日本キャリアデザイン学会研究大会(2)

昨日の続きでこの週末に開催された日本キャリアデザイン学会の感想です。自由論題の3本めは(独)労働政策研究・研修機構(JILPT)の藤本真主任研究員による「65歳定年企業における処遇とキャリアをめぐる取り組み」で、まあ正直あまりキャリアとライフのマネジメントという感じはしないものでしたが、兄用は興味深いものでした。
藤本先生ご自身も参加されて2015年にJILPTが実施した「高年齢者の雇用に関する調査」を用いた分析で、この調査結果についてはJILPTのウェブサイトで公開されています(調査シリーズNo.156「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」プレスリリース)。n数は60歳定年企業が約4900、65歳定年企業が約840とかなりの規模の調査です。
得られた結果を例によって雑駁にまとめると下表のとおりです(これまた私の大変雑駁なまとめであって藤本先生からは困りますと言われそうですが)。

  65歳定年企業 60歳定年企業
仕事の内容 60歳をはさんで仕事の内容や責任が変わらない企業が6割 60歳移行に仕事の責任が変化するのが通常が46%で最多
配置の留意点 「技能やノウハウの継承に配慮」17%、「慣れている仕事に継続配置」54% 「技能やノウハウの継承に配慮」33%、「慣れている仕事に継続配置」76%
賃金水準 60歳直前=100とした61歳との比較で、中央値が99.9、平均値が87.8 60歳直前=100とした61歳との比較で、中央値が69.7、平均値が70.9
65歳以降の継続雇用 「自社での就業を認めない」14.1%、「希望者全員就業可」19.4% 「自社での就業を認めない」33.6%、「希望者全員就業可」7.3%
65歳雇用の課題 「特にない」36.6%、「管理職の扱い」11.9%、「年齢構成」13.3% 「特にない」26.6%、「管理職の扱い」25.8%、「年齢構成」22.2%

上記からのインプリケーションとして藤本先生は「65歳定年企業は60歳以降も戦力として処遇・キャリア管理する傾向が強く、それが65歳雇用の課題解消に結びつく」「シニア従業員は慣れた仕事だけでなく企業や自らの状況に応じた対応が必要」「企業負担にならない人件費管理・要員管理が課題」を指摘されました。
さて私の感想ですが調査結果についてはたいへん納得させられました。定年延長である以上は賃金は下げないけれど50代までと同様に配置転換や人事異動にも応じてもらわなければならない、という話だと考えれば65歳定年企業が技能伝承や継続配置への関心が低いのもうなずけると思ったわけです。
一方でこれを「定年延長が課題解決につながる」と解釈することには疑問もあり、なぜかというとこの調査によると65歳定年企業の割合が最も高いのは「教育・学習支援業」であって29.4%であり、以下高い産業・低い産業をみると次のようになっています。

産業 65歳定年比率(%)
教育・学習支援業 29.4
医療・福祉 23.1
運輸 21.0
飲食・宿泊 19.0
サービス 18.9
 
輸送用機械 6.5
一般機械 4.4
金融・保険 3.1

これをみると、65歳定年実施比率が高いのは人手不足などの必要に迫られている(運輸とか)か、高年齢者雇用と親和的で課題が小さい(教育・学習支援やサービスとか)か、その双方(医療・福祉や飲食・宿泊とか)かに該当する業界のように思われます。逆に、端的に体力的な問題が大きいと考えられる輸送用機械や一般機械といった製造業や、高年齢者の処遇や配置に困難の大きい金融・保険業で65歳定年が普及しにくいというのも非常に見やすい理屈のように思われます(小売りが意外に低いのも要員の過不足が背景にありそうな)。もちろん必要に迫られて定年延長した業界では「定年延長が課題解決につながる」取り組みも進められていると思います(自信はないが運輸などはそうではないかと思う)が、課題が小さいからやりやすいという逆方法の一面も相当にあるのではないかと思われます。
また、会場からは60歳以降の配置転換や人事異動についての違和感が多く表明されていましたが、これも導入比率の高い産業をみてみると、まあ監督者から作業員に変わるといったものを除けば職種変更などを行う必要性はあまりなさそうで、まあ取扱い品目が少し変わるとか勤務地や担当エリアが少し変わるとかいった話が多いと思われ、であればまあ65歳定年のほうが60歳定年・再雇用よりは柔軟だろうというのは実感にあう結果ではないかとも思いました。
あともうひとつ、学会主催のシンポジウムのご紹介をしたいのですが、残念ながら本日は時間切れなので明日以降としたいと思います。細々とでもなんとか続けたい。