「2020年版経営労働政策特別委員会報告」に対する連合見解

 ということで例年どおり経労委報告に対する連合見解も発出されておりますので簡単に感想など書いておきたいと思います。
 まあ例年の話で、これから交渉事を始めようというときに甘い話はできないというのは作戦上当然ではなると思うのですが、それにしても昨年と較べても劣化したかなあという感は否定できません。というのも単なる「批判のための批判」が多々散見されるように思われ、中には単に罵ってるだけじゃないかという部分もなきにしもあらずです。
 たとえば最初の「1.全般に対する見解」の冒頭から(日本が)「どんどんと「しぼんでいく国」になってしまっている」「慌てて外国人労働者に門戸を開いたものの、日本を「選んでもらえない」実態も露わになっている」「税財政の問題も同様である。根本的なところにフタをしたままで、目先の支出削減策が毎年繰り返されるばかりである」などとdisに余念がないわけですが、しかし自ら賃上げが難しい理由を並べ立ててしまっているという感は禁じえないですよ…?(ところで連合って外国人労働者門戸開放歓迎なんでしたっけ?)少し後の方では「わが国が「しぼんでいく国」であるとの危機意識のもとに、内向き志向を脱却することが不可欠」とお説教しているわけですが、いや「しぼんでいく国」がお好きですねという戯言はともかく、交渉事というのは相手を見てやらないとねえと、正直思うなあ。企業というのは(大企業に限らず)国内のビジネス環境に支障があれば海外に出ていくことも多々あって基本的に外向きであり(だから学生が内向きで困るとか勝手なことを言い出すわけであってな)、あまり外向きになると困るのは(内向きにならざるを得ない)連合のほうじゃないかと思います。力むあまりに盛大に空振ってるような気がしなくもありません。
 なお「全般に対する見解」の最後では「…AIの導入見込みやその影響等を見通しながら、分野ごと・業種ごとに雇用の将来像を描いておくことが不可欠である。多くの労働者を雇用する責任ある立場として、そのことこそ強調すべきである」と力強く指導しておられるのですが、まあ言われなくてもやってますという話ではあると思います。ただまあ外国人労働力やAIの今後の見通しと一口に言われてもそうそう一筋縄でいく話のわけがなく、いろいろと苦心していて明快なものは見通せないということでひとつご容赦いただけないかとも思いますが…。「責任ある立場」だけに、そう軽々にもまいらないわけでして…。なお連合にも連合の責任があろうかとも思いますので、これは交渉事とは別に労使でしっかり議論すればいいと思いますし、実際やられてもいるのかな。そこには期待したいと思います。
 次に「2.連合「2020春季生活闘争方針」への見解について」というのが来るのですが基本的に企業内最賃の話だけで、経団連が産別最賃に否定的なのがご不満なようです。私も正直都道府県別最賃制度が確立した現状では産別最賃は屋上屋を架すものであって不要との意見ですが、それは制度としては不要ということであって、個別労使の交渉で企業内最賃をお決めになるのであればそれはそれで大変けっこうなことだと思いますし、産別がリーダーシップを発揮して横断的に取り組むのも立派な運動だと思います。経団連もそういうスタンスだと思いますしそのような書きぶりだとも思いますので、連合の見解を「今一度認識」するかどうかは格別「真摯な交渉に臨む」ことは間違いなかろうと思います。
 続く「3.2020年春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンスに対する見解」というのも基本的には中小企業対策の話だけで、あれだな今年は1.もそうでしたが中小企業対策に妙に力が入っているな。まあ格差是正は連合としても重点取り組み事項ということでしょうか。こちらも最後は「生み出した付加価値を大企業の中だけでなく、中小企業や様々な雇用形態で働く人も含めどのように分配すべきか、その手法についてこそ、経団連が示すべきである」となかなかに力強いですが、さすがにこれは経団連としても何でそんなこと命令されるんだという話ではないでしょうかね。いやもちろん大切な論点だとは思うのですが、ここはまず経団連と協議になるような提案を連合に示してほしいところではないかと思います。あとの方では「中小企業の経営基盤の強化と地域の活性化に向けたつなぎ役として「連合プラットフォーム」を立ち上げ、様々な関係者との対話の場づくりを進めており、経団連にも積極的な参加を期待したい」とも書いておられるわけですし、期待したいと思います。。
 あとは「4.個別項目についての見解」ということで、裁量労働拡大反対/高プロ導入は慎重に、はいつものとおりだな。働き方改革関連法については「法令遵守のための取り組みの徹底を求める連合の考え方と認識は同じ」「職場慣行や商慣行の見直しを含め、労使やサプライチェーンが一体となって取り組むことが必要」と労使での取り組みに意欲を示しています。実際、これまでも労使の努力で「上司が帰らないと帰りにくい」みたいなものはずいぶん改善してきたわけですし(もちろんまだ残ってはいるでしょうが)、こうした取り組みが経営にとっての労組が存在するメリットということになるわけですし。
 ハラスメントに関しては「消極的な対応」と批判していますが、これもやはり「衛生委員会の活用など、労働組合や労働者の参画を通じて、労使の取り組みを強化することが重要である」と指摘されているとおりで、労組が働きかければ経営も動くという案件ではないかと思います。70歳継続就業、障害者雇用についても、「報告」の記述を引きながら、要するに労使でしっかりやりましょうという理解でよろしいのではないでしょうか。
 そして個別項目の最後で産別最賃の必要性について今一度念を押しているのですが、ここにきてまたしてもdis節(笑)が復活しており「日本の多くの産業がもはや世界に伍していくことが難しくなっていることと二重写しになっており、遺憾を通り越して情けない」と、まあ気持ちはわからなくもありませんが、しかしこれまた自ら産別最賃できなくても仕方ないねえと自白してしまっているような気がしなくもない。まあ産別最賃の建前からして労使で生産性を上げて…ともなかなか言いにくいというのもわかりますが。
 でまあ「5.結び」では「報告」の文言を引きつつ「一人ひとりの働きがいを高め、持てる能力を最大限に引き出すための環境整備は、労使の責務と考える」と力強く述べられており、なかなかに頼もしいですね。「私たちは、日本の将来を切り拓く、意義ある2020春季生活闘争を展開していく」という決意とのことですから、ぜひとも各労使で有意義で建設的な議論を通じて誤りのない解決がはかられることを期待したいと思います。

  • なお最後に余計な一言ですが「成長の原動力は「人財」に他ならない」の「人”財”」ってのはなんとかなりませんかね。まあ単組がそれぞれの思いをもってこう記載したいというのであれば(個別企業も同様ですが)それはそれでいいと思いますが、ナショナルセンターの文書(しかも連合見解)でこういう妙なあて字を使うのはやめてほしいなあと…。まあ言葉も生き物ですし最近は行政文書でもちらほら使われているようなので、まあ致し方ないのかもしれませんが…。
  • なおこれについては経労委報告でも一か所「人財」が登場しておりまして、しかも経済対策の引用部分でのタイポというけっこうカッコ悪い(失礼)代物なので探してみると面白いかもしれません(こらこら)。