八代尚宏『日本的雇用慣行を打ち破れ』

八代尚宏先生から、ご著書『日本的雇用慣行を打ち破れ−働き方改革の進め方』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

日本的雇用慣行を打ち破れ

日本的雇用慣行を打ち破れ

正直書名だけ見るとはいはいはいはいという感じなのですが、まあ売るためには仕方ないのかなあ。実際の内容はその印象とはまったく異なり、わが国の労働市場・雇用慣行の歴史と現状の的確な理解のもとに、その問題点を「労・労対立」の観点を軸に整理したうえで、幅広く多岐にわたる政策が提言されています。
たとえば、日本的雇用慣行を「打ち破れ」との威勢のよい書名にもかかわらず、長期雇用についても全否定ではなく「日本の固定的な雇用慣行は、とくに製造業のように企業内での熟練形成が重要な分野では、依然として優れたビジネスモデルである」(p.23)と高い評価を与えており、ただそれをあたかも「無形文化財」のように政策的に保護することを批判しているに過ぎません。解雇についても「緩和よりも正しいルール化を」と訴えています(p.147-、まあそれが規制緩和じゃないかという声はありそうですが)し、処遇についても一律的な均等ではなくさまざまな相違をふまえた企業内での均衡を求めています(p.218)。企業の人事管理についても「経済成長のスピードが減速し、企業の持続的な組織拡大の時期が終わると、これまでの人的資本への投資は過剰なものとなる。…社内のポストが不足し、人事部は社員の処遇で困難を抱えることになる」(pp.251-252)と核心をついています。さすが八代先生。
もちろん、勇ましい書名の本だけにたとえば年齢差別禁止などのようにさすがに行き過ぎで賛同できない提案もありますし、著者自身が長年規制改革のアイコンの役回りを果たしてきたという経緯もあって一部に極論や若干の逸脱もみられますが、しかし逆に言えば多くは程度問題や方法論における温度差の問題であり、方向性としては大筋で支持できるもののように思われます。しっかり読み込んで勉強したいと思います。