規制改革会議、不当解雇の金銭解決検討を答申

今朝の読売新聞の1面トップで「不当解雇に金銭補償」と大々的な見出しが打たれていてほほおと思ったところ日経新聞の見出しは「解雇の金銭解決は先送り」となっていてあれ?。。。。
規制改革会議が経済成長に向けた規制改革案をまとめたことを受けての記事なのですが、どうやら内閣府のサイトにはまだ答申がアップされていないようなのではっきりしません。読売新聞によれば、

 裁判で解雇が不当だと認められた際に、労働者が申し出れば金銭補償を受け取って退職する「解雇ルール」について、労使や法曹関係者らで構成する有識者会議を設け、年内に検討を開始するよう求めた。労使の選択肢を増やすことで、速やかな解決を図る狙いがある。…
 金銭補償による解雇ルールは、初めて答申に明記された。解雇を巡る裁判所への提訴は2013年で966件で、解雇無効の確定判決は195件に上る。ただ、裁判で不当解雇と判断されても、職場にいづらくなって離職せざるを得ないケースが多く、新たなルールには、こうした「泣き寝入り」を防ぐ効果も期待されている。経営者側にも解雇紛争の決着の仕組みを明確にできるメリットがある。
 昨年の同会議でも議論されたが、労働組合などを中心に「安易な解雇につながりかねない」などの反発が出て、具体論には踏み込まなかった。今回は、労働者が申し出た場合に限り補償を受けるルールとし、関係者に理解を求めた。
平成27年6月17日付読売新聞朝刊から)

ということで、日経の記事はこうです。

 政府の規制改革会議(議長・岡素之住友商事相談役)は16日、約180項目の規制緩和策を盛る答申をまとめ、安倍晋三首相に提出した。焦点となっていた不当解雇の金銭解決制度は、検討のための有識者会議の設置を書き込むにとどめ、事実上の先送りとなった。…
 混合診療の拡大、農協改革など目玉のあった昨年に比べ、小粒な印象だ。不当解雇の金銭解決は昨年の規制改革の実施計画で検討する方針が決まっていた。厚生労働省は15日に海外の制度の実態調査を公表した。今回の答申では年内に「議論の場を速やかに立ち上げる」と明記したが、実施時期は示さなかった。…
 目玉改革に切り込めなかった一因は、昨年打ち出した農業・雇用関連の改革で、改正法案を国会に提出していることだ。…
 労働基準法改正案は時間ではなく成果に対して賃金を払う「脱時間給」制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)の新設を盛り込んでおり、民主党などは「残業代ゼロ法案」と批判している。労働者派遣法の改正案をめぐっても与野党が激しく対立する。政府が新たな雇用改革を提起すれば、国会審議がさらに難航する懸念があった。
平成27年6月17日付日本経済新聞朝刊から)

