中小ならではの課題

 昨日(2/13)の日経新聞から。このところ春闘をめぐる記事が多くなっていますが、この日は7面に「中小賃上げ、横ばいどまり」との大見出しの記事が大々的に報じられています。価格転嫁が進まないことに加えて、中小企業の特殊事情として月60時間以上の割増賃金率が50%に引き上げられる(大企業は引上げ済)ことが上げられているのですが…。

…中小ならではの課題もある。23年4月から中小でも月60時間を超える残業の割増賃金率が従来比2倍になる。業務量の削減を進めて時間外労働を減らすことができなければ、ベアによる基準内賃金の引き上げは大幅な人件費増に直結することになる。
(令和5年2月12日付日本経済新聞朝刊から)

 「従来比2倍」というと猛烈なコストアップのように見えるわけですが、実際のところがどうなのか計算してみましょう。所定労働時間が月160時間、時間外労働は年間上限の720時間、うち6か月が複数月平均上限の80時間、他の6か月は40時間とすると、これまでは所定賃金が年1920時間分、時間外は720時間の25%増で900時間分、あわせて年間で時給の2820時間分ということになっていました。これが4月からは、年間120時間が25%増から50%増になりますので、増分は120×25%で30時間分、年間合計では2820時間分から2850時間分ということになるわけですね。2850÷2820×100で約1.1%のコストアップという計算になります。
 でまあ全員が法律で許される最大限の長時間労働をしていたとしても、総額人件費の中の月例賃金だけの1.1%のコストアップにとどまるわけですよ。実際には全員が全員こんな長時間労働をしているとは想定しにくいですし、割増賃金引き上げと関係ない賞与なども人件費の相当部分を占めているわけですし、割増賃金のない監理監督職なども一定割合いるわけですね。そう考えれば、この法改正による人件費増はまあコンマ数%にとどまると考えるのが妥当でしょう。
 ということで、記事にある1.98%とか2.85%とかいうベアの見通しの数字と比較すれば、割増賃金引き上げという「中小ならではの課題」のせいで「ベアによる基準内賃金の引き上げは大幅な人件費増に直結する」とはおよそ言えないよねえと、まあそう思ったことでした。まあこれでも大幅だと言うのであればそういう評価もあるかねえという、まあそういう細かい話です。