連合の見解と反論(4)

きのうの続きです。引っぱりますが、なにしろ大作なので。

(4)最低賃金制度について
 「報告」は、「生産性を無視した最低賃金の引き上げは中小企業のコスト構造を決定的に悪化させる」「屋上屋となっている産業別最低賃金は廃止すべきだ」としている。これは昨年1年間かけて纏めた公労使の議論の結果や、改正最低賃金法の成立経過を無視したものであり、暴論と言わざるを得ない。そもそも最低賃金の抑制によってしか競争力を維持できないとの主張を行うのではなく、いかにその当該企業の収益性を実現するかを追求すべきなのではないのだろうか。われわれは、改正法の趣旨を踏まえ、企業内最低賃金協定の運動強化や産業別最低賃金の新設・改定をはかっていく。

これは程度問題なのでなんともいえないでしょう。まるっきり生産性を無視して、それこそいきなり1時間1,000円に一律強引に引き上げたりしたら「中小企業のコスト構造を決定的に悪化させる」可能性もあるかもしれません。逆に、昨年実施された程度の引き上げであれば、ある程度時間をかければ人件費全体の中で吸収できる企業も多いものと思われます。ここの部分は「報告」はやや大げさな感があり、引き上げ幅が過大でないならば、連合の「最低賃金の抑制によってしか競争力を維持できないとの主張を行うのではなく、いかにその当該企業の収益性を実現するかを追求すべき」というのはもっともな主張でしょう。というか、基本線としては経団連も同様ではないかと思います。
なお「屋上屋となっている産業別最低賃金は廃止すべきだ」については、産別最賃はもともと最低賃金制度の普及を目的につくられたしくみであり、地域別最賃が全国に普及し、今回の改正で必要的設定に変更されたことを考えると、たしかにその役割は終わったと考えることもできるわけで、「暴論」はやや言い過ぎの感はあります。まあ、労組として運動論的に活用しようとの意気込みはいいと思うのですが、それにしては現状の地域別最賃の設定状況はまことに心細く、やや説得力に欠く感もあります。

(5)使い勝手のよい労働者をつくろうとする経営姿勢について
[1] 「報告」は、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けての中で『長時間会社にいたかどうかなどの「仕事の過程」ではなく、どれだけの仕事をしたかという「仕事の成果」を重視することが大事である』「これにより無駄な残業を抑制することができる」「生産性向上によるワーク・ライフ・バランスの実現」としており、ワーク・ライフ・バランスについても賃金抑制の一つの手段としかとらえていない。

うーん。「報告」を普通に読むと、「ワーク・ライフ・バランスについても賃金抑制の一つの手段としかとらえていない。」とはなかなか読みにくいと思うのですが…まあ、そうだと思い込んで読めばそう読めるのでしょう。ここに引かれている部分だけみても、たとえば『長時間会社にいたかどうかなどの「仕事の過程」ではなく、どれだけの仕事をしたかという「仕事の成果」を重視することが大事である』というのは、労働時間が短くても成果が多ければ賃金を高くしましょう、ということでしょうから(普通に読めば)、賃金抑制とは逆のような気がします。連合流の揚げ足取りを真似れば、結局無駄な残業を温存し、長時間労働して残業代がたくさんほしいのかな?などとからかってみたくもなります。まあ、いいがかりですけどね。

[2] また、「自主的・自律的な働き方」として、「一定の時間管理でなく、時間を自律的にコントロールすることのできる働き方を認めることによって(中略)従来の労働時間法制や対象業務にとらわれない、自主的・自律的な時間管理を可能とする制度の導入を検討する必要がある。」としている。これは、ホワイトカラー・イグゼンプションと同一の考え方である。しかも、「これまでの批判・問題指摘も十分踏まえ、国民に丁寧な説明が必要」としており、ホワイトカラー・イグゼンプションについては内容が問題だったのでなく、説明不足だったとしている。全く反省の色が窺えない。

「内容が問題だったのでなく、説明不足だったとしている。全く反省の色が窺えない。」というのは実際にそうなのでしょう。私も問題の多くは説明不足だったと思います(内容にまったく問題がないというつもりもありませんが)。で、経団連としても説明不足を反省してはいるわけですから、「全く反省の色が窺えない」ということにはならないかと。自分たちの気に入るような反省をしていないから反省の色が窺えないのだ、というのも強引な議論のような。

[3] さらに、職業安定法における求職者手数料の見直しや労働者派遣法の見直し、外国人労働者の受け入れなど、使い勝手のよい労働力を増やすために規制緩和が必要だという相変わらずの主張になっており、労働者保護の視点からの見直しが求められる。

このあたりは、本当に「報告」を読んで書いているのか?という感じで、「報告」を普通に読むと「使い勝手のよい労働力を増やすために規制緩和が必要だという相変わらずの主張」とは読めないと思うのですが…。これまた、頭からそうに決まっていると決め付けて読めばそう読めるのかもしれませんが…。まあ、有料職業紹介も派遣労働も外国人労働者もすべてけしからん、100%公共職業紹介、100%正社員、外国人労働者排除が正しいという立場で読むとそうなるのでしょうか。

