裁量労働制実態調査に関する専門家検討会

 この19日に標題の会合が開催されたとのことで、あれこれお訊ねもありましたので簡単にコメントしたいと思います。まず現状をSankeiBizから。

 裁量労働制を巡る厚生労働省の調査で、不適切なデータが多数見つかった問題を受け、新たな調査方法を議論する同省の検討会が20日、開かれた。統計や労働経済学の専門家、労使関係者で構成し、対象者の抽出方法や具体的な質問項目、分析方法などを議論。年内をめどに報告を取りまとめる見通し。
 問題となったのは約1万1500事業所を対象にした「2013年度労働時間等総合実態調査」。裁量制で働く人の1日の労働時間を「1時間以下」と回答するなど、異常値が多数見つかった。さらに、厚労省がこの調査を基に、直接比較できないにもかかわらず裁量制で働く人と一般労働者の労働時間を比較した資料を作成したことも問題となった。
 政府は当初、先の通常国会で成立した働き方改革関連法に裁量制の拡大を盛り込む方針だったが、データ問題を受け、拡大部分を削除して法案を提出。調査方法を見直すとしていた。
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/180920/mca1809201043008-n1.htm

でまあ案の定というべきなのかどうか、私のツイッターのタイムラインにもこんなの(https://twitter.com/tokyoseijibu/status/1043746895300976640)が流れてきていて茶を吹いたわけですが、これプロフィールには「東京新聞中日新聞)政治部の公式アカウント」とあるんですが本当かしら。

東京新聞政治部 @tokyoseijibu - 9月23日 フォローする

安倍政権は、撤回を余儀なくされた制度でも法制化をあきらめていません。「働き方」関連法を巡る動きは、引き続き注視していきます。:

裁量労働制 拡大目指す政府 労働側の反発必至:政治(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201809/CK2018092302000129.html

https://twitter.com/tokyoseijibu/status/1043746895300976640

 実際のところはといえば、19日の検討会に提出された「これまでの経緯について」という厚労省の資料(https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000357443.pdf)にも記載されているように、裁量労働制の改正を法案から削除して「実態を厚生労働省において把握しなおした上で、議論をし直すことに」なったわけなので、「あきらめ」なければならないという話ではまったくないわけですね。
 さらに働き方改革関連法案の委員会採決にあたっての附帯決議をみても、衆議院では「裁量労働制について、労働時間の状況や労使委員会の運用状況等、現行制度の施行状況をしっかりと把握した上で、制度の趣旨に適った対象業務の範囲や働く方の裁量と健康を確保する方策等について、労働政策審議会において検討を行い、その結論に応じて所要の措置を講ずること。」と決議していますし、参議院では以前もご紹介したように「裁量労働制については、今回発覚した平成二十五年度労働時間等総合実態調査の公的統計としての有意性・信頼性に関わる問題を真摯に反省し、改めて、現行の専門業務型及び企画業務型それぞれの裁量労働制の適用・運用実態を正確に把握し得る調査手法の設計を労使関係者の意見を聴きながら検討し、包括的な再調査を実施すること。その上で、現行の裁量労働制の制度の適正化を図るための制度改革案について検討を実施し、労働政策審議会における議論を行った上で早期に適正化策の実行を図ること。」と、わざわざ「平成二十五年度労働時間等総合実態調査」を名指しした上で「正確に把握し得る調査手法の設計を労使関係者の意見を聴きながら検討し、包括的な再調査を実施すること」を求めているわけです(なおこの附帯決議を起草したのは立憲民主党所属の某労組の組織内議員と報じられていましたね)。
 したがって、この検討会はまさに野党が書いた参院の附帯決議の求めるところを厚生労働省が忠実に実施しているわけなので、安倍政権がどうこうという話ではない(仮に石破氏が総裁選で勝利して石破政権ができていたとしても厚労省は検討会を設置したはず)ですし、「あきらめていません」などとあたかも悪いことを目論んでいるかのように書かれるような話でもないはずです。
さらにいえば、附帯決議は検討結果を受けた調査の実施とそれをふまえた労働政策審議会での議論も求めていますし、加えて「所要の措置を講ずること」「適正化策の実行を図ること」まで求めているわけですから、まあおそらくはなんらかの法改正まで行われることが既定路線になっているわけです。
 その「所要の措置」「適正化策」がどのようなものになるかは今後の調査と議論次第というところでしょうが、すでに相当の議論の蓄積がある中で建議まで取りまとめられているわけですから、その内容はそれなりに尊重されてしかるべきではないかと私は思います。少なくとも、とりあえず法案からセットで削除されてしまった「企画業務型全体を対象とした健康確保措置の強化」とか「裁量労働制全体を対象とした始終業時刻決定の裁量を法律に明記」とかいったものはおそらく息を吹き返すのではないかと思います(なんかこれを忘れている人というのも多いような気がする。気がするだけですが)。
 ということで「財界が対象拡大を望んでいるから」みたいなことを言っている人もいるようですが(まあ財界が対象拡大を望んでいることは間違いないでしょうが)だからダイレクトに今回のこれだという話でもなかろうとも思うわけです。しかしあれだな、今回の検討会はおそらく調査の設計や手法などの技術論を議論するのだろうと思いますが(今回提出された「今後ご議論いただきたい事項について」という資料https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000357445.pdfを見ると結果の評価についても含まれていますのでやや踏み込んでいる感もありますが)、調査の設計や評価だけではなく調査実施体制の問題というのもあるような気はします。調査実施に費やすマンパワーが圧倒的に足りない(厚生労働省強制労働省と揶揄されるほど長時間労働なのは有名な話)ところにも相当に問題があるんじゃないかなあ。さすがにそこまではこの検討会では議論しないでしょうが、しかし報道にはそのあたりまで突っ込んでほしいものですが…。