繰り返しになりますが答申本文を読んでいないのでなんとも言えないのではありますが、記事を読むかぎりではまだまだかなり慎重だなという印象は受けます。ということでどちらかというと日経の見出しのほうが実感に合うのかなとは思いますが、しかしこれもそうそう簡単に適切な制度設計ができるものとも思えませんので、(まあ日経が書いているような政治的な駆け引きは別問題として)時間をかけて慎重に進めるというのはそれなりに妥当な判断だと思います。
実際問題これは致し方のないところであり、つまりこのブログでも過去繰り返し書いているようにこの制度は解決金の水準次第という部分が非常に大きいわけです。日経の記事にあるように労働政策研究・研修機構(JILPT)が海外の事例を調査しており(http://www.jil.go.jp/foreign/report/2015/0615.html)、それを見るとアメリカを除けば各国ともそれなりに金銭解決の制度がありますし、解決金の相場のようなものができている国も多いのですが、しかしそれも各国の労働市場や雇用慣行の実情を反映していてかなり多様であり、また時間をかけて積み上げられてきたものであろうと思うわけです。そしてこれまた周知のとおりわが国の労働市場・雇用慣行は他国に比較してかなりユニークなものなので、他国の制度や水準をそのまま参考にすることは難しいでしょう。私の率直な感想としては他国よりは相当程度高いものになるのではないかという印象です。
もちろんこれについてはわが国でも訴訟・労働審判や各機関によるあっせんなどの実績が蓄積されているではないかという意見はあり、JILPTはこれも調べています(http://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/0174.html)。これをみると相当程度は泣き寝入り的な低額にとどまっているいっぽうでかなりの高額におよぶものもあってきわめてバラツキが大きくなっています。やはり案件ごとに個別の事情の相違は大きいものと思われ、これをみて簡単に相場が作れると考える人も多くないだろうなと思います。
ということで、私は過去何度か書いてきたように、使用者が金銭解決を望む際の最低額を裁判所が事件の個別事情を勘案のうえ判示するという方法がいいのではないかと思っており、その積み上げで相場観のようなものができてくるのがいいのではないかと考えているわけです。
ただまあ労働サイドとしてみれば金額の具体的な水準が不明なままに・あるいは海外事例の金額が独り歩きした状態で使用者に選択権を持たれるのは心配ですというのは情においてたいへんよくわかる話であり、であればまあ当初は読売の記事にあるとおり「労働者が申し出た場合に限り」ということで検討をはじめるのも致し方ないでしょう。それでまあ「これなら概ね大丈夫」となった段階で使用者にも選択権を渡すということでよろしいのではないかと。
いっぽうで、日経新聞に掲載されている八代尚宏氏の「不当解雇の金銭解決制度の検討を打ち出したことも評価できるが、目的が労働者の保護に偏っている面がある。外国企業が日本に進出しやすい環境を整える意味では、補償額への上限設定が必要だ」という指摘も、これを成長戦略として考えるのであれば重要なように思われます。ちなみに誤解なきよう為念書いておきますと八代先生は古くから一貫して泣き寝入り対策としての金銭解決制度の意義を強調しておられ(「八代尚宏 金銭解決 泣き寝入り」とかで検索するといっぱい引っかかってきます)、今回もその面は評価したうえで、対内直接投資増の観点が物足りないと指摘されているわけです。
ただまあ私自身は、不当解雇の金銭解決についてはいたって実務的なニーズから必要と考えており、つまり現実には読売の記事にもあるように解雇不当となっても復職することは難しく、現実にはそこからさらに長い時間をかけて退職と金銭補償の交渉をしているわけです。それが判決の中で金額が書かれればその時点で解決するわけで、解決の早期化という面で労使双方に必要性があると考えているだけなので、これが成長戦略ですとか言われてもそうなんですかという感じなのも事実です。日本の解雇法制の不透明さが(とりわけ米国企業による)対内直接投資の阻害要因になっているというのはよく聞く話ですが、正直どれほどかと思うところはあり、少なくとももっと重要な問題がいくつもあるような気はするのですが…。仮にそうだとしても、外資系企業に就職する人というのは「外資は解雇されやすい」ということは承知の上だろうと思うわけで、であれば(解決金の上限とかいう方法より)解雇事由・条件を予定したジョブ型の雇用契約を容認する(外資系限定は難しいとしてもそれこそ最低年収要件をつけるとかして)ほうが効果的なようには思います。
いずれにしても制度が安定的に運用されるためには労働サイドだけではなく経営サイドから見ての予見可能性は重要であり、そのために上限を設定するというのも一つの方法だろうとは思います。ただ、わが国の実情をみれば過去リーマン・ショック後の電機各社のリストラなどではたとえば48か月分とかいった高額の割増退職金が支払われています。これは労使で合意している以上その案件に関しては妥当な水準と言わざるを得ないわけで、それを考慮すると上限額はかなり高額なものとなるでしょう。まあこれは上限なので致し方のないところで、現実の解決金の額は事案に応じて、労働者・使用者双方にどの程度非があるかといった話や、それこそ企業の経営状態や支払能力といったものまで総合的に勘案して個別に(上限をある程度〜相当程度下回る水準で)決まって行くのだろうと思います。
いっぽうで上限があるなら下限はどうかという話になると下限を決めるのはさらに無理があり、要するに支払能力を考慮しない解決金というのもまあ実用的には無意味だろうなあと思うわけです。ということなので元に戻って私としては個別事案の事情を総合的に勘案して裁判所に決めてもらうのがいいだろうと思うわけです。いや判事さんも大変だなあと思いますが(いや本当に)しかしそれが仕事だろうと思わなくもなく。
最後にもうひとつ今回の答申が慎重だなあと思った点があり、なにかというと読売の報道にある「労使や法曹関係者らで構成する有識者会議を設け」(強調引用者)というところで、法曹関係者というのはまあ実務家、それも判事さんや検事さんが出てこられるとも思えないので弁護士先生ということになりましょうし、あとはせいぜい拡げても労働法学者くらいでしょうか。失礼ながら率直に申し上げてそれではなにも出てこないよねえという感を禁じえません(そもそも労働サイドのメンバーは弁護士含めて金銭解決自体に反対という立場なのでしょうし)。まあ上限も下限も相場もつくるのは無理ですということを確認して、それでも金銭解決が必要として労使が当面合意できる方法論(労働者が申し出た場合に限り、とか)を探っていくという方向になるのでしょうか。
ということで率直なところ現時点ではそれほどたいした話ではないという印象であり、読売が1面で大きく見出しにするほどの話かなあとは正直思いました(日経は3面)。他紙をみても朝日は1面ですがトップではなく見出しも薬局と理美容ですし、毎日は2面で見出しは耕作放棄地です。そうした中で異彩を放っているのが東京で1面トップに大見出しで「不当リストラ増懸念」「「解雇に解決金」導入答申」「経済界の意向優先」ってどこの赤旗ですか*1。いや東京新聞の読者はこういうのを喜ぶんですと言われればそれまでなのかもしれませんが。

*1:ちなみに本家赤旗は2面のニュース@NEWSというコラムの一部として他の話題とセットで報じているだけで拍子抜けするくらい小さい扱いです。まあ内容の問題点は別途ということでニュースとしては黙殺ということでしょうか。