[4] また、「報告」はワーク・ライフ・バランスについては触れているものの、長時間労働についての言及がなく、割増賃金についても触れていない。しかし、ワーク・ライフ・バランス実現の観点からは、長時間労働の是正は極めて重要な課題である。その一つとして時間外割増率がある。しかも割増率は国際的に見てもっとも低い水準にある。経営側もグローバルスタンダードを標榜するなら、割増率についてもグローバルスタンダードを受け入れるのは当然のことである。連合は今次春季生活闘争において長時間労働を是正するとともに、割増率の引き上げ等に積極的に取り組んでいく。

いや、「報告」には「中堅の男性従業員に多い長時間労働が是正されることで、夫婦で家事や育児をともに担うことが無理なく行えるようになり、女性の社会参画を促すとともに、少子化対策となることが期待される」と明確に書いてありますがな。それを受けて、連合のお気に召さない(らしい)『長時間会社にいたかどうかなどの「仕事の過程」ではなく、どれだけの仕事をしたかという「仕事の成果」を重視することが大事である』「これにより無駄な残業を抑制することができる」という展開になるのですが、だからといって言及しているものを「言及がない」というのはいかがなものかと。それから「経営側もグローバルスタンダードを標榜するなら」というのも妙な難癖ですねぇ。べつにすべてをグローバルスタンダードにあわせる(というか、グローバルスタンダードなんてものがどれだけの分野にどれほどあるのかも疑わしい)と言っているわけでもないでしょう。

[5] 「報告」では、「非正規従業員と長期雇用(正規従業員)との調和・均衡を図ろうという建設的な試みが動き出している」としているが、現実には正規従業員の有効求人倍率は低く、フリーターの問題等が解決できず、残っている状況を考えると「建設的な試み」に疑問も持たざるを得ない。

まあ「動き出している」という段階ですから疑問が残るのはもっともでしょう。ただ、正規従業員の有効求人倍率を高くすることが目標なのか、というのは議論があるかもしれません。一つの指標ではあるでしょうが…。

(6)国際競争力について
 「報告」は、「わが国が経済成長と豊かな暮らしを実現するには国際競争力を維持・強化していかなければならない」とし、「わが国の賃金等は依然として世界でもトップクラスの水準であり、賃金交渉の際には労使は常にこのことを意識する必要がある」としている。
 しかし、コスト削減=国際競争力強化という単純な発想のもとに、企業業績の好不調に関わらず一貫して賃金抑制を続けていることこそが分配の歪みと消費低迷の最大の原因なのであり、賃金抑制の姿勢をあらためる必要がある。また、「報告」は「最も大切な資源は人材である」としているが多くの職場で「現場の人材力」が低下しているのは、長期的視点に立った「人への投資」を軽視してきた人事政策の弊害によるものである。積極的に人材投資を行い、きちんと「人」を育てあげることが必要である。

実際には多くの企業で業績を賞与に反映していることを考えると、賃上げが少ないことが賃金抑制だ、という単純な理屈もどんなものかとは思いますし、業績不調のときにも賃下げがバンバン行われたかといえば必ずしもそうでもない(なかったとは申しませんが)ことにも留意が必要だとも思いますが、いずれにしても「報告」はそれこそマスコミが書きたてたように「賃上げ容認」とも受けとれるような表現も含んでいます。まあ、あとは本当に出せ、もっと出せ、というところなのでしょうか。
さて、この長大な「見解・反論」ですが、最後に「3.まとめ」としてこう締めくくっています。

 真面目に働いている人たちがきちんと報われ、雇用不安や将来不安が克服される社会を創り出してこそ、企業は「社会の安定帯」となる。そのことを忘れた賃上げ抑制論は、「危機と不安」の社会を生み出す以外の何ものでもないと断ぜざるを得ない。そのためにも、労使は社会的な公正分配やルールづくりに積極的な役割を果たすべきである。連合は、「マクロ的には労働側に1%以上の成果配分がなされるべき」との認識のもとに、可処分所得の引き上げをめざすとともに、経済成長に見合った非正規労働者を含めた労働側への成果配分を求めていく。また、「パート共闘会議」や「中小共闘」、「割増共闘」を強化し、格差社会の脱却に向け、未組織を含めた全雇用労働者の底上げ、時間外割増率の引き上げをめざす。

ん、「報告」は、というか、経団連は旧日経連時代から一貫して「労使は社会の安定帯」と主張してきています。企業に一方的に「安定帯」の役割を求めるのは酷でしょう。異なる主張と利害を持つ労使が協議することで着地点を見出していくことが「社会の安定帯」となるわけで、歩み寄りの精神が必要でしょう。最後は連合としてみれば当然の取り組みへの決意を示したもので、その意気込みでしっかり頑張ってほしいものです。
まあ、これから交渉事をはじめようというときですし、現実に交渉にあたるのは個別企業の単組なので、それを鼓舞するという意味でもこうした檄文は必要なのかもしれません。実際の交渉では、地に足の着いた建設的な議論を通じて誤りのない決着がはかられてほしいものです。