民主党、最低賃金1,000円を主張

民主党が「格差是正緊急措置法案」なるものをまとめ、国会に提出するそうです。その目玉は「最低賃金を1,000円に引き上げる」ことなのだとか。

 民主党は二十七日、今国会の争点に掲げる格差問題を巡り、最低賃金を全国平均で時給千円に引き上げることを柱とする「格差是正緊急措置法案」の骨子をまとめた。政府が重視する教育改革やイラク復興支援などにも対案をぶつけ、七月の参院選に向けて安倍政権との対立軸を鮮明にする構え。与党は「実現性に乏しい選挙対策」と批判を強めており、国会論戦が白熱しそうだ。

 憲法改正などを参院選の争点に位置づける安倍晋三首相に対抗し、民主党は「生活に身近な問題」を前面に打ち出す戦略。格差是正法案には最低賃金引き上げのほか、(1)同一労働、同一賃金の実現(2)非正規社員の正社員化の促進(3)団塊世代の大量退職をにらんだ募集・採用時の年齢差別の禁止――などを盛り込んだ。
 最低賃金の一律引き上げを巡って首相は「中小企業の経営を圧迫しないよう留意すべきだ」と否定的。自民党中川秀直幹事長も二十七日、都内のパーティーであいさつし「平均千円では中小企業がやっていけなくなる」と指摘し、疑問を投げかけている。

実際には、民主党の法案も中小企業については最低賃金は800円とするというものになっているようです。なにやら一貫しない話ですが、与党サイドも割増率引き上げについては中小企業を救済するといっているのですから五十歩百歩でしょう。
さて、これに関しては、中小企業がやっていけるいけないの問題とは別に、本当に格差是正になるのか、という疑問もあります。
もちろん、最低賃金を引き上げれば低所得の人の所得が増えるわけですから、その部分は格差是正に寄与するでしょう。ただ、その原資をどこから持ってくるのか、ということを考えると、連合が意図している(?のだと思うのですが)ように資本家への分配が減るとか、経営者や高賃金の管理職の所得が下がるとかいうことが起こりそうな気がしません。多くの経営者や管理職が働きに見合わない高い所得を不当に得ていると考える人もいるのでしょうが、現実には日本の経営者の報酬は諸外国に較べればいたって控えめなものですし、能力や貢献度が低くても年功的に高い賃金を受けている人は、このところの成果主義騒ぎなどの間にかなり減少しているはずです。多くの企業は、企業の成長につながるような、能力や貢献度の高い人の賃金を抑え込んで意欲の減退を招くことは避けたいと考えるのではないでしょうか。
となると、最賃引き上げの原資をどこから持ってくるかというと、民主党は底上げ路線を否定していますから総原資が拡大するというのはナシとして、起こりそうなのは次の2つです。

  1. 賃金上昇分を雇用減で吸収する。これは失業率の上昇につながります。
  2. 比較的賃金の高くない層の賃金水準を抑制する。単純にいえば、時給700円の求人が1000円に上がるいっぽうでこれまで1300円だった求人が1000円に下がる、といった調整が外部労働市場全体で起きそうです。

この場合、最低賃金引き上げの格差是正効果は実はあまり大きくない、ということになるのではないでしょうか。最低賃金所得再分配効果はあまり大きくなく、そんなことをするくらいなら、所得税率の累進性を高めたり、資産課税や相続課税を強化して、救貧的給付を増やすといった直接的な再分配を行ったほうがよほどマシではないでしょうか(ちなみに私は資産・相続課税の強化による再分配強化を推奨します)。
もっとも、このところは「格差問題」「格差是正」が「貧困問題」「救貧」という意味で使われる(誤った用法だと思うのですが)ことも多く、そういう意味でいうならば、時給700円が1000円に上がれば救貧政策としての効果はあるでしょう。もっとも、前者のように失業が増えるとそこで新たな貧困が発生しますし、後者のケースだと貧困の定義ラインの置き方によっては時給の低下する人がやはり新たな貧困となる可能性がありますが、全体的には貧困の抑制には資するような気がします。ただ、これもやはり、やるなら労働市場に影響しない形、たとえば賃金で最低生計費を満たせない人には別途の福祉的給付を行うといった方法のほうがはるかにマシではないかと思います。