毎週月曜日の日経新聞朝刊の女性欄に、立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏が「ダイバーシティ進化論」というコラムを連載しておられます。本日のお題は「経団連の就活ルール廃止 僕が賛成する理由」というのですが…。
経団連は2021年卒から、大学生らの採用面接の解禁日などを定めていた指針の廃止を決めた。僕の意見? 賛成に決まっている。だが、「外資系企業が先に採用してしまう」といったことが理由ではない。
…現在の時価総額が高い企業の顔ぶれを見ればいい。トップ5に並ぶのは、GAFA…とマイクロソフトだ。フェイスブックは2004年の設立で、人間にたとえれば14歳。…、日本が経済的に落ち込んだ主因は新しい産業を生み出せなかったからである。
では…製造業と、GAFAや「ユニコーン」と呼ばれる未上場の急成長企業は何が違うのか。人材に注目すると、製造業の場合、働く人に占める大卒の割合は半数足らず。一方、GAFAやユニコーンはほぼ全員が大卒で経営幹部は博士や修士ばかりである。高学歴で多国籍なうえ、個性を貫くオタクが多い。そうした人たちがワイワイ、ガヤガヤ議論しているところから新しい産業が生み出されている。
ここまで分かれば、日本にまた日が昇るために何が必要かは明らかだ。企業は世界中から学生が集まる魅力的な職場をつくりあげ、多様な人材を採用しよう。将来を見据え、そうした理由で就活ルール廃止が語られるなら大賛成だ。学生はガンガン勉強しよう。学生時代に必死に学んだ経験がなければ、好きなことを突き詰めていく力も培われず、米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏のような逸材は出てこない。
人は皆、顔が違うように発想や興味も異なる。多様な人が集まらなければ面白い考えは生まれない。成長のカギはそこにこそある。
(平成30年11月5日付日本経済新聞朝刊から)
これのどこがダイバーシティなのさ。要するに(使いたくないことばだが)低学歴はいらないって言ってるわけだろこれは?これをダイバーシティだと言い張るのであれば(まあ不可能ではないとも思うが)、少なくともこのお方の脳内の「ダイバーシティ」にはインクルージョンは一切ないということにはなるでしょうね。「人材に注目すると、製造業の場合、働く人に占める大卒の割合は半数足らず。一方、GAFAやユニコーンはほぼ全員が大卒で経営幹部は博士や修士ばかり」まあ、それは事実ではあるでしょう。しかし、それをこういう場で・こういう表現で表明する人を私は信用できないし、ダイバーシティを語ってほしくない。
同じように「人は皆、顔が違うように発想や興味も異なる。多様な人が集まらなければ面白い考えは生まれない」というのも、まあこの文脈で普通に読めば低学歴者は多様じゃないって意味に読めますよね。大卒でなくても「個性を貫くオタク」いると思うけどなあ。まあ意地悪な読み方なのかもしれませんが、しかし全国紙でダイバーシティを論じる文章がこれではまずかろうとも思う。
もちろん現実には、日本に限らず世界中の国々で相当割合の人が大学などに進学することなく職業人となっているわけですし、新卒一括採用はそうした人たちが円滑に職業生活に移行していける仕組みとして一定の評価を受けているわけです。でまあそれは大卒者についてもかなりの程度言えているというのも現実だろうと思いますが、まあこのお方はそういうことには興味ないんでしょうね。
ビジネスの世界では一世を風靡し、ダイバーシティ経営でも成果を上げておられてその業績は立派なものだと私としても率直に思いますし、私の大学はそういう大学にするんですというのであればそれはそれで経営方針としてはすばらしいものだとも思います(だから立命館もこの人を招いたのだろうと思わなくもない)。そのあたりも含めて経歴を拝見すると大学に進学しない人たちにあまり関心を持たないのも致し方なかろうかとも思いますし、実際問題として他人に書かせている可能性もかなりあると思うので同情しなくもない。しなくもないが、まあしかし語るに落ちてるよねえという感もあり、正直こういう人間観の人がダイバーシティを論じるのは私には抵抗があるかなと、まあその程度の話です。もちろんただの難癖であるというご感想もありましょう。ということで私がどう思おうがこういうのが好きな人というのも当然いるでしょうし、いるのが普通だし、いていいのだとも思います、といういつもの結論に到達して終わります。はあ。