にしてできているわけで、だから非正規雇用の割合が高まることが社会的に大きな影響をもたらしたわけです。「職種別賃金の導入で働き手の一部の待遇が悪化」するのであれば、それに応じて生計費を下げる必要があり、具体的には例えば教育の無償化などが考えられるわけで、それは実際ジョブ型の各国で現に行われていることでもあるわけです。このあたりは企業に言われてもどうしようもないわけでしてね。
 人事管理というのはベストプラクティスであり、日経さんも見出しにつけられたようにあれこれ試行錯誤を重ねてより望ましいものとしていくのが基本でしょう。2000年前後の成果主義騒ぎもそうですし(そこからカウントしてもすでに20年以上経過していて「10~20年」どころではない)、今回のいわゆる「ジョブ型」祭りもそうかもしれません。日経さんがイライラされるのもわからないではないですが、しかし現実にはそれなりに時間をかけて漸進的に進めていくしかないものだと思います。